第21話 モブになるか
正直異世界の戦争なんて私には関係がない、私の現在の目的はのんびりとこの世界を放浪でもしながは観光することである。
戦争とか殺し合いなんてゴメンだね。
何が理由かは知らないが、いざとなれば邪神スキルでさっさとこの街からおさらばしようかと考えている。
宿屋に戻る前に街の城壁の出入口を確認した。
先程まで普通に人を通していた門は閉ざされその前には武装した兵士が門番然と何人も並んでいた。
その兵士たちへあれこれと不満を口にしていたのは旅人や行商人と思われる人々だった。
やれ何で通れないのか、早くこの街を出させろと怒鳴ってる人も見受けられた。
狼狽える街の人々、それ以外にも何やら噂話をしている人を見かけ、その人たちに話を少し聞いた。
するとやはりしていたのは先の蜥蜴人との戦争の話。
そして戦争となると領主の兵士たちは仕方ないとしてなんとそれ以外にも強制的な徴兵が行われるとのこと。
既に冒険者ギルドの冒険者とか全員召集されてしまったとか。
なんか結構無理矢理な徴兵だったらしい、権力とか脅しとかで無理矢理連れてかれた冒険者も少なくなかったとか。
そんな話を聞いた。
それで集めた人間が戦力になるとは私には全く思えない、むしろ指揮する人間が後ろから刺さないか心配だ。
……成る程それで速攻でここを後にしようとしたのがあの集まりって訳だ。
ご愁傷様としか言えない…。
冒険者になってなくてよかった。
瓦版を更に読み進めていく。
するとその戦争の引き金になった理由が書かれていた。
まあどんな理由であれ邪神おじさんが戦争なんかに巻き込れるつもりはないのだが…。
「えっと、『黄緑渓流の山道』にて大規模な破壊行為を確認。蜥蜴人の魔術師が広範囲殲滅の魔導兵器を開発した模様……それを危惧した…領主が……」
…………………。
う~~~~ん。
もう少し、この街で状況を…。
見守る事にしよう。
「うん、戦争なんてそんな滅多に起こらないかも知れないし!」
そして三日後。
どうにもなんない感じである。
「これはヤバイな……」
何でも一日前にこのウリーズゲルドの領主は街の兵士とか騎士や傭兵団、それに無理矢理集めた冒険者の軍団で蜥蜴人の国スケイルノートへと向かう途中にある関所を本当に攻撃したらしい。
ウリーズゲルドとスケイルノートの間にある関所ってそもそも人間側の物じゃなかったのね…。
まあそれいいとして。
その攻撃が見事に失敗。
それなりに被害を出しての敗走となったそうだ。
元から人間の街一つで異種族の国と喧嘩して勝てる見込みがあったのかすら私には分からん。
しかし関所すら越えられませんでしたっと言う時点でこの戦いの勝敗は見えているのかも知れないな。
そしてここで更なる問題が発生。
先に攻撃を仕掛けて失敗した以上、当然だが蜥蜴人からの報復は予想されるだろう。
それを恐れた領主は強権を発動して今このウリーズゲルドにいるそこそこの歳の男性は無理矢理兵士として徴兵されているのだ。
もう冒険者とか商人とか農民すら関係ない。
だってどう見ても私より歳上で私より身長もなかったりガタイも悪い人が兵士に連れて行かれるのを何度か見た。
たまたまこの街にいた旅人も連れて行かれた。
本当にそんな真似を続けて領主はまともにその徴兵された人間が自分や街の為に戦うとか思っているのか?
私は邪神インビジブルで姿を消しているので捕まってはいない。
だが多分、事の発端は『黄緑渓流の山道』での私と『狂剣の戦姫』の戦いの可能性が高い。
全て知りませんと言うわけにも…。
取り敢えずはもう少し身軽になるか。
邪神インビジブルがあるとはいえ、こうなった以上はこの青いフード付きマントと杖は邪魔だ。
自分は魔導師で~すっ格好をしてる人とか真っ先に徴兵されてたからな。
私は徴兵とか御免なのでこれらは直ぐに処分する。
宿屋のベッドの上にマントと杖を置いてっと。
邪神パワーで~~それ!
要らない装備を消滅させた。
これで見た目はモブな村人Aとなったな、これで多少はやり過ごせる筈だろう。
「…………ん?」
するとカランと何かが宿屋のベッドの上に落ちる。
それは意匠の凝ったデザインの短剣だった。
そう言えばこれ、結局私に刺さったまま持って来ちゃってたっけ…。
そう、あの『狂剣の戦姫』が私を殺した時の短剣である。
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