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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第一章 シエナと旅の仲間
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シエナと旅の仲間 03

まだ日も昇らない朝。ようやく東の空に白い光が差し出した頃

シエナは目覚めて一瞬ここが何処なのか判らなかった。

どうしてこんな所で寝ているのだろうと思う前に騎士団長の姿を見付け

昨日の事が全部夢じゃなくて良かったと身体を起こした。

「おはようございます。騎士団長殿。」

実は少し眠りそうになっていたデメトリオが驚いて顔を上げる。

「もうお目覚めかシエナ殿。まだ早い。もうしばらく」

「いいえ。騎士団長殿こそ少しお休みください。その間に私が朝食の支度をします。」

「そうか。では少しだけ休ませてもらおう。何かあったら声をかけてください。」

デメトリオはあまり離れすぎず、焚き火の熱が届かないよう離れ横になった。

シエナは騎士の持ってきた食材を漁る。

硬いバケット。小麦粉。人参とじゃがいも。

燻製肉(ベーコン)が少し。

火があるのだからフォカッチャでも作ろうか。

ああローズマリーを持っていたなら一緒に焼けたのに。

旅の最初の朝の記念に卵を使いましょう。

「割れていないといいのだけど。」

鞄の中の卵は無事だった。

これも後で院長に謝らないと。

3日か4日かかると言っていた。ここで全部食べてしまうわけにはいかない。

「昨日のパンを先に食べてしまいましょう。」

すっかり固くなったバケットをさらに半分に切ろうとするのだが

騎士団長の分を少しだけ大きくした。

ベーコンを少しと卵を2つ手元に用意してから

鉄の浅い鍋の取っ手に布を巻き、焚き火にあてる。

「もうそろそろいいかな。」

べーコンに手をのばす。

牛と鶏と羊とヤギと馬は見た事があるわ。でもあれは何?

野営している場所から街道を挟んだ少し小高い丘に

真っ黒な毛に覆われた大きな牛に似た4本脚の動物。

シエナの知っている牧場の牛よりもずっと大きかったし毛の色も長さも違う。

それにどうやら牛の背に誰か、人のような何かが乗っているのも見えた。

馬にしては脚が短いし顔の形も違う。

シエナは鍋を持ったまま立ち上がってしまう。

もし静かに息と身体を潜めてゆっくり静かに騎士団長を起こして

それから果樹園に逃げられたかも知れない。

すぐに焚き火の煙が見付かるだろうがもうしかしたら街まで辿り着けたかも知れない。

しかし立ち上がった事で、その姿は完全に発見されてしまい

そして見つかった事をシエナは気付いた。

あれが何だから判らない。判らないけどきっと恐ろしい生き物に違いない。

シエナは慌てて鍋を手放し、代わりに剣を抱えた。

デメトリオはその音で目覚める。

剣を抱えるシエナの後ろ姿と、その向きのさらに向こうを見ると黒い獣達。

彼は脇に置いた剣を掴むと同時に勢いよく立ち上がりシエナの元に駆けた。

「下がりなさいシエナ殿。あれは魔獣だ。」

「あれが魔獣。」

谷から北の山に向かったと聞いていた。

森を越えてこんな街の近くに現れた話は聴いたことがない。

もうすぐ夜明けだ。暗闇の中でしか生きられないのではないのか。

数は3頭。先頭の魔獣には魔者が乗っている。

騎士の身に着ける鎧に形こそ似ているが

もっと雑で、歪で、表面処理も施されていない金属の貼り合わせの鎧を着ている。

騎士と違うのはどんな状況にあっても(カスコー)を脱がない事だ。

これは谷で産まれた者が陽の光に当たり続けると火傷をするからだと言われている。

手にする剣も騎士のそれとは異なる。

シエナとデメトリオが持つ剣は左右対象の両刃であるが

魔者の持つそれは剣先が無く片刃で、剣と呼ぶより大きな鉈に近い。

「シエナ殿はもっと下がって。」

1対1であれば国内に敵は少ない。

相手は戦った事のない魔者と魔獣。

こちらに向かい何やら剣を振り回し叫びながら駆け寄ってくる。

好意的には見えない。

デメトリオは剣の柄を握りしめた。


そのまま突っ込んでくると思われたが

魔者は魔獣を道の向こうでその歩みを止めさせた。

剣は抜かれ、肩に担いでいる。

魔者の乗った一頭だけが、ゆっくり道を横切り歩いて来る。

デメトリオが剣を抜こうとした時

「王国の騎士よ。」

ただの人の、男の声。叫ぶでも威張るでもなく

その言い方には敬意さえ感じられた。

「私は探しものをしている。そして今それを見付けた。」

魔者は騎士の影に隠れるシエナを覗き込もうと魔獣を横に動かす。

デメトリオは相対するよう身体の向きを変える。

「私の捜し物はその娘の抱える剣。こちらに渡していただきたい。」

シエナは、魔者の兜の奥から青白い目に睨まれたのだが不思議と怖いとは思わなかった。

きっと貴方の捜している物ではありませんよ。と言おうとした。

だが次の一言でそれを口にしなくて良かったと思った。

「その剣を置いて立ち去りなさい。」

「それはお断りします。」

シエナは即答していた。

この剣は王様の物で、返さなければならない。そして褒美を貰い帰らなければならない。

ここに置いて帰れない。

「黙って剣を置いて去ったのならば、2頭の獣が追いかけるだけだった。」

「捕まらなければ餌にならず生き延びただろう。」

「断った今となっては、私がお前たちを切り裂いてから獣らの餌にする。」

言い終わると同時に、道の向こうでずっと睨んでいた魔獣2頭が突進。

デメトリオは鞘から剣を抜き構える。

「逃げなさいシエナ殿。」

2頭を自らに引きつよう2歩、3歩前へ。

上から叩いては1頭しか相手にできない。横に切り払うべきだと

デメトリオは剣を両腕でしっかり握り剣先を下げ後ろに引き半身で待ち受ける。

左右から襲う魔獣。

「来いっ。こっちに来いっ。」

叫ぶデメトリオ。

シエナは足を竦ませ逃げられないのではない。

抱えた剣を置いたのは、逃げるのに邪魔だからではない。

シエナは決めていた。

無理やりに剣を奪う者か現れたのなら

その時こそ剣を抜くのだと。


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