第14話 ラムヴォイド
私は邪神フライを既に発動している、ここはとにかく逃げることを選んだ。
戦う? 冗談じゃない。
こんな人の命を何とも思ってないような存在と争うとか真っ平御免だ。
関わるだけ碌でもない事になるのが目に見えている、ここは距離を置く一択だ。
私は無言で飛んだ。
高度はどんどん高くなり『黄緑渓流の山道』が眼下に広がる高さまで一気に舞い上がった。
更に高度を上げて雲とかある高さまで行けば多分逃げられ─
「話はまだ終わってないよ」
「!?」
背後に女忍者がいた。
どうやってこの高さまで、まさかジャンプで?
いやっ違う、なんか金色のサーフボード……いや大きな盾か?
それに乗ってこの高さまで上がって来たらしい。
こちらが振り返り後ろを見て女忍者を確認したとほぼ同じタイミングで向こうは右足を振り上げこちらにかかと落としをかましてきた。
一撃は邪神バリアが防いだ。
しかしその圧力は凄まじく、私は地面に向かって叩き落とされてしまった。
さながらさっきの彼女の登場シーンを邪神おじさんが再現したみたいになる。
ドーンとなって衝撃と音、そして土煙がワッサーーっとなる。
「あはははっ! 逃がさないよ…? おじさんが何者なのか、少し興味が出て来たトコロなんだからさ」
興味を待たれてもこちらは何も嬉しくない。
そもそもあのかかと落としも完全にこちらを殺ろうとしていた。
こっちが距離を置いているのにいきなり絡んでくるタイプの輩を想わせる。
何故か路地裏とかに連れて行かれ、金が無いから金を貸せとか言ってくる連中だ。
同じ国の言葉を話しているのに言葉が全く通じてない感が特に重なる部分を感じる。
端的に言って、こう言うヤツは邪神おじさん大嫌い。
仕方ないな、やぶ蛇よろしく下手な好奇心で手を出すべき相手じゃないと分かってもらう必要があるようだ。
試してみるか、主人公…いや、邪神専用の魔法の威力を。
「私はただの旅人なんですがね…どうしてもと言うのなら少しは相手になりましょう」
「ただの旅人? まっ戦ってみれば分かることかもね」
私は片手を女忍者に向ける。
それではいこう、ゲームと同じ仕様なら一応は呪文が必要なはずだよな。
あの金髪美人はそんなの唱えてなかったんだけど…まあやってやりますか!
「虚無より生まれしは万物を穿つ闇の衝角……貫け『ラムヴォイド』!」
厨二くさいセリフを言うと私の手の前に黒い魔法陣が現れた。
よかった、これで何も出なかったら死にたくなる気分になるところだったよ。
そしてその魔法陣の中心から現れたのか闇としか形容出来ない黒い角。
邪神的な知見で言えば、この世に存在してはいけない類の力の集積物って所だ、当たれば多分死ぬ。
鋭利に尖るその先端は女忍者に向けられている。
こちらの魔法を見た女忍者の表情はとても驚いている感じだった。
無論、ここまで来たらやっぱやめましたとか通じないのであしからず。
魔法陣から闇の槍が放たれる。
真っ直ぐ、とんでもないスピードだ。
しかし向こうは咄嗟に反応してみせた。
あの乗っていた大きな盾を前に出してこちらの魔法を防いだのだ。
マジですか、あの魔法を盾一つで防ぐとか有り得ないだろ。
普通なら盾ごと貫通出来る魔法なのに。
「いや~驚いた驚いた! アレはこの宝物で防がないと下手したら死んでたかもね~」
「普通は防げないと思いますよ?」
「全くだよ、そんな力…やっぱり人間が使える代物じゃないね、本当におじさん何者なの?」
「ただの旅人なのは本当ですよ、或いは観光客といいますか…」
「ふぅ~ん要するにま~だ何も話す気はないと? ならもう少し本気でやろうかな!」




