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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 序章 シエナとラウラ
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第一幕 序章04

バケットを入れていた鞄も、摘んだハーブを入れていた籠も忘れ

ラウラは走って孤児院に戻ってオリアーナを捜した。

まだ市場から戻っていなかったのでラウラは走って市場へ向かった。

その道の途中で姿を見付けラウラは泣きながら言った。

「シエナがいないの。森から出てこないのよ。」

オリアーナ院長も森の魔女から子供達を森に入れるなと言われていた。

魔女は毎日のように言っていた。オリアーナも毎日それを子供達に伝えていた。

魔女が姿を見せなくなって、それから子供達に言わなくなってしまった。

孤児院に戻ったオリアーナはその足で納屋に飛んで入って一番大きな鉈を手にとった。

森の中は暗いかもとオオイルランタンも用意した。

普段のオリアーナならそんな物は必要無いと心得ているのに

それほど取り乱していたのだ。

慌てるオリアーナ院長とただただ狼狽える子供達。

いよいよ出かけようとしたオリアーナを見てとうとうトニアが泣き出してオリアーナの裾を掴んだ。

「森じゃないの。シエナは森に行ったんじゃあないのよー。」


オリアーナが領主の屋敷に息を切らしな゛ら到着する

屋敷から領主のマルロ・リッピと執事、そして騎士が3名馬を引いて出てきた。

「領主様。こちらにシエナと申すうちの子が。」

「オリアーナ院長。そうかその様子では孤児院には戻っていないのだな。」

領主リッピと共にいる騎士がこれから孤児院に向かうところだったと言った。

「シエナは私を訪ねて来た。お茶とお菓子わ済ませたら孤児院に帰るよう言ったのだ。」

「ですが戻っていません。」

「では一体何処へ。」

途中で道草を食っているのだろうか。まだ街の中にいるのだろか。

村の何処かにいるのだろうか。今頃孤児院に帰っているのだろうか。

「申し上げます。シエナ殿は領主様に言われギルドに行くと。」

「私はそんな事言っていないぞ。それに私はたった今までそのギルドに行っていたのだ。」


「はあ。確かに小さな女の子がこんなに大きな剣を抱えて来ましたよ。」

ギルドに到着した領主達は応対した丸い男に話しを聞いた。

「それでどうした?何処へ行ったか知っているか?」

「はあ。冒険者がいないので依頼は受けられないよと言いました。」

「それから?」

「それから領主様の所へ行って騎士様に渡したらどうかねと。」

どうなっているのだろう。

孤児院にも領主の屋敷にもギルドにもいない。

皆の言うことが正しいなら必ずこの何処かにいる筈なのに。

オリアーナはとても怖い事を思い浮かんで、一瞬口に出せなかった。

「もしかして。」

そうであって欲しくなくて次の言葉が口から出てこなかった。

今頃きっと孤児院に戻っている。きっと帰っている。

「もしかして何だねオリアーナ院長。」

オリアーナは膝を震わせ、振り絞るように呟いた。

「もしかして、一人で王都に向かったのではないでしょうか。」


「子供の足では遠くへは行っていないだろう。」

騎士の一人が言い終らぬ内に馬に飛び乗った。

「王都までは一本道だ。暗くなる前に見付かるでしょう。」

残りの二人の騎士も慌てて馬に乗った。

「念の為お前は村までの路を行け。お前は私と共に来い。」

どうやら一番階級の上の騎士が二人の部下に指示を出す。

「領主殿は屋敷へお戻りください。見付け次第お屋敷へお届けします。」

「それでその少女の名は?」

「シエナです。シエナと申します騎士殿。」

騎士は笑顔で頷いて見せてから馬を走らせた。

見送ったオリアーナは領主リッピに尋ねる。

「一体何がどうなっているのでしょうか。」

「屋敷へ戻りながら説明いたします。さあオリアーナ院長。」

2人は歩き出し、リッピはさて何処から説明しようかと一思案してから

「シエナが私の元に参ったのはご存知無かったのですね?」

「ええ。私は市場に行くので領主様の元へは明日お伺いするつもりでした。」

なるほどつまりあの子は自分の意志で私の元を訪れた。

そして私が帰れと言ったが帰らずギルドに行った。

ギルドでは屋敷に戻れと言ったが戻っていなかった。

「オリアーナ殿。シエナの持ってきた剣は本物なのです。」

「本物?」

「はい。本物の国宝。竜殺しの剣です。」

「竜殺し?どうしてそんな物をあの子が。」

「拾ったと言っていましたが。」

「ええ確かに。村から森へと通ずる路で拾ったと。」

「では間違いありません。」

屋敷に到着すると領主リッピはオリアーナ院長を執務室に案内して使用人にお茶を用意させた。

二人が向き合い座り、お茶が用意される前にリッピはギルドでの会合について語った。

「私といた3名の騎士こそ、竜殺しの剣とその持ち主を捜していたのです。」


「竜殺しの剣」とは

かつて勇者が竜を殺した剣として、オリアーナもその名は知っている。

南の海に近い小さな村の出身の若者が

深い谷から北上し竜の棲む山脈に向かい「青銅の竜」を討伐した。

その後剣は国宝として王都に収められた。

「お城から盗まれたのでしょうか。」

「そうではない。」

事態はもっと深刻だと領主は言った。

「北の国ノイエルグと東の帝国がずっと領地を巡って争っているのは承知しているだろう。」

「はい。このベルススからも度々騎士が派遣されていると聞き及んでおります。」

「我が領地からも数名派遣しております。おかげて鉱山の人手不足に。まあそれはさておき」

リッピは態とらしく咳払いをし、気を取り直して続ける。

「ノイエルグと帝国との争いの最中、なんと魔者と魔獣が目撃されたと言うのだ。」

「知っての通り、魔者も魔獣もかつて竜族と共に我が国にも大きな災いをもたらした者たち。」


広い広い森の向こう。

北はノイエルグと東は帝国にまで広がる森の向こうに

大陸の北から高い高い山々が連なり、山が終わると

深い深い谷が南の海まで伸びている。

山々には竜族が棲み、谷には闇の魔族が棲んでいた。

今から100年ほど昔、

竜族と魔族は世界を制服しようとしたのだった。


この物語は世界中の子供達が知っている。

何処かの貴族がこの物語を作ると

それはすぐに国中に広まった。

国王は「これは事実の物語だ」と言った。


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