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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第二章 ラウラと森の魔女
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ラウラと森の魔女 44

燃える柵が崩れ、オルクル達の死体に被さり炎の勢いが増す。

時折り聞こえる悲鳴のような音は炎が発しているのだろうか。

その炎に向かって柵の向こうから何かが投げ込まれているのはラウラにも見えた。

それがオルクルなのも判っていた。

「イロナ様。」

「どうした?」

「燃え尽きた後はどういたしましょう。」

どうするのですか?ではなく、どういたしましょう。と聞いたラウラの真意をイロナは汲み取った。

「村の男共に村の外れに大きな穴を掘らせよう。そこへ埋める。」

「大きな穴が必要になりますね。私にも手伝わせてください。」

「そうだな。そうしてくれると助かる。」

「罰として貴方にも手伝ってもらいます。」

ラウラの目線の先には、継ぎ接ぎのような金属の鎧を纏った者がいた。


村の者達は反対した。

「闇の者と呼ばれる者と共には暮らせない。」

ソールヴェイも騎士達も口出しはしない。

ラウラは皆に言った。

「このまま谷に帰ったなら、また村を襲うように言われるでしょう。」

ラウラは谷の者にではなく、村の皆に尋ねた。

「他に行く場所があるのなら教えてください。」

目の前の男に、帰る場所が無いのは村の皆も判っていた。

ずっと昔に追放された一族の末裔。

この人が何か悪い事をしたのではない。悪いことをした子供の子供の子供くらいだろうか。

それでも許せないのはオルクルを率いて村を襲った事実があるからだ。

村の者達が顔を見合わせ言い合う。

ラウラは少しだけそれを聞いて皆を静かにさせて言った。

「私がこの者に魔法を施しました。」

また何か言い出したぞ。イロナは弟子の言葉に反応して身を乗り出す。

「村の人に限らず誰かを傷つけようとしたなら、この人の腕は腐って落ちます。」

そのような魔法を私は知らない。ラウラも知らないだろう。

ああ、あの話か。なるほど面白い考えだ。イロナは笑いを堪えて顔をそむけた。

「だからお願いします。」

「私をそうしてくれたように。」

ラウラは深々と頭を下げた。

ヘルム)があるので誰にも見られなかったが、男は涙を零していた。

どうしてそこまでしてくれるのだろう。

魔女が恐ろしくて命乞いをしたが、村の者に囲まれ改めて覚悟した。

「邪魔をする者」に対する処理は強く言われていた。そのためのオルクルでもある。

自分にその気はなく、獣に乗って剣を振り回せば誰もが逃げると考えた。

今更こんな言い訳をしたところで村の者は納得しないだろうとも思った。

逃げなければ、抵抗しなければオルクル達がこの村を滅ぼし、村の者を皆殺しにしただろう。

それが判るから覚悟をした。

それなのに少女は私を救おうと頭を下げる。なぜ?どうして?

