19pt 入学式
未就学児の間は、ひたすら習い事をして取り巻きと遊んで、会社の運営に励んだ。
だが今日、その生活は大きく変化する。
「暖かな春の風に誘われ、桜の花も咲き誇る今日という日に………」
そんな挨拶を右から左に聞き流しつつ、光は小学校の入学式に参加していた。彼女の周りには見たこともないし知りもしない幼い子供ばかり。
この幼い子たちは光と同じく新入生。そして、
「づがれた~」
「帰るぅ~。もう帰るぅ~」
「ねぇねぇ。一緒にあっち行かない?」
新入生たちにうるさいものも多い。彼らはたいして教育もされていない、本当に一般家庭の子供達だ。
なぜ光とあろうものがこんな一般庶民の下々の子供たちに囲まれているのだ。
それはもちろん理由がある。
入学式も終わり、いったん教室に案内される光。
クラスメイト達も集まる中、彼女に挨拶の順番が回ってきて、
「初めまして。私、九郷光ですわ!」
黒金ではなく、九郷。
彼女は自身の本当の名字を隠し、偽名を使っているのだ。もちろん偽名と言っても、
「九郷重工の子供になりますわ」
光のその言葉で、周囲の子供の保護者達は表情を変える。
九郷重工というのは黒金財閥のグループ企業の1つであり、この学校周辺で幅を利かせている企業である。保護者たちの中には企業の社員もいるし、企業と取引している者も多い。
もしも子供が九郷重工の令嬢と名乗る光に迷惑をかければ、最悪生活していけなくなってしまう可能性があるのだ。
「いいかい?あの子にだけは絶対逆らっちゃだめだからね?」
「あの子とは絶対仲良くするんだよ?分かる?」
「絶対何もやっちゃだめだからね?良い子にしてないとだめだから」
すぐに我が子へ言い聞かせ始める保護者達。その姿を見ながら、
――これで実は黒金でしたぁ~って言ったら、絶対卒倒するよね。
等と少しいたずらしたくなるっ心も目覚めさせてしまうのだった。
彼女が名前を使っている九郷重工とはすでに話がついており、その娘という存在として光の戸籍まで作られている。
わざわざこんなことをしているのは、財閥全体でのしきたりのようなものが関係していた。
財閥では基本的に学生の間は子供に偽名を名乗らせて生活させ、正式に財閥の子供だとは発表しないのだ。
その目的は、財閥の子供という絶対的な立場でない状況という少し下々の者達に近い立場というのを知らせることだ。もちろんそれは名目上の話であり、財閥から発表しないだけで自分がその財閥の子供だというのを発表するものは多くいる。
そして、そんな話はすぐに広がるものだ。
ただ、
「こ、こんにちは」
「あら。ごきげんよう。どうかしまして?」
「あ、あのね!お友達になりたいなって思って………」
「ふむ。それは取り巻きになりたいということですの?」
「え?あ、あの?友達………」
光に話しかけてくる子供。恐らく保護者から仲良くするように言われたのだろうと推測できるが、それでもこれくらいの距離感で相手が来るのはまだ企業の令嬢という立場だからである。もし財閥の人間だと言ってしまえば、誰もが粗相をするのを恐れて子供たちを近づけさせようとはしない。
まだ企業の、しかも中堅であるからこそ保護者達も少しのミスなら許してもらえるという甘い気持ちも持てるのだ。
「ということで、これで取り巻き5人ゲットですわ!!」
「お、おぉ?」
「すごい、ね?」
子供たちはよく分かっていないようだが、話かけてくる子供たちは光が強制的に取り巻き枠へねじ込んだ。
本人たちはよくわかってないようだが、途中で保護者が説得したりしてとりあえず取り巻きということは確定している。
《悪役令嬢ポイントを10pt獲得しました》
《悪役令嬢ポイントを10pt獲得しました》
《悪役令嬢ポイントを10pt獲得しました》
《悪役令嬢ポイントを10pt獲得………
取り巻きの獲得により悪役令嬢ポイントもおまけのようについてくる。
だが、
――あれ?思ってたより低い。
得られたポイントは想定していた以上に低いものだった。
下僕(作弥)や炎勝といった者達を取り巻きにしたときは30ptだったというのに、今回はその半分よりも少ない。
――本人たちが理解していないから?でも、それって悪役令嬢っぽさにはそこまで関係ない気がするけど。
よく分からないというのが感想だ。
だが、低かったのだから仕方がない。原因を見極めて、そして今後につなげていくしかないだろう。
「では取り巻きたち、私の取り巻きとして恥ずかしくない行動をとるんですわよ!」
「「「「はぁ~い!」」」」
「大人の言うことはきちんと聞くこと!そして、毎日学校に来ることですわ!分かりまして?」
「「「「はぁ~い!」」」」
光の音場に取り巻きたちは元気をいい返事をする。恐らく明日には忘れていると思われるが、悪役令嬢っぽさを出すためにも取り巻きへの締め付けは大切だと考えたのだ。
本当は大人の言うことを必ずしも聞く必要などないし、必ずしも学校に来る必要だってない。
だが、それでもこういったことを強制するのが光の生きる道だと思うのだ。




