1pt 生まれた世界
――うそでしょ!?本当に転生させられた!?
女神からいろいろと、というにはあまりにも短い話を聞かされ、理解もあまりできていないままに転生させられた。
そんな彼女の名前は、黒金光。光という悪役令嬢には壊滅的になまでに似つかわしくない名前だが、それでも彼女は悪役令嬢をしなければならない。
――さすがに10歳で死ぬのは嫌だよねぇ。20歳まで悪役令嬢すれば呪いは終わりだと思うし、そこまで我慢すればあとは自由なわけでしょ?
何をもって自由というのかは分からない。悪役令嬢はたいていの場合自分の罪により身を滅ぼすものだ。悪役令嬢を続けていたら、そこまで生き続けていられるのかも分からない。
ただ他の悪役令嬢と言われる存在とは違い、光には力がある。女神から貰ったチートが。
――えぇと。何ができるのかというと、例の悪役令嬢ポイントとやらでアイテムだったり能力だったりがもらえる、か
だいたいアイテムは1ptから10ptで交換できるものが多い。スキルの方は10ptから70ptが大半だ。とはいえアイテムも能力も1000ptを超えるようなものまでざらにあるが。
「あぅ~」
光は赤子らしく言葉にならない唸り声を出しながら考える。
まず問題なのが、この世界のことだ。悪役令嬢というのだから乙女ゲームのような世界だろうとは思うのだが、自分がどんな身分なのか分からないのだ。
ファンタジーで考えれば、貴族の令嬢である可能性は高い。だが、貴族の中でも立場はいろいろある。公爵令嬢なのか子爵令嬢なのか。そんな候補でもかなり違ってくるわけだ。主に、できることや身に着けられる技術の幅が。
「あっ。お嬢様。起きていらっしゃるのですね」
「あぅ?」
声が聞こえたので目を向けてみれば、そこにはメイド服を着た使用人のような女性が………………存在していなかった。
残念ながらメイド服ではなく、ピシッとスーツで決めている。光のイメージする悪役令嬢の使用人とは見た目が大きくかけ離れていた。
彼女の心に小さな違和感が芽生える。
「では、少し屋敷をお散歩しましょうか」
「ばぅ」
使用人の提案に心が動き、違和感は一瞬にして頭の片隅に追いやられた。
彼女は使用人の腕に抱きかかえられ。部屋から出ていく。
部屋の外には使用人らしき者たちや護衛と思われる者達が幾人も待機していた。まさに貴族の使用人らしく彼ら彼女らは廊下の隅へ並び、きれいなお辞儀を見せる。
その敬意は間違いなく、光へとむけられていた。
――うん。まさに貴族って感じ。赤子の周囲だけでもこんなに人がいるってことは、さすがにイメージ的に子爵以上ではありそう
「ほら。お嬢様見てください。この眼下に見える下々の者達が、あなたを支える市民たちですよ」
光が一人貴族らしさに浸っていると、彼女を抱えた使用人がガラス張りの壁から彼女に外の風景を見るよう促す。
目の前には青空が広がり、鳥のような何かが飛んでいた。そしてその眼下には、ゴマ粒以下の人々が存在していた。
そして、
「………………あぶぁ~」
彼女の口からは、言葉にならない声が漏れた。
なにせ、
――なんで!?なんであんなものが見えてるの!?
彼女にとってこれは、まったく予想していなかった事態だった。
彼女は悪役令嬢と言われ勘違いしていたのだ。
(なんで車が、道路が、電柱が。そして、ドデカいビルがあるのぉぉぉぉ!!!!!!??????)
違和感自体はあった。メイド服ではなくスーツだったし、一部とはいえ廊下の壁一面がガラスなど、中世風ファンタジー世界ではありえない。
だがそれでも悪役令嬢という単語に引っ張られ、思いつけなかった。この世界が、ほぼ地球という星と変わらないことに。
――あっそうだ!ちょっと待って!ここがファンタジーな世界じゃないってことは、もしかして私も、
彼女は一つの可能性へ行きつく。
その可能性は非常に危うい斧であり、そして同時に、
「お嬢様は黒金財閥の一員として、この下々の世界を導くお立場にあるのですよ」
非情な現実だった。
彼女は財閥の人間であり、決して貴族ではない。いくら経済的な力に差があろうと、権利に差がないことは予想できた。
――いくら後ろ暗いお金でもみ消せるとはいっても、やれることには限界がありそうだなぁ……
彼女の悪役令嬢としての道は、非常に険しいものであることが明らかになった。
そしてそれはつまり、この先彼女が生き残ることも危うくなるということだった。
「あぅ~」
「おや。もうお疲れになってしまわれましたか?」
使用人に抱えられて自室へと運ばれていく。
それから彼女は、今まで思い描いていた漠然とした未来のイメージを塗り替えて新たな計画を立てていく。
彼女のイメージのようにいかにというのなら、まずは確認しなければならない物がある。
(悪役令嬢ポイント。これが何なのか)