offshore
「おい、姫様はどこだ、場所間違ったんじゃねえのか」
「今調べているから静かにしていろ、蛭蛾丸嬢」
「はやくしろよ、憤怒嬢!」
「大きい声を出すな、敵が集まって来るだろ」
二人は王国の女騎士で、魔物の討伐遠征で城を留守にしていた間に隣国のドラゴニアに城を落とされ帰る場所を失っていた。城にいた姫達はなんとか逃げたので、王に頼まれて合流ポイントの山の中にむかえに来ていたのだが。
「ここでいいはずだ、遅れているのかもな、まあ、まわりを探してみるか」
「お前はのんびりしているよなぁ、まったく」
文句を言いながら蛭蛾丸は草を剣ではらいながら探した。しばらくすると敵の兵隊数十名に取り囲まれていることに気付いた。
「おい、お前ら王国の人間か?姫を隠しているならさっさと出した方がいいぞ、命は助けてやる」
蛭蛾丸はニヤリと笑うと。
「俺は王国の蛭蛾丸だ、死にたい奴は首を出せ、痛くないように殺してやる」
兵士たちは名前を聞いてざわついて逃げ出した。
「玉無しどもが」
「まったくお前は品が無い・・・だが姫はまだ捕まっていないようだ」
「ああ、だが十倍の兵隊連れて帰って来るぞ、はやく見つけないとな」
「嬉しそうだな、この戦闘狂が」
しばらく探していると、茂みの中からメイドが這い出してきた。
「憤怒様に蛭蛾丸様」
「桜様、隠れておられたのか。姫様は」
「ここはうるさいので姫様は山のむこう側まで移動しました」
憤怒は小声で『それはそうでしょうね』とつぶやいて、メイドの桜を先頭に姫のもとにむかった。桜は憤怒に聞いた。
「王様たちはご無事なのですか?」
「集合地点で私たちの帰りを待っています、将軍に兵隊も無傷です。在野の兵も集めていますから、すぐにでも城を奪還出来ますよ」
桜のペースにあわせてゆっくり歩いていると遠くの方から山道を駆け上がって来るドラゴニアの兵隊が追い付いて三人を呼び止めた。
「おい待て、バカ女ども」
「待てって言われてるぞ、蛭蛾丸」
「おまえもだろ、いやむしろお前だけだろ、先に行っていいのは桜様だけだろ」
「だろだろ、うるせえな。やっぱり手勢連れて帰ってきやがった」
ドラゴニアの将軍、ドロジが立ちはだかった。
「お前らバカか、これから姫の所に向かうんだろ。山頂の巻き道歩いてるってことは姫のいる場所は山向こうだろ、アホでもわかるだろ」
「そ、そんなんなことねえよ、姫は山頂にいるだろ。お前がアホだから分かった気になってるだけだろ」
憤怒があきれたように言った。
「もういいよ、アホ同士の会話はよぉ、聞いてて痛いぞ。
姫様はお前らと入れ違いにふもとにむかったぞ」
「う、ウソだ、誰ともすれ違わなかったぞ、このバカやろうが」
「姫様は賢いから見られないように下山されたんだ、お前はアホだから気付かなかっただけだ」
「アホだのバカだの賢いだの、うるさい!」
桜が怒鳴った。
驚いたドロジが桜に聞いた。
「どっちだ、どっちが正解なんだ」
「入れ違いですよ」
「くっそー、どこでだ?どこですれ違った?」
そういうとドロジは兵隊たちを連れて来た道を帰って行った。
「マジでアホだなあいつ、本当のこと言うわけないだろ、ねえ桜様」
「いやいや、あ~~、まいりましたね、普通は、
ウソをつくな!
って言い返すはずなんですけど」
「え?」
「見張られていたので逆に進んでいたのですが、アホの行動は読めません。みなさん後を追いましょう」
三人はドロジの後を追った。
ドロジは考えていた。『まてよ、俺がふもとに向かっているのは誘導されてか、いやあのとき山のむこう側だと指摘したのに下ったと言った、でもその前に山頂にいると蛭蛾丸がいったけど・・・アイツはバカだから本当のことを言ったのかもしれないぞ、どっちだ?』
しんがりの兵隊が報告した。
「後ろから三人ついてきます」
「あのアホども、後ろから襲うつもりで姫は下山したと言ったのか!
全軍向きをかえろ、敵は上方のアホどもだ、
突撃ィーーー!!!」
「オオッーーーー!!!」
憤怒と蛭蛾丸も剣を抜いて突撃した。
運悪くその中央を横断しようとしたゴブリンたちは粉々に切り刻まれた。
そこにすかさず姫がわって入った。
「おやめなさい、もう戦争は終わりました」
「・・・え、そうでしたか」
憤怒たちは納得して剣をおさめた。だがドロジはまだおさまらず。
「まてまて、聞いてないぞ」
「今聞いたでしょ?」
「え、確かに今聞いた、いやいや、ドラゴニアの方から聞いていないと言ったんだ」
「では聞いてきてください」
「はい分かりました、って行くか!」
「困りましたね、ここでやり合っては条約に違反しますし」
「条約?」
「殺しあいをやめる条約です」
「・・・本当なのか?」
「本当ですとも」
ドロジたちは大人しく引き下がった。
姫はドロジたちが見えなくなると。
「さあ逃げましょうか、だいぶ時間が稼げるはずです」
蛭蛾丸が憤怒に聞いた。
「あれ、逃げなくていいだろ、停戦したんだから」
「してねえよ」
姫を連れて憤怒たちは王の軍勢と合流して城を攻めようとしたが、あてにしていた人質がとれなかった ドラゴニアは引き上げていった。だが城に入るとドロジとその軍が居残っていた。蛭蛾丸が剣を抜いてたずねた。
「どうした、早く出ていけ」
「お前らのお陰でドラゴニアの王に将軍職を解任された、俺は今日からこの城の将軍になる」
「何の手土産もなしか、無理だぞ」
「いや、俺はお前らの姫を助けた」
「はぁ、あれは、だな」
姫は
「ドロジ、先ほどは見逃してくれてありがとう、お陰で犠牲が出なくてすみました」
憤怒は驚きながら
「な、なんともうされた?」
王は姫の言葉におうじて。
「そなたの功績見事です、我が軍に迎え入れましょうぞ」
憤怒はあきれて王に聞いた。
「私達はドロジ将軍の部下になるのですか?」
「それは具合が悪いでしょう?あなた達も将軍になりなさい。姫を助けた手柄があります」
「・・・・ではありがたくお受けします」
「桜はメイド長になりなさい。
これから組織を大きくしなければならない」
「守備隊をもっと強力にするのですね」
「それもあるが、ここまでされたのです、ドラゴニアの領地をいただきましょう」