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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第一章 シエナと旅の仲間
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シエナと旅の仲間 22

「少し休憩しましょう。ソル、シエナ様に我が国を案内」

「判っています陛下。さあシエナいらっしゃい。」

ソールヴゥイが手を伸ばす。シエナが躊躇したのは彼女が嫌いだからではない。

テーブルに置かれたままの剣。

「これはこのままで構いませんよ。」

女王ヘンデアニエーリーンの言葉にようやくシエナは手をのばす。

第一王女ソールヴェイはそれを待ちきれず強引にシエナの手を取ってその瞬間走り出す。


「森の民」と呼ばれるアールヴァ族最大勢力のルーンシャール国女王は

人の子が持ち込んだ「元勇者」の竜封じの剣を眺める。

もう一度柄を握り持ち上げようとするがやはり動かない。

「だとしてもあのような小さな者に全てを背負わせるのは何とも情けない。」

そんな事、言わるまでも無い。

デメトリオははっきりと口にして言いたいのをぐっと堪えた。

言ったところでその過ちが正当化されはしない。

誰が好んであのような少女を戦地に送りこむと言うのか。

自分が剣を振れさえすれば、自分が1人で敵地に乗り込むまで。

ならばこそ、デメトリオはこの旅程に疑問を呈していた。

魔女ウルリカにもそれは告げていた。

一刻も早く、ツワーグ族の元を訪れるべきたど。

森の民が好意的に親切に接してくれているからこそ大人しくしているが

1人ででもツワーグ族の元へと走り出したい。

「そうか。そうすれば良いだけではないか。」

デメトリオは突然閃いた。そしてそれをすぐに口にした。

「女王陛下。お願いがございます。シエナ殿をしばしこの森で保護してただけないでしょうか。」

「保護?それはどのような理由で?」

「私が1人ツワーグ族の元を訪れ、闇の者を討つ剣の製作を依頼します。」

その間剣とともにこの安全な森の民の土地で匿ってもらいたい。

「そうですか。どうやらご存知無いのですね。」

女王はそう言いながら魔女ウルリカに目を配った。

「申し訳ないデメトリオ殿。それは不可能なのだ。」

魔女ウルリカはそれを知っていたからこそ森の民の元を訪れたのだった。

「不可能とは?」

「ツワーグ族の国はオルクル達に襲われた。」

「オルクルが何故ツワーグ族を。」

デメトリオは言いながら気付いてた。

自分がそうしようとしたのと同じだ。

谷に棲む闇の王は青銅の竜がそうされたように、自分も剣に封じられぬよう

ウルクル達にツワーグの国を襲わせた。

ツワーグ族は山に棲み、その殆どを鉱山の中で過ごし

興味があるのは採掘された鉄鉱石や金属の加工と

金細工銀細工の美しさ細かさの競争に費やされる。

人族にもアールヴァ族にもさほど興味を示さず

時折北の国ノイエルグの商人が山を訪れ細工物を買い付ける程度だった。

南の国ベルススからの訪問が無いのは何より遠いからなのだが

ツワーグは報酬を金品ではなく「酒」でしか受け取らず、

特に北の国ノイエルグの名産「ビーア」を好むので割に合わないのだ。


ソールヴェイが最初に案内したのは国の中央の大きな湖。

青く透き通って、いくつかの桟橋と小さな木の舟。

「乗ってみる?」

シエナは舟に乗った事が無いのでソールヴェイの申し出はとても嬉しかった。

「でも私舟に乗った事はないの。大丈夫かな。」

「私は何度も乗っているから平気よ。さあいらっしゃい。」

大きな森だとオリアーナ院長は言っていた。森の魔女様も言っていたかも知れない。

とても大きな森なので迷ったら二度と出られないと言われた。

ソールヴェイが櫂を操り舟を漕ぐ。

岸から少し離れただけでシエナは少しだけ不安になった。

「私の秘密の場所に案内するわね。」

あまり遠くへ行くのは嫌だな。と思っていたが、どうやらすぐ近くの陸地を目指している。

シエナからは見えなかったがその陸地の先は入り江になってた。

視界が開けると目に入ったのは白い砂浜。

勿論シエナは海を見た事がないし、近くに寄るまでそれが砂だとは判らなかった。

浅瀬に舟が着くとソールヴェイは飛び降りて湖に入り後ろから舟を押した。

完全に砂浜まで舟を乗せると

「さあ降りて。それから靴を脱いでごらんなさい。」

シエナは言われたまま、恐る恐る靴を脱いで砂浜に足を乗せた。

庭園にも村の畑にもこんなに白くてさらさらした砂はない。

シエナがしゃがんで砂を手のひらに乗せさらさらと落としている。

「どうしてこんなに白いの?」

「御覧なさい。」

ソールヴェイが入り江の奥を指差す。

森の中の筈なのに、丘があって山がある。

「あの山には大きくて白い石がたくさんあるのよ。それが砕けて湖に流されるの。」

「綺麗ね。王女様は毎日こんなにも美しい景色を見ているのね。」

「ええそうよ。素敵なところ。とても美しい国。」

湖から少し冷たい風が髪を撫でる。それを見てシエナは

小汚いと罵られた理由が判ったような気がしてとても恥ずかしくなった。

「この湖にはね、昔竜が棲んでいたのよ。」

「私は見たことがないのだけど、母上はとても仲良しだったって。」

アールヴァ族が他の種族との関わりが薄かったこともあって

その竜は青銅の竜の呼びかけにも最後まで応じなかった。

青銅の竜が封じられ、他の竜達が新たな土地を目指すことになって

仕方なくこの湖を離れると決めた。

「竜達はずっと南の小さな大陸に渡ったのだろうって。」

「お友達と離れてしまうのは寂しいものね。」

ソールヴェイの物語を聞いてシエナは孤児院の皆を思い出していた。

「さあ次よ。今度は私の仲間を紹介してあげるわ。」」

もう少しこの景色を眺めていたいとも思ったが

ソールヴェイはとっとと舟を押し出して催促する。

「ほら乗って。」


「ウルリカ殿。ツワーグ族がいないとなると青銅の竜の復活も不可能なのではありませんか。」

デメトリオは魔女ウルリカの目的を聞いている。

彼女は最初からシエナを闇の王との争いに巻き込むつもりなど無いと言った。

ツワーグ族にその封印を解いてもらい、青銅の竜の力をこそ借りようと言った。

シエナにはそこまでの運び手としてのみの役目で

その後はすぐに王都へと帰す予定となっていた。

しかしそもそもの最初からツワーグ族を頼れないのであれば

どうしてシエナを連れてここまで来たのだろうか。

「ウルリカ殿は最初からシエナ殿に谷の者を討たせようと。」

「それは違いますよデメトリオ様。」

否定したのは女王ヘンデアニエーリーンだった。

「ウルリカ様はツワーグ族が襲われた事を知ったからこそシエナ様を我らの元にお連れになったのです。」」

少なくとも人族の鍛冶屋の技術ではこの封印を解けない。

人族で最も賢いはずの魔女でさえも叶わない。

剣を製作したツワーグ族がいない今、次に頼れるのはアールヴァ族以外にない。

女王ヘンデアニエーリーンは隣室に控えていた従者を呼び耳打ちをする。

「我が国の工房長と魔術長を呼びに行かせました。」

2人の女性アールヴァが現れ、剣に振れ(当然持ち上がらないが)あれこれと調べるが

黙って首を横に振るだけだった。


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