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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第一章 シエナと旅の仲間
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シエナと旅の仲間 26

デメトリオの誤算は、ソールヴェイが想像以上に素早く、そして強かった事だった。

木の剣がいかに軽いと言えど、当たれば無傷ではいられない。

開始すぐはソールヴェイの怪我を心配して、かなりの手加減をしていたのだが

その内にソールヴェイの素早い攻撃に防戦一方になった。

低い位置から足元を狙ったかと思うと、次の瞬間にはデメトリオの頭上まで飛び上がり剣を振り下ろす。

かろうしで剣で受け、身体を捻って避け続けてはいるが

デメトリオの振る剣はソールヴェイに掠りもしない。

最後の決着は何とも呆気なかった。

デメトリオは、いい加減どうにかしなければと一旦距離を取って仕切り直すつもりで

雑に横に払っただけの剣に合わせ、ソールヴェイが身を低くしたまま懐に突っ込み

見事騎士団長の脇腹を打ち付けた。

「見事。」

デメトリオは思わず口にしてしまった。

この自分の言葉で当初の目論見は叶わないと悟ったのだが同時に

ソールヴェイが自身で自身を守れるだけの技量があると素直に認めることができた。

デメトリオは息を切らしたソールヴェイがシエナにもう一度何かを言う前に

シエナの元に歩み寄り

「私からもお願いします。ソールヴェイ様のお力をお借りしましょう。」

騎士団長様がそう仰るなら、とシエナも渋々ではあるが承諾した。

「でも1つだけ約束してください王女様。」

「危ない事はしないで。」

ソールヴェイは、この人の子は真顔で何を言っているのだろうと本気で悩んだ。

これから深い谷に行って闇に棲むと言われる魔王を倒そうと旅にでるのに

危ない事をするな?

