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1.出会い

※注意※ご都合主義のファンタジー設定です。

話が進むにつれて暴力的・残酷な描写が多めに出てくる作品です。苦手な方はご注意ください。

 

「ねぇ、今少し時間ある?」


 背後から聞こえてきた声にミスズ・ブローディアは一瞬動きを止めた。

 学校に隣接したカフェ。この時間は授業中ということもあり、生徒の姿はほとんどない。店内に人はまばらで、会話を楽しむ者というよりは一人で作業をしたりお茶を楽しむ者が多かった。


(勘違いするな。私に話しかけるわけがない)


 ふっと息を吐いて机の上に置かれたティーカップを手に取り、口元まで持ってくる。舌先で少しだけ冷めた紅茶の温度を感じていると、突然目の前に男の顔が飛び込んできた。


「聞こえている?」

「っ」

 吹き出さなくて良かった。ごくりと音を立てて紅茶を飲み干し、まじまじと正面の男の顔を見つめる。まさか本当に私に用があるのだろうか。


 この私が誰だか知らないなんてそんなことが……。


 返事もしないままただ茫然と相手の顔を見続けるミスズを前にして、男はそれ以上言葉を発することもなくゆっくりと待っていた。男の瞳に私の姿はうっすらと映っている。だけど何故か見られている気はしない。


 綺麗な顔だとは思う。


 ただその中性的な綺麗な顔に似つかわしい耳に残る低音の声と、さらにそれらを覆いつくすようなきつい煙草の匂いに思わず顔をしかめそうになる。


 見たことのない男だった。

 そもそも学生にすら見えないが、自分の発言を静かに待たれたままというのも決まりが悪い。


「……何ですか?」


 怪訝な顔をしたままミスズがそう言う。決してそれは男を受けいれたわけではなかったのだが、男はミスズの正面の椅子に座った。

 馴れ馴れしい男の行動にミスズの警戒心が強まる。すぐ立ち上がれるように隣に置いた鞄を膝の上に乗せた。


「君さ、いつも決まった時間にここにいるよね?」

「それが何?」

「このカフェにいる間でいいから、俺の話し相手になってほしいなと思って」


 想定していなかったことにミスズは目を見開く。


「ね?どう?君、タイプなんだよね」


 少し陰のある男の笑い方にきゅぅっと心臓が縮み上がった。なんだろう。男を怖いなんて思ったこと一度もなかったのに、ゾクゾクと嫌な感じがする。


 この雰囲気が気持ち悪すぎてミスズは「無理です」と眉を顰め、椅子を倒すような勢いで立ち上がった。


「そもそも初対面なのに、そんなこと言う人信用できないから。二度と私に話しかけないで」

 吐き捨てるようにそう言ったミスズは男の返事も聞かないで店から出た。



 ―――――――――― 



 この地方では昔から大小問わずマフィアの存在というのが当たり前にあった。

 怖い、野蛮、といった印象はもちろんあるが、過干渉をせず町の人に上手く溶け込み生活を送るマフィアもいる。


 その中でも私の父親が三代目を務めるブローディアファミリーは、代々町の顔役として揉め事を解決したり、悪い奴らを黙らせたりしていたわけで、その信頼があるおかげで周囲の人たちともつかず離れず良い関係を築いていたはずだった。


 ただその信頼はあっけなく崩れた。


 三年前。父さんが三代目に決まった時、私たちの仲間内そして二人の一般市民が犠牲になった大きな抗争がおきた。

 一般市民といってもどちらかといえばこちら側の人間だったらしいが、周りの人はそう思わない。


 マフィアが、自分たちの町で揉め事を起こした。

 一般人が犠牲になっている。

 もしかして我々にも危害を加えるかもしれない。


 そんな声が広がるのに時間はかからなかった。


 そもそも信頼など最初からなかったのかもしれない。

 都合が悪い時だけ頼って、自分に害があると分かるとあっという間に手の平をかえす。何度も助けてあげたことをあいつらは忘れているのだ。


 そんなことを考える自分自身も嫌いになっていく。

 見返りなんて求めていなかった。それなのに「あんなに助けてあげたのに」と思わずにはいられない。


 それでも父さんは町の人たちに尽くそうとしていた。


 悪いのは自分たちだと言い周囲との関係をもう一度構築しようとしていた。父や仲間たちから私は恨み言など聞いたことがない。


 そのことがさらに自分を悪い人間のように思わせて、どんどん心が荒んでいくのが分かる。


 それに大人の世界は本音を隠してなんとか上手くいくかもしれないが、私たちの世界はそうではない。



 学校という人間関係がすでに出来上がっている空間では、異端は排除されるだけだった。



「どうせ暴力で解決するんでしょ?」

「あぁ、怖い。私も殺されちゃうかも」


 毎日あちこちから向けられる言葉の刃が私の心を蝕む。けたたましいベルのような笑い声が不快で常に頭痛に悩まされるようになった。


 私が、私の家族がそんなことをするわけないのに、一度ついた印象は消えないらしい。




 だから、私が周りを排除したんだ。

 あいつらが私を排除したんじゃない。自分から一線を引いた。




 あまりの息苦しさにガバっと跳ね起きる。

 周囲を見渡してはぁはぁと乱れた息を整えながら布団の端をギュッと握りしめた。

 久しぶりにみた昔の夢。


(あいつのせいだ)


 昨日カフェで声をかけてきた男の顔を思い出して頭を抱えた。

 目を見て微笑まれたのは何年振りだろうか。

 腹の奥に何を隠しているのかは分からないが、確かにあの男は私の顔をしっかりと見つめてそう言ったのだ。


 たった一度会っただけでこんなにも心を乱されるなんて、もう二度と会いたくない。


 あのカフェは時間を潰すのに最適だったのに。

 ファミリーのみんなが心配するから学校はきちんと通っていた。講義形式の授業は受けているが、周囲の人間と関わらなくてはいけないものは参加しない。それに先生だって腫物のように扱っている。提出物だけ出せばそれ以上何も言ってこなかった。


(次はどこで時間を潰せばいいの)


 苛立ちにも似た嫌な感情に苛まれて、ミスズはもう一度体を倒し布団を頭から被った。



ここまで読んで頂きありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 新作、お待ちしていました。 ダークですねぇ。 サリューがさっさと登場してしまったのにびっくりしました。 また出てくるのでしょうか? もちろんヒロインの登場も楽しみです。
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