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6pt 楽にいくわけがない

父親は定期的に光の下を訪れ、ご褒美と称して会社の譲渡や部下の選出を行なわせた。

結果として、


「………………光。もしかしたら、ちょっとご褒美あげすぎちゃったのかもしないよ」


「あぅ?」


「すごい経常利益出てて、今1番株価が急上昇してるグループになってるよ」


「あぅ~」


財閥の総帥である父親でもさすがに子供に渡すのはどうかと思うほどの売り上げと利益。

それを光が代表を務める会社はたたき出していた。光の行なった選択は、そのどれもがかみ合い相乗効果を出しまくったのである。


「相対的に財閥全体への評価も高まってるから悪いことではないんだけど………」


父親も利益を出して注目されていること自体はそこまで悪いとは思っていない。

しかし、世間がそこだけを見てくれないことを彼は知っている。注目されればされるほど、その代表が、


「光ってことが広まってるんだよねぇ。その所為ですでにいろんなところから光の縁談の話が来てるし……」


彼とてなかなかの親ばかである。

娘は嫁になどやらん!という気持ちは少なからず持っているのだ。それだというのに、思い描いていた以上に早いタイミングで、想定以上の量と質の縁談が舞い込んできている。


「でも、今決めるのはなぁ……」


たとえ相手が今どんな人間であろうと。光が大人になりその相手の隣を歩む時まで変わらずにいるかどうかなど分からない。

それに、


「今わかっている子たちを選ぶと、年の差がやはりね」


彼が人間性を知っている者たちは、最低でも5歳以上光とは年が離れている子供達だ。5歳差ならまだいいが、10歳以上歳の差がある相手だと将来苦労することになるのは目に見えている。


「1番はやはり誰とも結婚しないことなんだけど………………」


父親の目が光に向けられる。

その視線を受け、光は不思議そうに首をかしげることしかできなかった。


 ――結婚しないというのはさすがに財閥の外聞含めて無理じゃない?けど、下手に選ぶと悪役令嬢としての立場が難しくなったりとかするし……うぅん。悩みどころ。とりあえず、実際に相手を見てみるまでは分からないかな。この段階で決めちゃうのはありえないでしょ。


頭の中では色々と考えるが、赤子の身である今そういったことを口にすることはできない。

光は自身の価値とそれをいかにして悪役令嬢を演じることに使うかということで頭を悩ませるのであった。

ただ、そんな順風満帆な生活を送る彼女にとある日、不幸が襲い掛かる。




それは、会社をご褒美として父親から譲られてから数か月たち。

彼女が1歳の誕生日を迎えた日のことだった。


「おめでとう光!」

「おめでと~」

「おめでとう!」

「「「「おめでとうございます。お嬢様」」」」


大勢の使用人。そして、普段はなかなか集まることのない家族たちに囲まれて誕生日が祝われた。

その家族の中には今まで見たことのない顔もちらほら。


「初めましてになるな。光。わしはお前のおじいちゃんじゃ」

「私はおばあちゃんですよぉ~」


祖父や祖母、それに加えて叔父や叔母など親戚が出てくる。

その誰もが、そろって笑顔を浮かべて光の誕生日を祝っていた。もちろんそれは、


 ――うわぁ。明らかに下心がありそうなのもちらほらいるねぇ。もらった会社がすごい勢いがあるって聞いたし、仕方ないのかもしれないけど……


たとえ親族であっても信用などは一切できない。この世界はそういう世界である。

自身が力を得たからこそ浮き彫りになった自身が生きる世界の非情さに、光は少し気がめいる。

だがしかし、その後彼女には比べ物にならないほどの不幸が降りかかるのだ。

それが、


《アップデートが行われました》


「ばぅ?」

 ――はぇ?


聞いたことのない音声。

普段、悪役令嬢ポイントを得たことを伝えてくれる音声に声はそっくりなのだが、内容が全く違った。アップデートというからには何かが更新されたのであり、


《アップデートに伴いまして、一部機能が修正されます。修正内容は、悪役令嬢ポイントを獲得する条件になります。詳細をご確認ください》


「………………ばぅ」


悪徳令嬢ポイントの獲得条件。その単語だけで嫌な予感がした。

確かに彼女も思っていたのだ。

人を多少不快にさせるだけでポイントが得られるのは簡単なんじゃない?とか。人を不快にさせるだけなら別に悪役令嬢っぽくはないよね?とか。

だが、だからと言って、


「………………」


彼女は無言で自身がかぶっていたタオルケットを放り投げる。

それを見て使用人が頭を抱えるのが見えた。

しかし、彼女にとって今はそんなことどうでもいい。


「………………」


それよりも。

いつまでたっても、



 ――悪役令嬢ポイントが、もらえない!?



いつもならあの頭を抱えるそぶりが見られればポイントを得られたのは間違いなかった。

だが、そうだというのに得られなかったのだ。

彼女の思い描いていた簡単に悪役令嬢ポイントは得られるという常識と、楽に生き延びられるという未来は、一瞬にして崩れ去ってしまった。

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