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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第二章 ラウラと森の魔女
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ラウラと森の魔女 08

村への帰り道、ラウラは始めて馬に乗せてもらった。

怖くて断ったのだが半ば強引に魔女イロナに抱えられ馬の背に乗せられてしまった。

乗り心地は快適とは言い難い。

それでも高い視点といつもと違う風の冷たさがとても心地よくて

村に着く頃にはもっと乗っていたいと思うほどだった。

ラウラは領主の紹介した2人の若い騎士を宿屋で待たせ孤児院に向かう。

魔女イロナは今いる住民を宿屋に呼び集めた。

ラウラが院長のオリアーナを連れ宿屋に戻ると宿屋には既に住民が集まりラウラを待っていた。

「さあラウラ。」

「ええ?イロナ様から」

「ラウラ・ビーラコチカ。私はいつまでもお前の傍にいてやれない。」

イロナとしては今回の件において忙しく別々に動くことが増えるのだから頼るなと言ったつもりだった。

ラウラは魔女イロナが近い将来私の元から離れそれっきりになっていしまうのだと考えてしまった。

ラウラは集う住民の前に一歩踏み出す。

殆ど全員が顔見知りだ。その全員がラウラをじっと見る。魔女に呼び出されたのだ只事ではない。

ラウラは睨まれているようでとても怖かった。

とっても怖かったのでもう一歩前へ踏み出した。

「村の向こうの森に危険が迫っています。」

「森で暮らす森の民の避難先として私はこの村に来ていただきたいと考えました。」

「ですが私一人で決められることではありません。

「皆さんのお考えをお聞かせください。」

宿屋の主人と女将は既に話を聞いてたが「森の民」の存在は半信半疑だった。

鍛冶屋のロージーも孫から話を聞いた鍛冶屋も「森の民」については信じていなかった。

先日の宿屋でのラウラの話は既に村中に広がっていた。

年長者になってから彼女がずっとオリアーナを手伝い1つか2つしか違わない下の子供達の面倒を見ていた。

皆がそれを知っているからラウラの言うことはきっと本当なのだろうとは考えていた。

そのラウラが呼んでいると魔女イロナによって集められた。

「森の民が困っているのなら助けてやろうじゃないか。」

宿屋の女将さんが声を上げた。釣られて皆が同じ事を言いだした。

「それでラウラ。森の民は何を食べるのかね。」

「どんな格好わしているの?」

「髪の色が泊金で男の人も長いって本当?」

皆がラウラを取り囲んで質問攻めにする。

あまりに簡単に受け入れられたのでラウラはすっかり困惑してしまった。

「待て。これからの事を決めるのが先だ。」

どうにか魔女イロナがこの場を収めて話を続ける。

「今すぐどうこうはない。だが最悪の事態は想定すべきだ。」

魔女イロナの想定する最悪とは森が侵略された勢いそのままに村が襲われる事。

最悪ではあるが最有力でもある予想。

「それですへぎ事はアールヴァ達を受け入れる施設の建設。そして村の防衛だ。」

住民たちは施設の建設についてはそれほど反応を示さなかったが

村の防衛と聞こえた瞬間顔色を変えた。

「防衛って一体何から村を守ると言うのですか。」

「オルクル共。もしかしたら闇の者。」

これは冗談ではない。と魔女イロナの目が語っていた。

「オルクルなんて本当にいるのか。」

「魔の者とはどんな怪物なのか。」

今度は魔女イロナが取り囲まれた。

「最悪の事態と言っただろう。備えるだけだ。」

「町へ、いえ王都へ避難しましょう。」

住民の1人が叫ぶように言った。

「逃げ場などないよ。何処にいても奴らはいずれ現れる。」

「しかし戦いなんて。」

「心配するな。既に領主には騎士団の派遣を依頼した。それにだ。」

魔女イロナは2人の若い騎士を呼ぶ。

騎士団長と共に領主の元を訪れ剣と剣の持ち主を探していた。

シエナの捜索にも尽力してもらい馬に乗せてもらい町から村まで運んでもらった。

「エンリコ・ブルチエルと申します。」

隣のさらに若い騎士はシエナと共に王都に向かう予定だったが荷物を忘れ引き返しそのまま留まっていた。

「アレッサンドロ・リッキオっす。よろしく。」

鎧を着ていなければとても騎士には見えないだろうと思うのはそのぼさぼさの髪型の所為だけではなく

その若さが原因かも知れない。

「騎士団の到着まではこの2人が村を守る。同時にお前たちの訓練をする。」

魔女の最初の言葉に住民は安心する。次の言葉に驚嘆する。

建設候補地の下見と建設資材の調達とその人員の手配。

騎士を混じえての村の防衛計画の立案と道具や武器の調達。

魔女イロナは今後の事態に備え考えつく限りの準備を講じる。

住民はその指示に従い動き出す。

ラウラはイロナの後にくっついて全ての話を聞きしっかりと覚えようと務めた。

遅めの昼食を宿屋の女将さんにご馳走になってすぐに

「今から森へ行きなさい。」

「シュマイル国ですか?判りました。でも何をしに行くのでしょう。」

「領主の決定と村での事を国王に報告しなさい。それから今日はもうこちらに帰らなくていい。」

報告だけならすぐに終わる。その後は何をしたらいいのだろう。

「判りました。その前に一度孤児院に寄りますがよろしいですか?」

「うん?構わないが何か持っていくのか?」

「ええ。ハーブと香辛料を少し。」

ラウラはそう言いながら立ち上がり早速孤児院に向かった。

中では皆食堂で昼食を摂っていた。ラウラに気付くとヴィタが聞いた。

「ラウラ。貴女本当に魔女になったの?」

昨日の夜はすぐに眠ってしまって、今朝も皆が起きた頃にはもう出掛けていた。

「いえまだよ。イロナ様に教えていただきたいのだけど今は忙しいの。」

「忙しいって何かあったの?」

「まだ何もないわ。これから何かあったら困るからその準備なのよ。」

ラウラは棚からハーブとスパイスをそれぞれ別の小瓶に少しずつ分ける。

それからヴィタに言った。

「ヴィタ。トニアをお願いね。」

そしてただ話をきいていただけのチーロに向かって言った。

「チーロ。皆をお願いね。私今日はもう戻れないから。」

「何処行くの?」

「アールヴァの国よ。」

ラウラは身を翻し颯爽と孤児院を出る。

チーロもヴィタも、ファビオもトニアも、ラウラがとても大人に見えた。

昨日の朝はいつもと同じだったのに今日のお昼には別人のようだ。

しばらく呆気にとられていた子供達だったが早速チーロが号令をかける。

「さあ食事が済んだらとっとと片付けるぞ。」

それに対してヴィタとトニアが揃って呆れてしまう。

「何よ急にお兄さん気取って。」

「本当、似合わないわ。」


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