5pt 選んだご褒美
幾人もの個人情報とこれまでの成果がまとめ上げられた書類。
財閥にとって非常に大切な書類だと思われるようなそれらが、光の前に無造作に置かれていた。そして、数枚の書類は彼女のよだれでびちゃびちゃになっている。
そんな中から現在、光は出世させる人間を選ぶ必要があった。
――さてさて、適当に選んでもいいんだけど、こういう時こそ力の見せ時だよね。
光はそう考え、自分の持っているポイントを確認する。
いくつも成長するスキルは獲得したが、まだポイントは余裕をもって余らせていた。緊急事態が起きた際に対処できるように。
その余ったポイントを使えば、
『狭き世界の最良』:選択肢の中から自身にとって最良の結果が出るものを選び出すことができる(1度に比較できる選択肢の最大数は10)
こんなスキルが獲得できた。
光もあまり迷うことなくポイントを使ってスキルを獲得。そして、誰を選ぶべきかとスキルに頼って比較し始めた。
1度に比べられるのは10人までなのだが、特にクールタイムなどはないようなので何度も使えばそれでいい。10人から最高の人間を選び、そこで出た1人とまだ比較していない9人を比較していく。そんな作業が数秒続き、
「うっ!」
「おっ。この子かい?特に目立つところもない本当に平凡な人間だけど……まあ光が選んだならそれでいいか。何かこの子が結果を出したら光にはご褒美を上げるよ」
「あぅ~」
ご褒美。その言葉に光は目を輝かせる。
――それがあるなら先に言ってよ!財閥の総帥がくれるご褒美なんて絶対いいものに決まってるじゃん!……スキル使っておいてよかったぁ~。
彼女がわざわざスキルを獲得したのも報われるわけである。
なんて思ってから数日後、彼女の期待通りご褒美を得ることはできた。
しかし、彼女の思い描いていた形通りとは少し違うもので、
「いやぁ~すごいね光。あの後光の選んでくれた子を調べてみたんだけど、なんか他の財閥のスパイだったみたいでさぁ。おかげであの微妙な立ち位置の本来見つけにくいスパイを見つけられたよ。ああいう立ち位置は数が多い分外に漏れてることが分かっても誰からか分からないからね。本当にうれしいし助かったよ。本当の目的は達成できなかったけどごほうびあげちゃう。期待してて」
――あぇ?スパイ???
光がご褒美をもらえる理由は、選んだものが結果を出したからではなく。
選んだ人間を調べてみたらスパイだったことが分かったからだった。
「しかも周辺を調べてみたら、向こうとの通信記録とかで向こうの情報もある程度引き出せちゃってさぁ~。短い期間ではあるけどあの財閥を完全に抑え込むことができたよ。本当にうれしいね」
スパイの周辺から引き出せるものが多かったらしく、さらにそれもご褒美へと響いたらしい。
かなり上機嫌な様子で、ご褒美の内容も光はできそうな気がした。
結果としてもらえたものは、
「この会社とこの会社は光にあげちゃうね。利益として入ってくる分は全部光のものだと思ってくれていいから」
何とも財閥の人間らしい発想である。
まだ1歳にも満たない子供が、いくつかの会社の代表となった。その会社の人間達には頭の痛い話だろう。
「赤字が出たらこっちで補填するから心配しなくていいからね……あっ。そうだ。どうせなら代表代行として経営する人間も光に選んでもらおうかな。ちょっと資料を」
父親が周辺にいる使用人に呼びかける。
すると数秒もしないうちに紙の束が用意され、
「はい。じゃあ、この間みたいに選んで」
光の前に並べられる。
しかもその数は、前回以上に多かった。
――う、うわぁ~すごい大変じゃん………………でも、会社の利益をこっちのものにできるなら絶対本気でやるべきだよね!手は抜かないよ!
その量に気がめいりそうになるものの、将来の資産のため。光は全力で人員を選ぶことになる。
前回と同様スキルで10人を比較しては1番良いものを抜き出して他の者達と比較していく。そして最終的に残ったのが、
「ばぅ」
「ん?この子かい?この子は結果は出せてるけど当たりはずれが激しかったりしてね……いや、まあ当たった分だけが光の利益になるんだから光としてはそれでもいいのか。考えたね、光」
何やら父親の方は勝手に妄想を広げているようだが、光はよく理解していない。
それよりも、自分の貰った会社というものが大きな利益を出すことが楽しみであった。
そして数日後、
「いやぁ~。光、すごいね!またお手柄だよ!光の選んだ子、国の調査員だったよ!変に紛れ込まれず会社の狭いポジションに押し込めてよかった!………………あっ。もちろん今回もすごい良いことしたから、ご褒美上げちゃうから」
「ばぅ!?」
どうやら財閥には、他組織のスパイも多く潜む場所らしい。
予期せぬ形でのご褒美に驚きつつも、改めて自分のいる場所が油断できないところであると思い知らされる光であった。




