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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 序章 シエナとラウラ
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第一幕 序章05

山々には竜族が棲んでいた。

竜達は空を支配し、人間は地面を支配した。

青銅の竜は赤茶色をしていた。

朝の陽を浴びると鱗が銅のように輝き誰かがそう呼び出した。

人間には果てしなく広い空でさえ、身体の大きな竜族には狭かったのだろう。

ある日青銅の竜は他の竜達に地面の占領を命じた。

山々から竜達が舞い降り街を焼いた。

竜族は、闇の者達が深い谷の底からずっと陽の光を求めているのを知っていた。

「我々に従うのならばお前たちを解き放とう。」

闇の者達は青銅の竜に忠誠を誓った。

谷から這いずり出た闇の者達は魔者と呼ばれ、

魔者の従えうる獣は魔獣と呼ばれた。

魔者と魔獣が村を襲い、竜族が街を焼く。

各国の王達は集い、青銅の竜の討伐を決めた。

勇者になったのは南の国の農村の若者だった。

彼は騎士団の指揮する討伐隊に参加しただけの若者だった。

竜の棲家の山に辿り着いた時には

討伐隊は最後の4人になっていた。

最初に騎士団長が竜の尻尾で跳ね飛ばされた。

2人は竜の爪に裂かれてしまった。

残った若者は、騎士団長の剣を拾い竜の眉間に突き刺した。

青銅の竜の最後の咆哮は、他の竜と闇の者達にも届いた。

竜族はこの大陸から姿を消して

闇の者達は再び谷の底に逃げ隠れた。

若者は王都で王様に旅の終わりを告げた。

王様は若者に多くの報酬を与えようとしたが

若者はほんの僅かを受け取り、

残りは帰らぬ者の家族にと頭を下げ、そして騎士団長の剣を王様に返した。

「ではせめて、お前に勇者の称号を与えよう。」

世界を救った若者は、世界でただ一人の勇者になったのでした。


孤児院の院長オリアーナは、子供の頃この物語を聞いた。

南の国ベルススの中央に領地を持つリッピも幼い頃親からこの物語を聞かされた。

しかし孤児院の子供達は、オリアーナがこの物語を聞かせる前に

森の魔女が「本当の話」を聞かせていた。

幼いシエナには魔女のお話が殆ど判らなかったので、

ラウラが魔女が持ってきた本を読み聞かせていた。

横で聞いていたオリアーナは

自分が知っているお話とは随分違うところがあるわ。と思っていいたが

森の魔女の「物語」も筋が通って説得力があって

どちらが「本当の話」なのか判らなくて何も言えなかった。

オリアーナがその事を思い出していると

村へ向かった騎士が領主リッピの屋敷に戻ってきた。

「申し上げます。少女シエナ殿は村にも孤児院にも戻っておりません。」

朝早く出掛けた姿は見た者は多くいたが、戻った姿を見た者は誰もいないと言った。

「そうか。ではやはり王都へ向かったのだろう。」

二人の騎士が無事に連れ戻すのを待つしか無い。

「失礼。オリアーナ殿。」

戻った騎士が院長に伝える。

「急ぎ孤児院にお戻りいただきたいと森の魔女殿から伝言を預かりました。」

「森の魔女殿が孤児院に?」

どうしましょう。シエナはまだ見つかっていない。しかし久しぶりに森の魔女が現れた。

しかも急いで会いたいと言っている。

「シエナ嬢は戻り次第孤児院にお連れ致します。オリアーナ殿は急ぎお戻りなさい。」

「そうですね。そうさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。」

オリアーナが駆け出そうとすると

「お乗りくださいオリアーナ殿。お送りいたします。」

村から戻ったばかりの騎士がその後ろにオリアーナを乗せ駆け出した。


孤児院では子供達が夕食の準備を始めていた。

鶏小屋の掃除を終えた者は、もう一度同じ場所を掃除して

ハーブの処理を終えた者は明日の準備をした。

それらが終わってする事がなくなって、ラウラは夕食の準備をしようと言った。

森の魔女は突然、およそ1ヶ月ぶりに現れた。

いつ来ても賑やかな孤児院があまりに静かで誰もいないのかとも思った。

そうでなければきっと何かあったに違いない。

扉を開け、食堂に音が集まっているのが聞こえて進む。

最初に気付いたの年長者のラウラだった。

シエナがいなくなって、院長が捜しに行って

ちっとも帰って来なくて、それでも他の子供達が不安で泣き出さないよう

ラウラはずっと笑顔を向けていた。

森の魔女の姿を見て自分が泣き出しそうになったのでもう一度無理やり笑顔を作って見せた。

「何かあった方だったか。院長はどうした?」

ラウラの笑顔のその瞳に涙が零れ落ちそうなのを魔女は見逃さなかった。

「シエナが剣を拾って、それで一人で領主様に届けようと出て行って。」

「院長はそれを追い掛けて行きました。」

ラウラの説明は的確で無駄が無かったが肝心な事が判らない。

「拾った剣の事を教えてくれ。」

「とても大きくて、とても重くて赤い宝石と銀細工の模様は多分国の紋が刻まれていました。」

「そうか。間違い無いな。それをシエナが拾ったのだな?」

「そうです。それでシエナにしか持ち上げられなかったのです。」

「何?」

「私達が、いえ院長も鍛冶屋の主人も宿屋の主人も持ち上げられなかったのです。」

「判った。では私も領主の元に行く。」

ラウラは「行かないで。ここにいて。」と言いそうになった。

森の魔女が短い外套を翻し、居間の扉から外へ出たちょうどその時、

騎士の乗る馬が孤児院の前に辿り着いた。

騎士は街からシエナを捜しに村までやって来た。

まだ戻らない事を知ると再びシエナを捜しながら街へと戻って行った。

その騎士がオリアーナを連れ再び現れ

森の魔女はオリアーナからも一切合切の説明を聞き

「先ずは食事をしよう」と全員を席に着かせた。

オリアーナも、ラウラもそれどころでは無かったが森の魔女は

「今頃きっと騎士が見付けて領主の屋敷で美味しい食事をしているだろう。」

森の魔女も騎士と同じように、子供の足で遠くまでは行けないと考えていた。

王都までは一本道だ。途中でお腹を空かせて休んでいるところを見付かるだろうと。


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