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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第二章 ラウラと森の魔女
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ラウラと森の魔女 12

騎士団長デメトリオ・アルベルと山の魔女ウルリカ・チェロナコチカによって撃退されたが

問題は魔者と魔獣が「何処を通って来た」のかだと言った。

谷から村へは荒れた岩場が広がり小麦畑にも果樹園にも適さない。

草木もあまり伸びないので狩りに適した動物もあまりいない。

「街道に出るには村を抜けるか森を通るしかない。」

そして魔女イロナは村に魔者や魔獣が現れていないと知っている。

「森には見張りを置いている。奴らが通ったのなら気付く筈だ。」

執政官が声を荒げる。

「見張りを置く前に通ったのだろうな。見張りは夜だけか?」

「そうだ。奴らは夜しか動けない。」

「街道に現れたのは日が昇ってすぐだ。」

魔者は大雑把な鉄の鎧を纏い直接日を浴びるのを避けていた。

奴らはもっと雑な大きな鉄の剣を振るう。

ラウラはイロナの腕にしがみついていなければ膝が震えて倒れてしまっていただろう。

聞かなければよかった。聞きたくなかった。

この魔女様は何と恐ろしい事を口にするのだろう。

ラウラがそう思っていると、魔女イロナはもっと恐ろしい事を口にした。

「では私達はこれで失礼する。」

イロナ様はアールヴァ達を見捨てたとラウラは思った。

きっと陛下も、他の長も同じ思いに違いない。あの顔はそう言っている。

「帰るぞラウラ。」

返事をする間も無く、イロナは自分の腕にしがみつくラウラの手を取り部屋から出てしまった。

アールヴァ達は誰も魔女を引き留めようとしなかった。

どうして良いのか判らないのだろうとラウラは思った。

「よろしいのですか?」

「よろしくはないがまあ心配はいらないだろうよ。」

イロナは笑っているようにも見えた。

「これからしばらくは私もオリアーナ殿の世話になる。」

つまりしばらくは私も森の民と会えないのね。

もっと試したい料理があったのに残念。

もっと皆とく仲良しになれたかも知れないのに本当に残念。

トーマ様にもちゃんとお礼を伝えたかった。

トーマ・ダンヨールはラウラの姿を探すが見当たらず王子から「帰った」と伝え聞く。

何とも残念そうな顔を浮かべる側付きに王子は

「あの魔女の弟子はどのうよな者だった?」

「そうですね、私はとても面白い子だと思いました。」

王子はただ聞いただけでその返事には興味を示さなかった。


孤児院での遅い昼食を済ませると魔女イロナはすぐに出掛けると言った。

「明日から本格的に魔法を教えるがその前にすべき事がある。」

ラウラも慌てて食事を済ませイロナに着いて行く。

イロナが訪れたのは宿屋にいる2名の騎士。

村の男性に剣の振り方と弓の扱いを教えている。

美しい魔女の訪問にも騎士達は喜ぼうとはしなかった。

きっとまた何か頼み事をするに違いないと知っているのだ。

「引き続き村の者への指導を頼む。それから」

案の定、魔女は2人の騎士に結構な仕事を依頼する。

「村の防衛の一環として柵を張りたい。適した場所の調査を頼む。」

実際に柵を作り張り巡らせるのは村の者にさせる。

「しかしですね、村を全て囲むのはなかなかどうして。」

いかにも生真面目な騎士エンリコ・ブルチエルは曖昧な言い方をしたくはなさそうだ。

「不可能だって言えば良いのですよブルチエル殿。」

仕事を増やされやや不機嫌なアレッサンドロ・リッキオ。

「ではどうするべきだと考えるかねリッキオ殿。」

イロナ様はきっとどうするのかもう決めているのね。どうしてすぐに教えてあげないの?

「そうですね。敵が何処から現れるかを想定して、」

「それより誘導すべきではありませんか。」

リッキオの思い付きにブルチエルが別の提案をする。魔女が何かを言う間に

2人の騎士同士で討論が始まった。

若くて粗雑そうで適当な印象を受けたアレッサンドロ・リッキオは

いかに敵の侵入を防ぐのかに注力している。

一方の慎重で手堅いとの印象の年上のエンリコ・ブルチエルは

いかに有利な戦闘状況を作り出すかを考えている。

ラウラは2人の見た目と発言との相違を少しだけ不思議に感じていたがそれよりも

「あの、その両方はできないのでしょうか。」

つい口にしてしまったのは、いつまでも同じ事を言い合ってどちらも譲らないからだ。

途端に討論を止め魔女の隣に立つ少女を睨む騎士2人。

「ひっ。ごめんなさい。」

「おい。私の弟子を睨むな。」

魔女イロナの言葉に2人の騎士は慌てて否定する。

「いえ違います。魔女の弟子よ。詳しく聞かせてくれないか。」

「あ、いえその。」

怖くて戸惑うラウラの背中をイロナは軽く押して一歩踏み出させる。

ラウラは2人の騎士の顔を見ないようにしながら説明を始める。

「柵を2重にすればよろしいのではないでしょうか。」

「そしてその出入り口の場所をずらしてしまうのてす。」

ラウラは地面に絵を描く。

柵の出入り口を通るとその先も柵がある。

柵に沿って進めるようにしておく。

「理想を言えばここに敵を全員閉じ込めてしまえれば良いのですけど。」

出入り口を塞げるよう扉を作りたいと言っているのだろうと騎士達も理解した。。

外側の柵の扉だけ開けて奥へと引き入れその後隠し扉から扉を閉めてしまう。

「なるほと。ではここに見張り台を建て弓を持たせたらどうか。」

「いいですね。何ならこちらの柵は板状にして弓穴を開けても良いでしょう。」

「資材が大量に必要だな。人手も足りない。今から領主殿に手配を頼みに行くとしよう。」

エンリコ・ブルチエルは言い終わらない内に走り出していた。

残されたアレッサンドロ・リッキオはラウラに向かい

「魔女の弟子よ。名を聞かせてくれ。」

「ひっ。ラウラと申しますリッキオ様。」

「ではラウラ殿。私の事はアレックスとお呼びください。仲間は皆そう呼びます。」

「は、はいアレックス様。」

アレッサンドロ・リッキオは村の住民数名を連れ村の詳細な地形の詳細を確認する

領主の住む町への道。森の手前の庭園への道。もう1つは共同畑への道。

岩山で囲まれているわけでもなく森方面が小高い丘になっているだけで他は開けている。

畑と村の間の用水路は障害物にはなりえない。

「つまり全方位囲う必要がある。と。」

果たしてブルチエル殿はそのあたり承知して出かけたのだろうかと少々不安なリッキオ。

その様子を伺っていたラウラが思い出して言った。

「イロナ様。お2人に何か用事があったのではありませんか?」

「もう済んだよ。ラウラは迷路の本も読んでいたのだな。」

「え?はい。イロナ様の本は全て読みましたから。」

「私もそれを騎士に伝えようとした。ラウラに先を越されたよ。」

イロナはラウラの頭を撫でながら、とても嬉しそうに言った。

「ラウラ・ビーラコチカ。明日から覚悟しておけよ。」

「ひぃ。」


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