シエナと旅の仲間 33
寄ってたかってルーカを責め立て
「お前1人で狩りに行ってこい。」
1人昨夜と今朝の食事の責任を取らされる事になった。
「1人じゃあ無理だ。せめてもう2人頼むよぉ。」
実際1人では獲物は獲れないと判っているので仕方無く3人で仮に出掛けた。
「私達も出よう。話は外で。」
ツワーグは調理道具一式を担いでぞろぞろと外へ出る。
ツワーグ達の調理台の設置と調理の準備はとてつもなく素早かった。
テーブルと椅子まで外に運び出され
木のテーブルの上には清潔な布が敷かれ、その上に綺麗な皿。
あまりに突然で、シエナが我に返ったときには
椅子に座って目の前の皿に料理が盛られるのを待つだけの格好になっていた。
「人の子のお嬢さん。素晴らしい剣だね。私に見せてくれないだろうか。」
「失礼。私はルケ家のアーツ。この者達の長だ。」
「長だって?俺たちの長はミラ家のゲールだぞ。」
「ゲールもまだ戻らんではないか。ドヴァルツの戦士は誰も戻らんではないか。」
シエナが自己紹介をする前にツワーグ達は言い合いを始めてしまった。
山の棲家に突然オルクルの大群が押し寄せ
ドヴァルツの戦士達は必死に応戦した。
戦いが不得手な者達は逃げ出したが途中でオルクルに遭遇し
散り散りになってしまっていた。
「まだ他にも生き残っている者達もいるに違いない。」
「なら何故ここに来ないのだ。集合場所として逃げる前に決めたはずだぞ。」
「オルクルがウロウロして近寄れないに違いない。」
シエナは悲しくてたまらなかった。
家を失くして、家族を失くして。とても辛いに違いない。
だから皆大きな声を出して悲しいのを誤魔化しているのよ。
「シエナよ。」
ツワーグの言い争うその中でシエナは自分の名を言った。
「私はシエナ。ただのシエナ。」
その言葉に、ツワーグ達は言い争いをピタリと止めた。
シエナは立ち上がり椅子に大きな剣を立て掛けた。
「どうぞアーツさん。ご覧になってくたざい。」
アーツは黙ってその剣に近寄り、触れる。
「マール。こっち来てよく見ろ。
マールは剣を見てすぐに言った
「こりゃあ確かにオーリの仕事だ。この細工。間違いねぇよ。」
「魔女さまが俺に見せようとしたのはこれだな?」
゜そうだ。マール。お前にこの剣に施されている封印を解いてもらいたいのだ。」
「こいつにはとにかく強力な封印を施していある。」
事故があっては困るからと簡単には解けない。
「やるだけやってみよう。」
「「いやあのちょっとお待ち下さい。」
慌てたのはデメトリオ。今?すぐ?ここで?
「封印を解くということはつまり青銅の竜をその。」
慌てるデメトリオに魔女ウルリカが答える。
「そうではない。この剣の中にいるのは青銅の竜の魂。身体は他にある。」
「は?」
「こんな小さな剣にあんデカイ竜が入るわけないだろうに。」
ツワーグ達が大笑い。
笑われているが、デメトリオの考えていたのは
竜が剣に入っているからこそあんなにも重いのだと。
もっともシエナが軽々と持ち上げているのはどうにも説明はつかないのだが。
「デメトリオ様だけではありません。私だって中に竜がいるのかと想いました。」
「私も思ったわ。」
シエナとソールヴェも本当にデメトリオと同じ事を考えていた。
ただ2人は「本物の竜が見られる」と喜んでいたので少しがっかりした。
「だけどもここで封印解いてしまって大丈夫なの?」
「そうよね。魂って身体のある場所まで飛んで行けるものなの?」
2人の疑問には魔女も返答ができない。
「どうなんだ?マール。」
「そんな事俺は知らね。」
マールの返事に呆れたものの、最善策は何かと考えた場合
青銅の竜の身体を探し出しその場で封印を解くべきだろう。
「ウルリカ様はその場所をご存知なの?」
「いや残念ながら判らない。あの戦で生き残ったのは勇者だけだ。」
勇者は国王にさえその所在を明かさなかったと聞いた。
万が一にも青銅の竜が復活しないようにと。
「それをどうやって探すの?」
「シエナ、剣に聞いてくれないか。」
ウルリカの頼みにシエナは剣に話しかける。
人に見られながら剣とお喋りするのは何だか恥ずかしいわ。
「剣さん。中にいる青銅の竜様。身体が何処にあるのか判りますか?」
「判らん。そんな事よりいいのか?またゴブリン共が来るぞ。」
「ゴブリンが来るって誰の事?」
シエナの聞き返したその声に、にデメトリオとウルリカが同時に剣を抜いた。
「山の言葉だ。私達の言うオルクル。」
ウルリカが言い終わる前に、坑道の中で聞いた甲高い叫び声が響いた。
その声に応えるように別の方角からも同じ声。
そのすぐ後にまた別の方角から同じ声。
「囲まれているな。武器を持たない者は中に。」
デメトリオはツワーグ達を避難させまようと声をかけるその前に
2名を除いたツワーグ達は既にその姿わ消していた。
残ったのは鍛冶屋のマール・アーと暫定長のアーツ・ニケ。
アーツは長と認められたくて武器を手にした。
マールはただ逃げ遅れただけ。
「俺も中に。」
「まあ待てマール。ほれこれを持て。」
アーツから渡されたのは取っ手の長い鍋。
「確かにこれで殴られたら痛がるだろうけどよ。」
「剣なんぞじゃあ当たらねぇ。鍋なら広い分殴りやすいぞ。」
そう言いながらアーツが構えるのは家宝の長剣。
ツワーグにはかなり大きいのではないかとデメトリオは危惧したのだが
アーツは器用に振り回して見せた。
坑道を背にして待ち構えるのは中央に騎士団長デメトリオ。
そのやや後方にアールヴァ族ルーンシャール家王女ソールヴェイが弓を引く。
左に魔女ウルリカ・チェロナコチカが短剣を持ち
右にはツワーグ族仮長アーツ・ニケと鍛冶屋マール・アー。
シエナは「坑道の前に立ち最後の砦」として、または「切り札」として剣を抜く。
たくさんの鳥が鳴いているような音と赤ん坊が夜泣きしている声と
風の強い日に森から聞こえる音とを混ぜたようなウルクル達の会話の声。
とてもたくさんいるような錯覚に陥るが
3方から現れたのは合わせてたった7体のオルクルだった。
左右に2体ずつ、中央の3体の内、1体は他より一回り大きい。
どのオルクルも全身を金属の板で雑に覆って、錆びた剣や木の棒を持っていた。
「何よこれだけ?もっとたくさんいるのかと思ったわ。」
ソルは拍子抜けする。
「オルクル族の狩りの方法らしいですよ。この音で獲物を追い詰めるのだとか。」
「ふーん。そうなの。まあいいわ。」
先制攻撃はソルの弓。
左の2体を殆ど同時に倒し、オルクルがそれを見ている内に中央の2体。
驚いて逃げようとする前に左の2体。
その全てがオルクルの兜(のような被り物)の隙間の目と目の間に命中し、
おそらく4体目までは何が起きたのかも判らない内に絶命したであろう。
「大きいのは任せるわ。あれ多分オルクルじゃあないわよ。」




