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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 序章 シエナとラウラ
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第一幕 序章03

小さな少女とその足元の大きく立派な剣。

いたずらでもしたのだろうか?

状況を確認しようと執事を見ると、

執事は領主に耳打ちでシエナの言葉を伝えた。

時々頷きながら全て聞き終えると領主は膝を折り目線をシエナに合わせ

「ようこそお嬢さん。私が領主のマルロ・リッピだ。君は?」

シエナはスカートの裾を軽く持ち、貴族の女性がそうするような挨拶をした。

「はじめまして領主様。私はシエナと申します。」

「シエナ。一人で来たのかね?」

「はい領主様。院長は市場に行きました。私一人で参りました。」

「院長?シエナはオリアーナ院長のところの子なのかな。」

「そうです領主様。」

なるほどとリッピが立ち上がり詳しく聞こうと執務室へと案内する。

女性の使用人にお茶とお菓子を用意させ

執事に若い使用人を呼びにやり剣を運ばせるよう指示するのだが

執事はかしこまりながら言った。

「申し上げますリッピ様。その剣は使用人全員でも持ち上げられるかどうか。」

「そんなに重いのか?」

領主リッピが剣に近寄り腰を落とすと執事と使用人が目を伏せて一歩引いた。

シエナはこの時「この人はとても偉い人なんだ」と理解した。

領主様は偉いのだからもしかしたらこの剣を持ち上げられるかも知れない。

シエナは密かに期待するのだが

「うーん。なんて重い剣なんだ。一体どうやってここまで運んだのかね。」

領主の尋ねにシエナが剣に歩み寄り

鞘を抱きかかえるとなんとも簡単に持ち上げて見せた。

きっと「信じられない」って顔をしながら「信じられない」って言うわ。

シエナの予想はまたしても外れてしまう。

「これは凄い。では頼むシエナ殿。その剣を私によく見えるよう支えてくれまいか。」

この人はきっとずっと私の考える事と違う事を言うのね。

偉い人はきっと誰しもそうなの。

少しフラフラとするがシエナは剣を立てて支えた。

「王国の紋章に見える。」

宝石もどうやら本物だ。

「村の鍛冶屋が宝石も銀細工も本物だと言ったのだね。」

「はい。王都の職人かツワーグの仕事だろうとも言ってました。」

本物が路に置かれていた?

