旦那様の事情
お読みいただけたら幸いです。
私は幼い頃に母を亡くし、兄弟もなく寂しい思いをしていた。
父は私を気にかけてくれたが、その思いだけでは寂しさは紛れなかった。
執事やメイドがいても、私の心の支えになってくれる者はいなかった。
学生の頃にセーラという7歳年上の女性と出会った。
奔放な女性で私はすぐに魅せられてしまった。
卒業してもその関係は続き、セーラに飽きることはなく、手放せない女性になった。
小さな屋敷を買い、そこに住んで欲しいと頼み込んだ。
初めは渋っていたが、小さな屋敷に一緒に住むことを了承してくれた。
父が亡くなった。本当にあっけない死だった。
病気だったらしいが、私には教えてくれなかった。
私のことを考えていてくれたのなら、病気のことは教えてほしかった。
覚悟を決める時間が欲しかった。
悲しくてたまらない時、セーラがずっと私を支えてくれていた。
セーラに結婚を申し込んだが断られてしまった。
自由に生きたいからと。
私はとても悲しかった。
父の遺言書を開封することになり、そこでミリーナという女性と婚約状態であることを初めて知った。
ミリーナという女性と結婚して、沢山の子供を作って家族に囲まれた幸せな未来を掴みなさいと書かれていた。
私はセーラのことを愛していたし、顔も知らないミリーナなんていう女性と結婚などしたくなかったが、父の遺言だったので仕方なく結婚することにした。
すべてサースに任せて、私は式の当日にそこに居ればいいようにしてもらった。
何度もサースに文句を言われたが、私はセーラといることを選んだ。
式の当日、初めてミリーナと会った。
まだまだ子供だと思った。
学園を卒業してまだ1年も経っていないということなのでセーラと比べるのは間違っていた。
早くセーラの元に帰りたいと思いながら初夜を済ませ、意識を失ったミリーナを置いて私はセーラの元に帰った。
その日のセーラは積極的で、ミリーナをどう愛したのか同じようにして、と大層盛り上がった。
その後もセーラに、遺言なのだからたくさん子供を作ってきなさい。と送り出され、帰ると炎のように燃え上がった。
ミリーナが3ヶ月ほどで妊娠が解り、私の仕事はここまでだと、自宅には帰らなくなった。
セーラは少し、泣いて愛し合った。
セーラは子供が出来ず、離縁された経験があったと後になって知ってしまった。
サースは3日に1度こちらに来て自宅の細々したことを伝えに来た。
ミリーナが不安がっているのでせめて週の半分でも、1日でもいいので帰ってくるように言うが、私の責任は果たしているので聞き入れはしなかった。
セーラとの生活は、セーラに翻弄されっぱなしだった。
セーラの願いは何でも叶えてやり、行きたいところにも一緒に行った。
時には喧嘩もしたが、いつも私が折れて謝って許してもらっていた。
サースの使いの者がやって来て、子供が生まれたので一度戻るように言われた。
セーラにも戻るように言われたので仕方なく戻った。
子供はしわくちゃで真っ赤で可愛くもなんともなかった。
ペーデハイスと名付けて抱くことなく私はセーラの元に帰った。
セーラにいくらなんでも奥様によくやったくらい言ってあげなさいと笑われたが、セーラが不機嫌だったので、そんな必要はないと言い、セーラと激しく愛し合った。
子供が1歳になったとサースが言ったので、また子作りに向かわなければならなくなった。
正直、自宅に行くとセーラの機嫌は悪くなるし、睡眠不足にもなるので嫌だったが、父の遺言では仕方ないと諦めた。
妊娠がわかり、これでまた役目は終わったと安心した。
セーラの機嫌が良くなり、楽しい毎日を過ごした。
子が生まれ、名付け、1歳になり、また子を作り・・・。
6人も子供を作ったのだからもういいだろうと思った。
3人目位からはミリーナも酷く嫌がり、最後は叩いて言うことを聞かせた。
私が子作りに出かけている時、セーラも外で奔放に振る舞っていたことは知っていたが、私の元に帰ってくるならかまわないと思っていた。
結婚しているわけではないし、私の望みではないとしても、私も別の女性と関係を持っていたので仕方ないと思っていた。
少々のヤキモチは互いへのスパイスになっていたしその後の激しい愛は満足感を覚えた。
セーラが時折帰らない日が出てきた。
私はもう、自宅には帰らなくなっていたのに。
少し許せない気持ちが出てきて、セーラを詰るようになってしまった。
後で反省するのだが、帰って来なかった日の次の日は大喧嘩に発展するようになった。
セーラは若いあなたは刺激的だったし、可愛かった。
結婚したあなたは私の元に引き戻そうと躍起になったけれど、私の元で安穏と過ごしているあなたは退屈でたまらない。
私は刺激が欲しいのと言って、二度と戻らなくなった。
サースが来て、何時ものように自宅の報告を済ませて帰って行った。
その時ふと、私には帰りを待つミリーナと子供達がいると思い出した。
私は帰る準備をして自宅へ戻った。
自宅に戻って子供達を見て驚いた。
大きくなっていることに。
長男はもしかすると学園に通い始める年頃になっているんじゃないだろうか?
私を見る目が蔑んで軽蔑するものだった。
父親に向かってなんて目で見るのかと腹立たしく思った。
小さな子達は私を見て怯え、泣いた。
ミリーナとの関係は、抱けばなんとかなると思っていたので帰ったその日にミリーナの寝室に行ったが鍵がかけられていて入れなかった。
明日の昼にでも抱けばいいかと引き下がったが、ミリーナの側にはサースやメイド達の誰かが必ず側にいた。
ミリーナからおかしな質問があり、私が私の家にいて何が悪いのかとサースに言った。
何も出来ないまま1週間が経つとミリーナと子供達がいなくなった。
何処に行ったのかサースに訊ねると、長男がミリーナの実家に行こうと出掛けて、それから帰ってきていないと言った。
いつ帰ってくるのか訊ねたが、分かりませんと答えただけだった。
早く帰るように手紙を出せと伝えると、後日帰ってきた返事は、旦那様はお仕事にいかれましたか?というものだった。
サースに一体どういう意味だと聞いた所、セーラのもとに行くことを仕事だとミリーナには伝えていたと答えた。
ミリーナと子供達は1年経っても2年経っても帰ってこなかった。
数年経って長男がそろそろ学園を卒業する年になっているんじゃないかと気が付いた。
サースに訊ねると、もう、結婚されていますと教えられた。
私は腹が立って、私の意向なく、勝手に決めるとはどういうことだとサースを怒鳴りつけると、サースは平然とした態度で、お子様方に父親は居りませんでした。
と私の味方であるべき執事のサースに冷たい目をしてそう言われてしまった。
それからも何度もミリーナと子供達に帰ってくるように手紙を出させたが返事はいつも同じだった。
サースに旦那様がお帰りにならなければ、もしかしたら跡を継いでくれるお子様がいたかもしれませんが、帰ってこられたことで家を継いでくださるお子様はいなくなってしまいました。と淡々と聞かされた。
一番下の子が他国の王女と結婚したと聞かされ、すべての子が婚姻し、他家へと出ていきましたとサースとメイド達の辞表を渡された。
サースはミリーナの元で働くことが決まっております。と部屋と屋敷を出ていった。
誰もいなくなった屋敷は薄ら寒く、私は1人で震えた。
Fin
いかがでしたでしょうか?