第26話 ブラック仮面
「…………え?」
「うわぁ~~」
それを笑顔でこっちに持ってくる。
そして手渡して来た。
反射的に受け取ってしまったが……これはないだろう?
デザイン的にあり得ない。
なんか禍々しいを超えて邪悪な感じまでしてくるんですけど。
まさかこれを身に着けろと…?
顔にガッツリ装備しろと!?
私は崩れかけた作り笑いの顔でクイラを見た。
彼女は自然な笑みでこちらを真っ直ぐ見て言った。
「それが当店一番のオススメだ」
「チェンジで」
「ない。他のアイテムやアクセサリーじゃ人間や異種族は誤魔化せても狂剣は無理だ、その『業を食らう魔道化の仮面』以外にはな」
「………」
「道化師は相手を化かす者、それには最高クラスの気配、認識、印象、存在感の撹乱と隠蔽の効果がある。如何なる能力や魔法を以てしてもお前の素性を見抜く事が出来る者はいなくなるだろう」
どんなに効果効能を推されても、こんなどっかの貴族が夜の舞踏会にでも出るために見繕うようなド派手なブラック仮面とか無理だよ。
私の何の取り柄もないこの平たい顔でこんなの付けたら痛ましさが半端じゃない。
「い、良いじゃないですかアビトさん! その仮面、貴方にピッタリですよ!?」
「……どの辺がピッタリだと?」
「それは道化って部分が……ブフォッ!」
道化師、つまりは邪神おじさんにはピエロがお似合いだと?
思わず想像して吹き出しておりますなこのちびキャラは。
おじさんがいつまでも甘いと思ったら大間違いだよ?
「この仮面を買う為の代金、この短剣で幾らか値引きしてくれます?」
「なっそれはなしッスよアビトさん!?」
「悪いね、ウチは骨董市じゃないから、それに元から変な霊体だか妖精だかまで引っ付いてくる不良品なんて置くつもりはないんだ」
「こっちもヒデェッ!?」
おっとこんなしょうもないやり取りをしてる場合じゃなかった。
この『業を食らう魔道化の仮面』……本当これを使うしか手はないのか?
やっぱり嫌すぎる。
私が手にした仮面を見つめて渋い顔をしているとクイラが商人根性を出してきた。
「もしバレるがそんなに嫌なら装備した者の身体をうっすらと黒いモヤが覆って姿を良い感じに隠せる『暗夜の外套』もつけるぞ?」
「それって効果はどれくらいですか?」
クイラは「少し待ってろ」と言うと別の中央の円形の陳列棚に向かいそこにかけられていた黒いローブを手に取った。
それを彼女が身に着けると本当に黒いモヤなのか霧なのかが彼女の身体をうっすらと覆う。
仮面では隠せてない顔の下半分も良い感じに隠れてる。
確かにあの『暗夜の外套』があればこんな冴えないおじさんがハッスルしてると勘違いされる可能性はグッと下がるな。
しかしそれでもな~。
悩む、実に悩む。
悩んで悩んで悩んだ。
また『狂剣の戦姫』に襲われたとする。
その時に今度は街中とかだったら間違いなく大惨事となるだろう。
元はハッピーエンドが好みなゲーマーおじさんとしてはそんな大量虐殺なんてノーセンキューなのは本音も本音だ。
私の脳裏に浮かんだのはあの名も知らない冒険者たちだ。
私を襲ってきた悪党共だが、あの最後はちょっと……。
しかも今度は何も悪くない人がとかなったら冗談じゃない。
悩みに悩んだが、私はこの仮面と黒いローブを買うことにした。
そしてブラック仮面と黒いローブを購入。
そのお金は何処から来たのかと言うと……秘密だ。
邪神パワーでちょっとお値段が高めになりそうなのをちょちょっと創造するとかなら……出来てしまうんでね。
私もウリーズゲルドで街中を様子見だけしていた訳じゃないのだ、しっかり先立つ物も確保してる。
ブクマや星評価をお願いします。