村の男達も、数人は既に受け入れる気になった。

残りの者も大きな声で反対とは言わなくなったが拒否したいと言いたそうだ。

「兜と鎧を外せ。我々と変わらん姿を見せてやれ。」

魔女イロナはこの男用に白くて大きい外套を用意させた。

「長い間陽の光の少ない場所で暮らしていた一族だ。我々より肌が弱い。」

だから身体中鉄の板で覆っていたのね。

「そのままだと大きな布が歩いているようだから腰でまとめろ。砂の国の衣装だ。」

砂の国なんて何処にあるのだろう。

魔者だなんて言っても、ただ谷に住んでいただけの人。

恐ろしい獣に乗ってはいたけど、恐ろしい魔法を使えるでもない。

鉱山で働く村の大人達よりずっと弱そうだ。

それでもまだ数人の男達が反対だと言った。

「それでは領主様にお伺いしましょう。それまで孤児院にいてもらいます。」


魔女イロナは夜の内に谷の者から情報を聞いた。

戦闘には参加シなかったが谷の者がもう一人、

事態を見届け、戻り報告するためだけにいたばすだと告げられ事よりも、

谷の事情を知らされたイロナは動揺せずにはいられなかった。

魔女達はずっと、「かつての闇の王」が復活をしたのだと考えていた。

「そうではない魔女よ。我々は、いや谷の者は新たな王の誕生に備えているのだ。」

「備えている?つまり王となる者は現れたが即位していないと?」

「その通りだ。新たな王に新たな国。その力の象徴として塔を建てている。」

「ずっと昔から、ずっと建て続けていたのだ。」

「それはもうすぐ完成する。地上にその姿を現す。その時こそが復活の日となる。」

谷の底の塔。谷にはそれだけの労働力があるのか。

「谷の者ではない。オルクルだ。我々はオルクルを従える方法を知っている。」

奴らは土から産まれているのかと疑いたくなるほどすぐに増える。

「魔女よ。早合点するな。建国後の兵士はオルクルではないぞ。」

「なに?まさか。」

「そうだ。王となる者はホウ・ウルクルを手懐けた。私が知るだけで20はいる。」

オルクルの上位種族として認識されているホウ・ウルクル。

正確には全く別の種族であり、オルクルよりも、さらに人族の男性よりも大きく、凶暴な生物。

「滅ぼされたのではなかったのか。」

魔女イロナの言うように、その存在は人類の共通の驚異と見做され

各王国は帝国に協力し討伐隊が結成され根絶やしにされた。筈だった。

「僅かなホウ・ウルクルが谷へと逃げた。当然谷の者も受け入れ難く直ちに殲滅の命がくだった。」

「魔術師がそれを止めた。」

「谷の奥の、さらに深い闇の奥底で奴らは厳重な管理の元飼育されていたのだ。」

「奴はらは人の言葉を理解し、谷の者に従う。」


「他の魔女達に会う必要がある。」

他の魔女達と情報を共有しなければならない。

ホウ・オルクルに対する手段。新たな闇の王の存在。

驚異と見做すのか、共存の道を探すのか。

急ぎの旅になる。ビーラコチカは足手まといになる。


夜明けを待って街に遣いを出し、無事にオルクルを撃退したと伝え、

避難していた村とシュマイル国の女性と子供達が村へと戻る。

院長や孤児院の子供達との再会に喜ぶラウラに

イロナは静かに伝えた。

「私はすぐに発たなければならない。」

この言葉だけで、自分は共に連れて行ってはもらえないと理解した。

それがどれほど受け入れ難い事実だろうと、イロナの言葉には従うと決めた。

今の自分が魔女イロナ・チェロナコチカの役に立たない事実を突き付けられた。

離れ離れになる悲しさではなく、ただただ悔しくて、悔しさが自分の予想よりもはるかに大きくて

ラウラは泣き出すのを堪えて返事が出来なかった。

しかしイロナはラウラに落胆の暇を与えなかった。

「和が弟子ラウラ・ビーラコチカ。お前に頼みがある。」

「北の国、ノイエルグに行け。塔の魔女を訪ね今日までの事を伝えるのだ。」

ノイエルグ。塔の魔女。

「ソールヴェイ・ルーンシャールよ。森を抜ける許可を弟子に与えてほしい。」

「え?それは構わないけど。」

ソルは答えながら「自分も北の国とやらに行ってみたい」と思っていた。

それからイロナは砂の国の衣装をまとう谷の者に向き言った。

「まずはお前に新たな名を。せめて強い名にしよう。」

少しだけ考え

「今からディノと名乗れ。和が弟子を頼むぞ。」

「え?判りました。しかし」

途中で逃げ出すとは考えないのだろうかと考えていると

「忘れるなよ。お前には魔女の魔法がかかっている。」

森の魔女イロナ・チェロなコチカは弟子のラウラ・ビーラコチカを抱き寄せ言った。

「約束するよラウラ。我が弟子よ。この次は必ずお前と共に旅をする。」

ラウラはとうとう泣いてしまった。

「約束しましたからね。」

ラウラは知っていた。魔女は嘘を言わない。

だから嬉しくて泣いてしまった。


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