7pt どこも教育は失敗してる
アップデートが行われ、突如として悪役令嬢ポイントを得る方法が分からなくなってしまった。
とりあえず最低限赤子の間に取っておきたかったスキルは獲得済みだったからよかったものの、この後取る予定だったスキルのいくつもが取れなくなってしまう。
――詳細!詳細カモン!
光は急いでシステムを開き、アップデートの詳細を確認する。
そこには、女神からのメッセージというものがあり、
『はぁい。元気かしら?女神様よ。今回あまり悪役令嬢っぽくないことでもポイントが得られていたことが確認できたから、そこをアップデートで修正させたわ!設定もいろいろと変更して、個々の行動を専用の管理者が悪役っぽいかどうか判断して今後はポイントを上げることになるの。もちろん悪い事ばかりじゃなくて、今まで得られなかった行動でもポイントが得られるようになるから、頑張って悪役令嬢らしくしてみてね』
そんな内容だった。
制限が厳しくなったというわけでないなら安心できるところなのだが、管理者が判断というところが光にとっては気がかりなところである。その管理者がどういった基準で悪役令嬢らしいと判断するのか分からないのだから。
――面倒だけど、またいろいろと試して基準を見つけていくしかないよねぇ………。まさか仕様が変更されることがあるとは思わなかった。
少々げんなりしつつも、コツコツと積み重ねていく。
そして、
「お嬢様。本日はいつも以上に気合を入れてください」
「分かっておりますわ。黒金財閥の令嬢として、格の違いというものを見せつけてまいりますわぁ~オホホホォ~」
彼女は3歳になった。
立てるようになり話せるようになあった彼女はこの日、社交界デビューというものをすることにあっている。
他の財閥の子供たちと集まってパーティのようなものをするのだ。もちろん保護者同伴である。
「光、行こうか。くれぐれもパーティでは気を付けてね」
「分かっておりますわ。私の会社を狙っている下賤な輩が大勢いるのは仕方なき事。そんな愚か者たちには私のものに指1本として触れさせませんわ」
「そう。それならいいんだ」
父親は満足げに頷く。
自信のありそうな表情をして実に悪役令嬢らしい姿の光だが、その心は少し穏やかではなかった。
何せ、
――予想以上にポイントがたまらないままこの日が来てしまった……
そう。アップデートから2年以上経過したが、いまだにうまくポイントを得られずにいたのだ。
もちろん、いくつかポイントを得る方法判明しているし、1年に1000pt集めるめどは立てた。
だが、それでも魔窟に潜む魔物たちを相手にするには圧倒的に足りていないのだ。力が。つまり、スキルが。
「それでは行こうか」
「ええ。お父様」
父親の後に続き、プライベートジェットに乗り込む光。そのしぐさは子供でありながらも優雅で、品を感じさせるもの。
たとえ どれだけ心の中に焦りがあろうとも。決してその焦りを表に出すことはなかった。
――取ってよかった『焦るのは他人任せ』と『令嬢の仮面』。
こうして落ち着いていられるのは、スキルのおかげだ。
効果を出しているのは2つのスキルで、それぞれ
『焦るのは他人任せ』:心の焦りが所作に現れにくくなる。また、感情の動きを少し穏やかにする。
『令嬢の仮面』:常に表情が自身の意思で動き、それを不自然でなく見せる。
といった効果があった。
今後も使うであろう、交渉などといった場面で活躍しそうなスキルたちだ。
そんなスキルたちと挑む社交パーティ。
光が会場に案内されるときにはすでに数名の者がそのパーティには集まっていて、
「……思っていたより少ないですわ」
「ハハハッ。まあ、小さな子供で、さらにそれぞれの財閥の一定以上の地位に親がいないと参加できないからね」
「ふぅ~ん。そうなんですのね」
光は到着と同時に取り囲まれてよいしょをされるものだと思って身構えていただけに、拍子抜けである。
少し残念に思う気持ちも持ちつつ、とりあえず話し相手を探す意味も込めて近くにいる子供たちに挨拶をすることにしたのだが、
「ごきげんよう。私、黒金光と申しますの。あなたの名前をうかがってもよろしくて?」
「は?うるせぇ。俺に話かけんな」
「私をだれだと思ってるの?話しかける時は『どげざ』しながらにしなさい!」
「………………どこも教育に失敗していますのかしら」
皆ひどいものだった。
話しかけても傲慢な態度で、光へ威圧や見下すような言葉を投げてくるばかり。これが本当に世界の将来を担う財閥の子供たちなのかと不安すら憶えた。
まあ、それでも光の後からやってきた数名は、
「あっ。わ、私。赤金小百合だよ。よろしく、ね?」
「ふむ。僕は白金零里だ。よろしく頼む」
「おぅ!俺は黄金炎勝だぜ!よろしくな!」
悪くない反応も返ってきたりした。
まだそれぞれ礼儀作法などかなりつたないとことがあるが、まともに話せるだけましなように感じた。
そんな風にある意味社交界の洗礼を受ける中、もう時間ギリギリというタイミングで入ってきた少年が、光へと近づき、
「やぁ。初めまして。君が光ちゃんだよね?僕は紫金作弥。よろしくね!前から君の話を聞いてて、どんな関係性でもいいからぜひとも君と仲良くなりたいって思ってるんだ!……どうかな?」