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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第一章 シエナと旅の仲間
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シエナと旅の仲間 20

デメトリオはどうして2人と引き離されたのかすぐに判った。

案内されたのは男性専用の王族用の浴場だった。

王都にある公衆浴場を利用する事の多い騎士団長は

他の領地の浴場が王都と較べ湯船も小さく湯量も少なく

毎回いつも物足りないと感じているのだが

アールヴァの浴場は王都のそれよりはるかに大きく広かった。

「これでは王都の浴場でも物足りなくなってしまうな。」

一人言のつもりだった。

「お気に召していただいたのなら何よりです騎士団長殿。」

第一王女を護衛していたアールヴァ達が汗を流していた。

「それに何とも不思議な湯ですね。汚れだけでなく疲れも取れるようだ。」

「数種のハーブを湯に混ぜておりますから実際疲労回復の効果もあります。」

「それは素晴らしい。」

ただちょっとデメトリオにはアールヴァの湯は熱かったので

本当はすぐにでも湯から上がりたかったのだが

ついついアールヴァ達との会話に興じてしまってのぼせてしまった。

隣の浴場では第一王女ソールヴェイと護衛役の2人のアールヴァ。

シエナと魔杖ウルリカが入浴している。

シエナは湯船どころか浴場に入るのが初めてで何をどうしたら良いのか判らず

ウルリカのする通り真似をしていた。

それからアールヴァ達のその姿に改めて見惚れてしまっていた。

特にやはり髪の美しさに目を奪われ触ってみたい衝動を結構必死に抑えている。

その髪に何やら油を塗り込んでそれを洗い流すとさらに輝きが増したので

シエナはそれをアールヴァの魔法だと勘違いしたほどだった。

あまりに凝視するのでとうとうアールヴァの女性がシエナを隣に呼び

同じ油をシエナの髪に塗ってくれた。

それを見たソールヴェイが横から割り込む。

「私がやってあげるわ。」

ソールヴェイはシエナの髪を撫でるように油を塗る。

「貴女も綺麗な髪をしているわ。なのにどうして短くしているの。」

「庭園でハーブを摘むのに邪魔になるからよ。茂みに引っ掛ったりするの。」

「ふーん。ハーブ摘みね。」

ソールヴェイはあまり興味を示さなかったが

「でも一番は木登りの邪魔になるからよ。」

この言葉にはソールヴェイも目を輝かせた。

同時に護衛役の女性達は揃って目を曇らせた。

湯から上がると綺麗な衣服が用意されていた。

アールヴァのような緑の外套は無いが肌触りがとても柔らかくいい香りもした。

シエナは驚き喜んだが

「私の服はどこですか?あれはとても大事な服なの。」

「心配いらないわ。綺麗にしてちゃんと返すから。貴女の大事な服をバカにしたお詫びよ。」


シエナ、ウルリカ、デメトリオは広い食堂に案内された。

白い石と白い木の部屋はただ広いだけで何の装飾もなく

長いテーブルと人数分の椅子と照明があるだけ。

「いつもこんなところで食事をしているの?」

長いテーブルに3人は横並びに座らせる。

食事が次々と運ばれる。その殆どが野菜と果実を使った料理で

量はともかくシエナにはどうにも味気ないようにも感じていた。

食事が終わり全ての皿が片付けられると

それを待っていたのか、着飾ったソールヴェイが1人の女性の後に続き食堂に現れた。

他のどのアールヴァ達とも違う衣服を纏い、アールヴァその象徴とも言える緑の外套を羽織っていない。

一際長く美しい髪と泉のように透き通った瞳。

その女性は長いテーブルの短い場所にたった1つだけ用意されている椅子の横に立ち

「我が国へようこそ。人族を招いたのは長い歴史において貴方達が初めて、きっと最後になるでしょう。」

我が国って言ったわ。もしかしたら国王様?シエナの予想は当たる。

「私はアールヴァ族ルーンシャール国女王ヘンデアニエーリーン・ルーンシャール。」

シエナは端に座って、女王様に最も近くてそちらを見ていたので

すぐにはウルリカとデメトリオが立ち上がったのか判らなかったが

隣のウルリカが軽くシエナの肩を叩いて振り向くと2人が立ち上がっていたので慌てて真似をした。

「私はシエナと申します女王様。」

「私は魔女のウルリカ・チェロナコチカ。」

「私は南の国ベルスス騎士団長デメトリオ・アルベルと申します。」

3人の名を聞き終えると女王は着席を促した。

「どうぞお座りください。早速で申し訳ありませんがお話をいたしましょう。」

自らも座るのだが椅子を挟んで立っているソールヴェイは立ったままでいた。

「女王さま。お話の前によろしいでしょうか。」

「はいシエナ様。いかがなさいましたか?」

「あの椅子をもう1つお借りできますでしょうか。」

「それは構いませんが何にお使いになるのでしょう。」

「そちらのソールヴェイ王女様に。」

この人の子は何を言い出すのだろうと少々戸惑っていた女王だったが

あまりに予想外の申し出に目を丸くして驚いてしまった。

それはソールヴェイ王女も同様で、シエナはその2人の顔を見て

ああやっぱり親子なのねと納得していた。

「椅子が足りないのてあればどうぞ私の掛けている椅子をお使いください。私は立ち仕事に慣れております。」

シエナが立ち上がろうとしたので女王ヘンデアニエーリーンは慌ててそれを止めた。

「どうかシエナ様。そのままで。今椅子を用意させます。」

女王が言い終わらるかどうかの内にアールヴァの女性が椅子を持って現れる。

椅子は最初、ソールヴェイの立っている王女の左側に置かれたのだが

女王はそれを右隣の、シエナのすぐ脇に置き直させた。

「さあソル。貴女もそこへ。」

「よろしいのですか?」

「シエナ様の申し出です。」

「判りました陛下。」

森で最初に出会った時とも浴場で髪を洗ってくれたソールヴェイとも違う。

ずっと大人しくてとてもお淑やかだ。

お母様が怖いのね。とても穏やかに見えるけれど。

ソールヴェイが座るのを待ってシエナはやはり立ち上がった。

「ありがとうございます女王様。」

「こちらこそシエナ様。さあお座りください。」

ルーンシャール国女王ヘンデアニエーリーンは改めて話をする。

「シエナ様、これから難しい話をしますがどうかご容赦ください。」

「はい女王様。」

大人たちの話はいつだって難しい。でも私はそれを聞くのは嫌いではない。

「ソル。貴女もいいわね。今は判らない事かも知れません。ですがしっかり聞いているのよ。」

「はいお母様。いえ判りました陛下。」

「ではまず、魔女ウルリカ様。貴女の気になっている事からお話いたしましょう。」

「私の?」

ウルリカを見詰める女王の目に、ウルリカは顔を背けそうになったのを慌てて止めた。

そんな事をしても無駄だろうし、いい機会だからシエナにも聞いてもらおうとも思ったからだ。

だが女王ヘンデアニエーリーンは魔女ウルリカが心の底てから気に病んでいる事柄には触れなかった。


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