盗まれたとか持ち出されたとかの話しも聞いたことはない。

持ち上がらないのは何かしらの魔法が施されているのだろう。

「私にはこれが本物かどうかは判らない。」

「ただ本物ならきっと王様から褒美がもらえるだろう。」

領主マルロ・リッピは軽い気持ちで言っただけだった。

ひとまず剣を預かり、近い内に王都へ持って行かせれば良いと考えていた。

「今は人手が足りなくてすぐには無理だが必ず届けよう。」

「ギルドで誰か頼めるといいのだがやはり今は無理だろうな。。」

ギルドも人手不足だろうし本物だとしたら国宝級の剣を扱える者などそうはいない。

使用人がお茶とお菓子を執務室のシエナの前にだけ置いた。

「リッピ様お時間です。」

「判った。支度を頼む。」

かしこまりましたと執事が部屋から出て行く。

「シエナ殿。私はこれから街の会合に出席するので失礼する。」

「ああそうだ。王都から騎士が来ているのでその者にも聞いてみよう。」

「君はお菓子とお茶を済ませたら帰りなさい。王都に届けたらオリアーナ院長に知らせよう。」

リッピが立ち上がるとシエナも立ち上がり

「判りました領主様。ありがとうごさいます。」

でも一体どうやって王都まで運ぶつもりなのだろう。

リッピが使用人を引き連れ屋敷から出ると

シエナはお茶だけ飲み干し、焼き菓子は鞄に放り込んで早々に席を立った。

執務室から出て玄関に行くと執事がいて

「ごきげんよう執事さん。領主様に言われた通りギルドに行ってきます。」

シエナは剣を抱えながら続けた。

1人で行かせるのもおかしいと執事は思ったのだが

「私にしか運べないから仕方ないわ。」

シエナの言葉に執事も納得するしかなかった。

「それでギルドの場所を教えていただけますか?」


「領主様がおっしゃったの。」

シエナはギルドで応対してくれた何とも丸い男性に伝えた。

ギルド長はその領主と奥の会議室で会合の最中だ。

「大事な会合だから誰も取り次がないように」と釘を刺されていなければ

この丸い男はギルド長に確認しただろう。

「依頼を受けてくれる人はいないよ。この街は今人手が足りないんだ。」

「どうしてですか?」

「北の国の戦争に騎士が駆り出されてね。それに」

「近頃その北の方から獣が現れるようになったんだよ。」

説明をしながらもギルドの丸い男はその剣が気になって仕方なかった。

それに無理だと告げた際の少女の表情があまりに哀れで

「まあそうだな。いくらかかるか聞くだけ聞いてみよう。」

ギルドの丸い男は武器や防具に詳しい者を呼び

剣にどの程度の価値があり、王都まで運ぶ手間の料金を算出させた。

「これ本物に見えますよ。でも本物の国宝がこんなところにある筈がない。」

「それで王都までいくらだ?」

「いくらも何も、引き受けられる者なんていませんよ。こいつの護衛には騎士が必要だ。」

「それに第一そこいらの冒険者じゃ持ち上がらない。」

「そうか。済まないなお嬢ちゃん。うちじゃあ引き受けられんようだ。」

「そうだなぁ。領主様のとこなら騎士が来るからその時持ってい行ってもらうのはどうだい。」

ギルドの丸い男が奥の部屋で会合を行っているのが王都の騎士の依頼で

しかも3名もの騎士がそれに参加していると知ってさえいればすぐにでも頼んだだろう。

シエナがあまりにがっくりと肩を落とすので

ギルドの丸い男はつい余計な事を言ってしまう。

「まあこれが本物ならお嬢ちゃんにも王様からたっぷりご褒美を貰えるだろうよ。」

「そうね。判ったわ。ありがとうまる、おじさん。」

諦めたような顔をして見せたが

シエナはこれっぽっちも諦めてなんていなかった。


領主の屋敷に置かれている「日時計」がお昼を報せ

若い使用人が中庭の鐘を鳴らしてもシエナは孤児院に戻らなかった。

ただこの時は「今頃森の手前の庭園で食事をしている頃だろう」とオリアーナは思っていた。

実際、庭園ではラウラが一人で半分になったバケットをちぎって食べていた。

ヴィタと洗濯場から戻ると、トニアが少し泣きながら言った。

「シエナが1人で行ってしまったの。」

ラウラは、シエナは先に庭園に1人で行ったのだと思った。

剣が無い事も、摘んだハーブを入れる籠が2つあった事も

その時はあまり気にしなかった。

庭園に行って周囲を見回してシエナの姿が見えなくても

「また森へ入ったのだろう。いけないって言われているのに。あの子は言うことを聞かない。」

心配にはなったが自分では怖くて森に入れない。

森の魔女から言われたのは

「1人では決して森へ入ってはいけないよ。迷って出られなくなるからね。」

シエナもそれを聞いていたのに

あの子はそれを聞いたその日に森の中に1人で入って行った。

あの時は私が心配して呼んだらすぐ出てきた。

今日もきっと呼んだら出てくるに違いない。

「だから今日は呼んであげないわ。私1人でハーブを摘むから貴女は院長に叱られるのよ。」


バケットを食べ終わってもシエナは出てこなかった。

どうしても我慢できなくなってシエナの名を呼んだ。

それでもシエナが現れなかったのでもう一度呼んだ。

現れない。

ラウラは叫ぶようにシエナの名を呼んだ。


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