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幻影虚空の囚人  作者: 吾蔵研究員
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第二幕二話 「集合点」

ピロン、とスマホが鳴った。

レイジは壁にかけられた時計を一瞥するなりスマホを手に取り、メールアプリを起動する。お目当てのものはすぐ目に飛び込んできた。

『当選のご案内』。

送り主を確認してみる。そこには「吾蔵脳科学研究所」の文字があり、メールアドレスも間違いない。

本物の、当選連絡だった。

「っしゃあああああああああああ!!」

拳を天に突き上げ叫んだ。

部屋の中を小走りで駆け回り、喜びの感情をある程度発散してから、おぼつかない手でスマホの画面を叩く。

数回のコール音の後…

『レイジか、今俺もお前に電話しようと思ってたところだよ!』

「って事は…ショージ…まさか!?」

『そのまさかだよ…当たったんだ、ベータテスト!』

「やったぜぇぇえ!!ショージおめでとーっ!!」

『ありがと…ってか、まさかレイジも…?』

「ああ、当たったよ!2人でベータテストに参加できるんだ!」

『すげええええ!!こんな偶然あるんだな…ゆ、夢じゃないよな?』

「今からビンタしに行ってやってもいいんだぜ?」

『残念だったな、俺が先にビンタするぜ!』

「言ったな?じゃあ勝負だ!」

『望むところだ!』

ショージがそう言うと二人はほぼ同時に通話を切り、家を飛び出した。

夢かどうかの確認をするために。

この喜びを分かち合うために。

そして、同時刻…

───────────────────

ピロリン、とスマホが鳴った。

「ん〜…誰?」

寝起きの目を擦りながら、本栖がスマホを確認する。

メッセージの送り主は、西川。

「ここのっ!」

一気に覚醒した本栖は、目を輝かせながらメッセージを確認する。

送られてきていたのは、短いメッセージと一枚の画像。

メールのスクリーンショット画像と共に、『当選してしまったようです』という文章がそこにあった。

数秒思考停止した後、我に返った本栖の意識は今度こそ完全に覚醒した。

「えええーっ!?」

震える手で本栖がメッセージを送信する。

『すご、これ本物!?』

すぐに返信が来た。

『そうですよ。どうやら今日の私は非常に幸運なようです。』

「はわぁ…」

本栖は思わずため息をついてしまった。

しかし、続けて送られてきたメッセージに…

『ところで、西川さんは当選されたのですか?』

呼吸を、止められた。

西川の当選に気を取られてすっかり忘れていた。ベータテストに応募したのは西川だけではない、むしろ誘ったのは自分ではないか!

慌ててメールアプリを起動すると、お目当てのものはすぐに見つかった。

『当選のご案内』────。

「嘘ッ…!?」

送り主を確認する。「吾蔵脳科学研究所」と記されていた。

西川から送られてきた画像と自分のメール画面を見比べてみるも、一言一句誤りは無かった。

───間違いない。

「当たっ、た…?」

ぺたんとその場に座り込んでしまう。

放心状態になってしまう前に、本栖に返信しておこうと画面に指を滑らせる。

スクリーンショットを添付し、『私も当選してたみたい』と打ち込み、送信する。トークルーム上に二つの当選メールが並ぶと、あまりの衝撃の連続で今まで気づいていなかった事実に気がつく。

