表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第二章 ラウラと森の魔女
46/242

ラウラと森の魔女 03

会議室の扉は開けたままで中からはまだ声がしている。

堂々と入室するイロナの後ろから怯えながらラウラも続く。

会議室の長机の奥に1名、周囲に立っているのは3名。

きっと座っているのが王様ね。

イロナの入室に王の隣に立つ男性のアールヴァが気付き

「国王、魔女様です。」

告げられた国王は立ち上がりイロナを出迎えた。

「魔女イロナ殿。お待ちしておりました。」

「すまない。村で少し面倒が起きた。それも合わせて全て報告しよう。」

男性がイロナに椅子を勧める。

「ああそうだ。その前に紹介だけしておこう。ラウラ前に。」

「は、はい。」

国王様って言っていたからもっと太っているとか髭を蓄えているのかと思ったけど

結構普通で他のアールヴァの方たちと変わらないわね。

白金色の長い髪を数カ所編み上げているところが他の方たちと違う。

「さあ自己紹介しなさい。」

「はい。私はラウラ・ビーラコチカと申します。」

「ビーラコチカと。何とも久しぶりに聞くな。判ったラウラ・ビーラコチカ。」

国王は胸に手を当て軽く頭を下げてから言った。

「私はアールヴァ族シユマイル国王ペテルボレス・シュマイル。」

国王の挨拶が終わるとすぐにイロナはラウラに告げた。

「これからは陛下と呼びなさい。そして誓いなさい。森の魔女である私と共に」

「この地の混乱と苦しみを癒やすべく振る舞うと。」

とても大事な事なのは何となく判っている。だが理解が追い付かない。

魔女になるためにそうするのではない。

もはや魔女としてそうしなさいと誓えと言われているようで自分が混乱してしまった。

それでもラウラは一度唇をぎゅっと噛み締めて身体の震えを止めようとして

「誓います陛下。森の魔女イロナ・チェロナコチカ様と共に、この森に癒やしを与えられるよう務めます。」

私は「この地に」と言ったのだがな。と魔女イロナは思った。

「この森」とは随分と欲張りだ。この娘はいつも私の少し上を羽撃いてしまう。

勿論ラウラにはそんなつもりは微塵もない。

「ラウラもしっかり聞いていなさい。」

魔女イロナは森が騒がしい原因の調査について語る。

その最初の一言はやがて世界に広がり、全ての種族に恐怖を与えることとなる。

「深い谷において、闇の王が誕生した。」


「それは間違いないのでしょうか。」

国王ペテルボルスは「信じられない」と言いたかった。

口にしなかったのはそれが「信じたくないだけ」なのだと判っているからだ。

「かつての谷の魔女、今は山の魔女ウルリカ・チェロナコチカのもたらした情報だ。間違いはあるまい。」

「森の周囲にオルクルが現れる理由もそれなのだ。」

「理由とは?」

「目的は竜を封じた剣。」

これはウルリカの情報ではなくイロナの推測でしかない。

勇者の子孫がその剣を持ち村周辺に現れた。

そして彼は剣を捨て姿を消した。

魔女イロナは、オルクル達はそれを探しているのだろうと言った。

ラウラはそれを聞いて突然泣き出してしまった。

シエナの拾ったあの大きな剣はイロナ様の言った竜封じ゛の剣に違いない。

シエナはそれを持って王都へと向かった。そしてその剣をオルクルが探している。

オルクルは恐ろしい怪物だ。

その体は大人より小さいが、明るくなる前に牧場の牛や羊を襲う。

人がそれわ見付けると人をも襲うのだ。

突然泣き出したラウラに魔女イロナも驚くがすぐにその理由は理解した。

「心配はいらない。オルクルはまだ森の手前にいる。」

「現れたとしても騎士団長が共にいる。山の魔女も合流した頃だ。」

ラウラは必死に涙を止めて

「うぇっ。ひっ。ごめんなさい。はい。もう大丈夫です。」

少し考えればシエナが1人で剣を持っていくのは予想できた。

私がちゃんとあの子を見ていたらきっと今頃はオリアーナ院長や他の皆と一緒にいられたのに。

恐ろしい怪物に襲われる心配もしなくて済んだのに。

「すまないペテルボルス殿。ラウラと共に暮らす少女がその剣を持っているのだ。ラウラはそれを心配している。」

「イロナ殿はその剣の所在を知っているのだね。」

「剣は今王都へと向かっている。」

村から森へ向かう路に捨てられた剣を少女が拾い

南の国の騎士団長と共に王都へと届けるべく出発している。

3日か4日。遅くても5日あれば王都へ到着するだろう。

「騎士団長と言うのはデメトリオ・アルベル殿だろう。その者に剣を持たせ深い谷へと赴いていただけないだろうか。」

「それは無理なのだ。彼には剣を振れない。いや彼だけではなく他の何者にも剣を持ち上げれない。」

ドヴァルツの施した魔法なのかそれとも他に理由があるのかイロナにも判らない。

どうして小さな人の子にだけそれが持てるのかもさっぱり判らない。

「それでは竜封じの剣は再び南の国にて封印されるのだろうか。」

「新たな勇者が現れるまでそうなるだろう。」

イロナ様はシエナの事を判っていないわ。あの子ならきっと

ラウラはあまりに恐ろしい事を口にしそうになっって背中が震えた。

「ではドヴァルツに新たな剣の製作を依頼しなければならないな。」

国王ペテルボルスは竜封じの剣について知っているようだった。

人族には関与せずただの傍観者ではあるが常に監視は続けている。

人族が森を荒らさぬよういつも見張っているのだ。

北の国の元貴族が竜をそそのかしその後谷に追放された事実も知っている。

「ドヴァルツ族はオルクルの襲撃を受けた。」

イロナ・チェロナコチカは静かに言った。

「警告が間に合わなかった。ドヴァルツの戦士が迎え撃った形跡はあったのだがその姿は何処にもなかった。」

イロナの言葉に国王ペテルボルスは酷く落胆してしまった。

「それではすぐにでも闇の王を打ち倒す手段を講じなければ。」

「いや国王殿。まずはこの地を守る手段をこそ考えよう。急務なのだから。」

イロナの言葉はずっとラウラを不安にさせ続けていた。

シエナが剣を拾った。竜封じの剣で、闇の王を討てる剣なので狙われている。

騎士団長様と王都に向かっているから安心?

勇者が現れるまで?新しい剣は作れない?

やはりイロナ様はシエナを判っていない。

あの子がその事を全部知ってしまったら。いえそんな事知らなくてもシエナは行くわ。

「イロナ様。何処へ行くのかは判らないけれど、あの子は行きます。」

ラウラは闇の王の討伐に孤児院でいちばん幼いシエナが向かうと言っている。

そんな愚かな真似は大人達がさせないだろうとイロナは考えている。

南の国王、騎士団長、魔女ウルリカ・チェロナコチカがそれを許すはずがない。

イロナ・チェロナコチカの誤算は、孤児院でいちばん幼いシエナを

何にでも興味を示す少々落ち着きに欠ける少女。程度にしか認識していなかった事だろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