返事に困ったソールヴェイは

「そうね。でも貴女のする事を真似してしまうのは許してね。」

「私は危ない事なんてしません。いえ今までは何度も院長に怒られたりもしたけど。」

どうやら娘は人の子に興味を抱いた。

その人の子は娘に何かとても大事な事を伝えたに違いない。

国がどうとか世界がとうとか、今まで一度だって気に病んだことは無いのに

森の外の、人族の世界がどうであろうと全く興味を抱かなかったのに

突然目を覚ましたかのように国を守ると言った。

最初の旅にしてはとても困難であろう事は容易に想像できる。

傷付くだけでは済まない最悪の事態も考えた。

膝が震え、止めようと口にしかけた。

それでも、本人はとうに覚悟を決めていた。

「魔女ウルリカ様。あの人の子は、シエナ様は一体何者なのでしょうか。」

「小さな村の小さな女の子。人の村にはシエナのような子がまだまだたくさんいます。」

魔女ウルリカの言葉は真実だろう。魔女は嘘を吐かない。

女王ヘンデアニエーリーンはウルリカの手を取る。

「ウルリカ様。どうか娘を頼みます。」

「心配は要らない。それは女王もご存知の筈。」

ソールヴェイは肩から鞄を掛け、細身でさほど長くない剣を腰に差し弓を背負う。

昨夜の内に全部準備していたのね。試験が受からないなんてこれっぽちも考えていなかった。

シエナは少し呆れもしたが騎士団長が認めたほど強いのだからきっと大丈夫だろうと思った。

「シエナ様。」

声をかけたのは昨日の調理担当と世話担当のアールヴァの女性達だった。

「まずはこれを。」

お世話担当の女性が差し出したのは深い緑色をした短めの外套。

アールヴァ族が身に纏う衣装と同じ物。

「とても軽くとても丈夫です。遠くからの矢でしたら弾いてくれます。」

「私は人の子よ?いただいてもいいの?」

「構いません。いえ是非お受け取りくださいシエナ様。」

彼女はシエナにその外套を纏わせる。

昨夜王女が言っていたのはこの事ね。

「それとこれをお持ちください。」

2人の調理担当が差し出したのは硬く焼き締められたパンの塊だった。

「ズッパでお使いになれば汁を吸って柔らかくなって食べられますよ。」

「これなら小さくて鞄の中に入れられるわ。」

「一度にあまり入れすぎないでくださいね。汁を吸うと大きく膨らみますから。」

もしかして試したのだろうかとシエナは3人の姿を見ると

昨夜調理場で見たままの格好だと判った。

きっと夜遅くで、いえもしかしたら今までずっとこのパンを作っていてくれた。

「ありがとう。本当にありがとうございます。大事に食べるわ。」

鞄を開けると王都でフランキから受け取った菓子の袋が目に入った。

1つ食べてあまりに美味しくて勿体なくてそれきり食べていない。

シエナは袋を開け、お菓子を3つ取り出す。

「あといくつ残っているか判らないけどどうぞ。昨日お話した王都のフランキさんにいただいたお菓子です。」

自分はもう食べたからと布袋を手渡した。

「旅が終わったら必ずまたこの森に寄るわ。そうしたらたくさん美味しい料理をつくりましょうね。」

「私達食べ物の話しかしていませんね。」

「いいのよ。大切な人と美味しい食事をする以上の幸せなんてこの世にないもの。」


森の民ルーンシャール国は森の西寄りの北端に位置している。

人の国では北の国ノイエルグの国土内となっているが森に関しては完全な独立地域となっている。

人がこの土地に住み、国を建て、北だの南だのと騒ぐ以前からアールヴァ族は森で暮らす。

「森を突っ切った方が早くない?」

ソールヴェイの提案は彼女が森の民だからではなく、森と谷との位置と距離を考慮しての発言だ。

「ええ。確かにその通りよ。でも山に行く必要があるのよ。」

魔女ウルリカはそのために先ず近くの村で馬車を手配すると言った。

「どうして山へ行くの?」

ツワーグ族がいるなら山へ行く理由にはなる。

「アールヴァの戦士が山に集っている。」

森で出会ってルーンシャール国に案内してくれたアールヴァ達の中に男性は2人いた。

シエナはそれをしっかりと見ていたのだが、国の中では男性アールヴァの姿を見かけなかった事を木にしなかった。

デメトリオは男性の姿を見かけないのはアールヴァの特有の事なのだろうかとあまり気にしていなかった。

「でも父上達は東のフロドレアスに行くと聞いたわ。」

ルーンシャール国王、正確には王婿(おうせい)のオーレグ・ルーンシャールは

国の防衛に数名残しその殆どの戦士を引き連れフロドレアス国に向かっていた。

当初は国王はオーレグと数名の従者のみの訪問の予定であったが

出発直前にフロドレアスからの使者が急を要する案件であり、

そしてそれはフロドレアス国の命運に関わる重大案件であると訴え

手元にあるだけの武器を手に急遽出発していた。

「森の東、フロドレアス国での会合の後、アールヴァ達は森を出て山へ向かった。」

「どうして山へ?」

「それは私にも判らない。それを確認しつつ助力を請うつもりだ。」

昨日、一行がルーンシャール国を訪れるその少し前にフロドレアス国からの使いがただそれのみを伝えただけだった。

魔女ウルリカが森の民を頼ったのは王女の援助を得たいからではない。

一般の人族は知らないがアールヴァの戦士はとても強い。

体力や剣を振る力とは違う強さ。静かで素早く、そして容赦ない。

女王ヘンデアニエーリーンから事情を聞いたウルリカはそれを追うと決めた。

何らかの理由で山へと向かった谷の者達、つまり闇の魔者や魔獣を追ったのならば

それは人族の、南の国ベルススの騎士達に任せ

アールヴァ達には直接谷へと向かいシエナに協力してもらいたい。

「馬車か。馬車ね。私馬に乗った事はあるけと馬車には乗った事が無いのよ。」

ソールヴェイは何だかそわそわしていた。

「そうですね。馬に直接乗るよりは確かに楽かも知れませんね。」

シエナの苦笑いにデメトリオも同意する。

「泣き言は聞きませんからね王女様。」

「ねぇ2人とも、その王女様って言うの止めて頂戴。」

「今は仲間なのよ。私の事はソルって呼んで。」

父親と母親にしか許していない呼び方。

「では私の事はデミーとお呼びください。」

「お二人にもそう呼ぶように言ったのですが全然呼んでくださいません。」


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