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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第二章 ラウラと森の魔女
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ラウラと森の魔女 28

目を覚ますと、陽の光は直接入り込んでいない部屋の中でも朝なのだと判る。

意識したことも考えた事も無かった。

この光は何処から来ているのだろうと静かに寝台を降りて部屋を出る。

広間はさらに明るい。窓の木戸が開いている。

こんな小さな窓から入る光が部屋を明るくして隣の寝室にまで届いている。

ラウラは周囲を見渡し誰もいないのを確認してから小さな箱を取り出し

昨夜教わった闇の魔法を使う。

手の上の箱の闇が箱から漏れるように少しだけ手の上が暗くなる。

光に飲み込まれるのか手から溢れるほどには広がらない。

ラウラは小さな箱を軽く握り、人差し指だけを伸ばす。

暗闇が指先に集まる。

ラウラしばらくそれを眺めてから箱をボケットに入れ外に出る。

冷たい風が頬を撫で眠気を攫ってくれる。

院長のオリアーナが朝食用の卵を小屋から収穫して戻ってくる。

「おはようございます院長。」

「おはようラウラ。」

いつも最初に起きるのはシエナだった。

オリアーナ院長よりも早く起きて鶏小屋に行く。

朝日が届いて鶏が鳴いてラウラは少し驚く。

「毎朝どうしてこうも大きな声で鳴くのでしょうね。」

「朝に聞く小鳥達の囀りは心地良いのに鶏は騒々しいだけ。」

オリアーナはラウラの言葉に笑った。

「シエナが面白い事を言っていたわ。」

オリアーナも鶏の声に起こされてうんざりしていた。

シエナは毎朝鶏より早く起きて小屋に行くから

毎朝喧しくないのかと尋ねる。

「鶏が毎朝大きな声で鳴くのは」

「暗闇が去った幸せを誰よりも早く皆に知らせたいからなの。って。」

「それを聞いてからこの鳴き声に起こされるのが何だか嬉しくなってね。」

シエナが言いそうな事だとラウラは思った。

いつだってそうだ。

それが本当かどうかなんて関係無い。あの子の言葉は「本当にそうかも」と思わせてしまう。

そして険しい顔をした人をすっかり落ち着かせてしまう。

私よりよほど魔女に向いている。

再び鶏が鳴く。

「そうですね。朝を知らせる鐘の音だと思えば煩くありませんね。」

朝食を済ませると魔女イロナは早速ラウラを庭園へと連れて行く。

今日も魔法の修練の前にハーブを摘むのだと思っていつものように籠を持って庭園へと向かう。

「イロナ様。人を癒やす魔法はありますか?」

「全くないわけではないが、例えばどんな事だ?」

朝シエナを思い出して険しい顔をしている人を癒やす魔法。とも考えたのだが

「例えば怪我を治す魔法とか病を癒やす魔法です。」

「うん。全くないわけではない。うーん。」

イロナは急に考え込んでしまった。そのまま歩いて庭園に到着してしまう。

「今日からはその話しをしようと考えていたのだがさてどうしたものか。」

「今のお前にその魔法を教えるのはあまりに危険なので魔法ではなく」

「薬学についての知識を与えるつもりでいた。」

「だがそうだな。お前から興味を示したのであれば話しだけはしておこう。」

イロナはラウラを座らせる。

「残念ながら病気を治す魔法は無い。」

「怪我を治す魔法は存在するが火でも水でも地でも風でも闇でもない。」

そこまで言うとまたイロナは考え込んでしまう。

ラウラはただじっと待っている。

「お前転んで怪我したらどうしている?」

「え?えーと水で洗ってアルカナの汁を塗って油を塗ります。」

「それは以前私がオリアーナに教えた方法だ。」

さすが魔女イロナ様。

「傷に鹿の肉を押し当てたりするか?」

「はい?」

「傷に熱した油をかけたりするか?」

「ひぃっ。」

「どちらも実際に行われていた方法なんだよ。」

想像しただけで気絶してしまいそうな方法を?

「つまりだな。傷の手当は何が正しいのか実はまだ解明サれていないのだ。」

「アルカナの根から採った油で傷薬を作っていますよ。大丈夫なのでしょうか。」

「大丈夫じゃあないのかも知れないよ。」

「ええっ。」

イロナは笑って答えているが冗談には聞こえなかった。

実際冗談では無かった。

「正しい方法を探すのはとても難しい。」

「どうしてですか?」

「まさか傷の手当のためにと誰かを斬りつけるわけにもいくまい。」

「ああそれもそうですね。」

「それに誤った方法を試してしまえば取り返しがつかなくなってしまう。」

「それは恐ろしい。」

「癒やす魔法もそうなのだ。まだ何も確立されていない。それが正しいのか判らない。」

精霊元素を用いて火や水を操る魔法とはその理論や術式が全く異なる。

「軽い傷なら何もしなくても勝手に治る。治癒の魔法はその速度を早めている。てのが現在の考えだ。」

「それの何が悪いのでしょうか。」

早く治るのならば痛いのもすぐに治まるだはないか。

「昔、1人の魔女が年老いた男の怪我を魔法で癒やしたそうだ。」

転んだ先に尖った石があったのか深くはないが長く腕を切った。

「洗ってアルカナと油で治る程度だ。」

居合わせた魔女もそう言ったのだがその男は慌ててしまいすぐにでも傷を塞いでくれと懇願した。

仕方なく魔女は癒やしの魔法を施した。

「傷口はふさがった。血は止まった。」

「その翌日、男は起きてこなかった。孫が起こしに行くと亡くなっていた。」

「魔女が傷を癒やした腕が腐っていたそうだ。」

ラウラは「魔法で傷を癒そう」とは思わなくなった。

そんなに便利な魔法があるのならシエナがどんな無茶をしようと構わない。

そんなに便利な魔法があるのなら、皆が使えるようになればもっと安心して暮らせる。

そんなに便利な魔法なんて、あるはずがない。

「魔法は万能ではない。いやもしかしたら何でもできるのか知れないが。」

イロナは空を見る。

「私の手は空を掴めるほど長くも大きくもない。」

イロナ様に掴めないのなら、もっと小さい私の手では触れることさえ叶わないだろう。

それでも

私は知りたい。

空を掴む魔法だってあるかも知れない。


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