「あれ…私、ここのと一緒に参加できる?」

数秒遅れて、じわじわと実感が湧いてくる。事前情報によると、製品のベータテストで使用されるソフトは、ローンチタイトルとして発表されたオープンワールドMMORPG。

広大な幻想世界を、大好きな友達といつものように肩を並べて冒険できる。夢のような話である。

「こんな事…あるんだ…」

あまりにも都合のよすぎる展開だ。

夢ではないかと思い頬をつねってみるが、しっかりと痛い。

『ここまで運がいいと、誰かがわざと私たちが当選するように仕向けたのかと勘ぐってしまいますね』

西川からメッセージが来ていた。

まさか…と、一瞬思考する本栖だったが、遅れてやってきた喜びの波にその疑念は呑まれて消えてしまった。

───────────────────

「いいや、君たち4人の当選は仕組まれたものでは無い。"君たち4人の当選は"、ね。」

そう静かに零したのは、吾蔵研究員。

「そろそろ連絡があってもおかしくないと思うんだが…と、噂をすればだな。」

吾蔵研究員の携帯が突如鳴りだす。

『俺だ。』

「おう、待ってたぞ。メールは届いたか?」

『ああ、バッチリだ…だが、わざわざ当選させる必要はあったのか?今のお前が持っている権限なら、バレずに俺を忍び込ませる事だってできただろう。』

「いいや、"神話"の完遂の上で違和感なく生き残るためにはプレイヤーである事が必須条件だ。分かるだろ?」

『…俺はお前が組んだゲームシナリオの詳細を聞かされてないんだが。』

「ありゃ、そうだったか?まぁザックリ要点だけ言うなら───"プレイヤー以外の全員が死滅して終了"ってな感じだ。」

『そりゃあまたご大層なシナリオじゃないか。確かに、まだ死ぬのはごめんだからな…』

「だろう?手筈通り行けば、"狭間"への扉を開き、集合点に到達する事ができるはずだ。」

『"守人"はどう処理するつもりだ?』

「問題ない、しっかり計画は練ってある。ま、後のお楽しみ…と言ったところか?」

『お前というやつは本当に…まぁいい。じゃ、ぼちぼち頑張るか。』

「期待してるぞ?」

『ふん。』

通話はそこで途切れた。

「そろそろ俺も本格的に動き始めるとするか…おっと、今は"私"だったか。」

吾蔵研究員…"と名乗るモノ"がそう呟く。

「吾蔵さん、最終確認が完了したのでサインを頂きたいのですが…」

「ああ、今行く。」

今までのフランクな口調から一転、引き締まった声色と口調に変わる。

「ああ、せっかくだから一応私も確認しておこう。ベータテスト当日になって深刻なミスが発生した、ではネット上での炎上どころでは済まされないからな…」

「お、お願いします!」

四尾連と吾蔵は肩を並べて歩き出した。

"最後の仕込み"を、行うために。

───────────────────

「そろそろ送迎の人が到着する時間のはずだけど…」

「それっぽいものは見当たらない…な。」

メールで指定されていた集合場所で研究所からの送迎を待っていたのは、レイジとショージ。

大通りから離れた駐車場で待っていたため、それらしい車が来ればすぐに分かるのだが、辺りは静まり返っていてエンジン音のひとつも聞こえない。

「…集合場所間違えたんじゃね?」

「ここで合ってる…はずなんだけどなぁ…」

集合場所を確認するためにスマホを取り出そうとしたその時。

何かが弾けたような轟音が鳴り響いた。

形容するなら、ガラスが割れたような高音。何事かと振り向いた先には、二人を放心状態にさせるに足る衝撃的な光景が広がっていた。

──空間が、裂けていたのである。

比喩表現などでは断じてなく、実際に何も無い空間に裂け目ができていた。

これだけで十分すぎるほど衝撃的なのだが、その裂け目から白衣を着た男が現れ、

「時間ちょうど、かな?初めまして、吾蔵脳科学研究所の四尾連です。送迎に参りました。」

と言い放ったのである。

口をあんぐり開けたまま立ち尽くす二人に、四尾連は困り果てた顔をした。

「吾蔵さん…やっぱりこれを使って送迎するのは無理がありますよ…」

ついには腰を抜かして座り込んでしまったふたりを前に、四尾連は天を仰ぎそうぼやいた。

───しばらくして。

「いやいやいや、こんな瞬間移動みたいな技術持ってるならゲームなんかよりこっちを公開した方がいいんじゃないんですか…?」

「てか、一応脳科学研究所なんですよね、ここ…なんでこんなオーバーテクノロジーをここが抱えてるんですか…?脳科学関係ないでしょ…」

「えー…それはだね…」

空間の裂け目を通って研究所に辿り着いたレイジとショージは、タガが外れたように四尾連研究員に質問攻めをしていた。

「ここまで話題になってしまっては、通常の送迎方法では尾行されてしまう可能性がある。当研究所は非公開の施設として運営させてもらっているからな、住所が割れてしまうのは色々と問題も多い。」

四尾連の代わりに質問に答えたのは、最後の参加者を連れて空間の裂け目から現れた吾蔵研究員。

「でも、この技術を実用化させれば今の移動インフラに革命を起こせるんじゃ…」

「その辺は色々と事情があってな。まだ公表する訳にはいかないんだ。」

「そ、そうなんですね…」

ショージが吾蔵の説明を受け引き下がる。

「そういや、ほかの参加者って…」

レイジが辺りを見回すと、自分たちの他に3人いるのが確認できた。

「女子もいるんだな…」

レイジの視線の先にいたのは、本栖と西川、そして二人の送迎を任されたらしい女性研究員。

「あ、他の参加者さん?こんにちは〜!」

本栖が笑顔で手を振る。

「おう、こんにちは!今日はよろしくな!」

レイジも笑顔を見せながら手を振り返す。

「本栖さんは相変わらず元気ですね。」

「ここのももっとアガっていこうよ、二人で参加出来るんだよ?」

「そうですね、私も本栖さんとご一緒できてとても嬉しいですよ。」

「今日くらい下の名前で呼んでくれたっていいじゃ〜ん!」

本栖と西川のふたりがいつものノリで会話を始める。

「…なんか、俺らが立ち入ってはいけない雰囲気を醸し出しまくってるな…」

「ああ…無闇にあそこに割り込んだら消されちまう気がするぜ…」

突如として眼前で展開された光景を"聖域"だと即座に見抜いたレイジとショージは、聖域を踏み荒らさぬよう静かに距離をとった。

「───さて、と。全員揃ったようだな。そろそろ始めさせて頂こう。」

吾蔵研究員がそう告げると、周囲の光景が一瞬で切り替わり、巨大なコンピューターとワイヤレスイヤホン型のヘッドセットが五つ置かれた部屋が現れた。

「それでは、私明見が改めてテスターの皆様の確認をさせて頂きます。」

明見(あすみ)と名乗り司会を始めたのは、西川と本栖の隣にいた女性研究員だった。

「山中嶺士様、精進禄様、本栖三姫様、西川心音様、河口一様。」

(ん、河口…?)

最後に呼ばれたのは、吾蔵研究員が連れてきた最後の参加者、河口(かわぐち) (かず)

「これからテスターの皆様には、約5時間のベータテストにご参加いただき、消費者目線からの感想を頂くことで本製品の品質向上に御協力頂きます。それでは、ここでプロデューサーを務める吾蔵研究員からお言葉を頂き──」

「いや、いい。この後のプログラムも全部飛ばせ。さっさと始めよう。」

「そ、そうですか…では、早速始めさせていただきます。」

(それでいいのか…)

ある意味吾蔵らしいやり方に思わず苦笑してしまうレイジ。

「では、各自ヘッドセットを装着してください。」

指示された5人が各々ヘッドセットを耳に装着する。

「では…行ってらっしゃいませ。」

次の瞬間、5人は意識を刈り取られた。


続く

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