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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第一章 シエナと旅の仲間
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シエナと旅の仲間 17

「オサって何のこと?」

シエナはウルリカに耳打ちした。

「トロルドの族長って事。つまりシエナはトロルド族のご主人さまって意味。」

「族長?ご主人さま?いやよそんなの。」

シエナは慌てて拒絶した。

トロルド達にもそれは聞こえてとても落ち込んだ。

トロルド族はいくつかの群れで生活し、その群れには「長」がいて、さらにその「長」もいた。

かつてはこの森に複数の群れがあったのだが今やトロルド族はこの一団のみとなってしまった。

トロルドの数が減った原因は知られていない。

元々どれだけのトロルドが生存していたのかも判らない。

魔女達の話によると、山から竜族が消えた事で森の生態系に影響が生じた結果ではないかと推測されている。

「私は貴方達のご主人さまにはなれないわ。今から行く所があって忙しいの。」

「俺達も行く。長を守る。」

「駄目よ。とても危険なの。それに貴方達は森から出られないもの。」

トロルド達はきっと皆で相談して決めたのだろう。

小さい人の子であろうとその強さは身に沁みている。

「俺達、長がいない。お前になってほしい。」

懇願するトロルドにシエナは嘘でもいいから返事をしてしまおうかと考えた。

でも

「そうね。そうしましょう。私は貴方達の長になります。」

驚くウルリカとデメトリオ。

少女がトロルド族の族長。

「族長として最初の命令よ。よく聞きなさい。」

シエナは跪いているドロルド達に一歩踏み出し堂々と告げた。

「たった今から貴方をトロルドの族長に任命します。」

そう言って指差したのは先頭の臆病トロルド。

困惑するトロルド達にシエナは胸を張って言い張った。

「これは族長命令よ。」

トロルド達は顔を見合わせ何やら言い合っている。

先頭のトロルドは顔を上げて言った。

「俺、臆病者だ。皆そう言っている。」

「いいえトロルドさん。貴方は慎重なだけよ。」

「シンチョウ?」

「そうよ。それは長としてとっても大事な心なのよ。」

シエナは他のトロルド達に向かって

「このトロルドさんは闇に飲まれなかった。そして皆を助けた。」

「これ以上長に相応しい事なんてないわ。」

シエナの演説にとゔやら他のトロルド達も納得したようだった。

「困った事があったらこのトロルルドさんに、族長に相談しなさい。」

「族長が困っていたら仲間の貴方達が助けなさい。」

シエナの言葉がどれほど伝わったのかは判らない。

トロルド達は互いの顔を見合わせ、それから臆病トロルドを立たせて跪いた。

「俺今族長になった。それじゃあ小さな人の子よ。お前は何になったのだ?」

シエナは少しも考える事なく即答した。

「何って、お友達よ。」

そう言って笑った。


族長トロルドが剣を抱えたシエナを肩の上に担ぎ

その後ろに魔女ウルリカと騎士団長デメトリオ。その後ろに6体のトロルドがぞろぞろと歩く。

「トモダチよ。お前は何処に行くのか。」

「何処へ行くの?」

トロルドがシエナに聞いて、シナエはウルリカに聞いた。

「森の民のいる場所よ。」

「モリノタミ。誰のことか。」

「アールヴァ族。」

魔女ウルリカのその言葉にトロルド族達が一斉に不気味な声を上げた。

「どうしたの?」

「アルブ嫌い。あいつら俺たちいじめる。」

「そうなの?酷い人達ね。そんな人達に会うの?」

「そうよ。どうしてもその必要があるの。」

歩みを止めたトロルドにシエナが言った。

「トロルドさん。そのアールヴァ族のいそうな場所だけ教えてちょうだい。」

道案内はここまでだろうなと思っていると

新たな族長となった臆病トロルドが顔を上げ背中を伸ばし胸を張り力強い雄叫びを上げた。

「俺達はお前を守る。アルブがお前をいじめるを許さない。」

その言葉に他のトロルド達も同じ様に力を鼓舞し始めた。

これは困った事になったと魔女ウルリカは思った。

シエナが言ったように道案内はここまでにすべきだろう。

アールヴァ族はただでさえ面倒な連中だ。

トロルドを引き連れてしかもトロルド達が好戦的だったら話すらしてもらえない。

「道案内はここまで」

ウルリカがそれを伝える前にシエナが族長に言った。

「私なら大丈夫よ。だから心配しないで。」

肩に担がれたままシエナがトロルドの頭を撫でる。

こうされるととても落ち着く事をシエナは知っている。

2つ上のトニアが熱を出してずっと心配していたら森の魔女様がそうしてくれた。

私はそれでとても安心しして、だからこれはきっと魔女様の魔法なのよって思ったわ。

次の時はアマリアがいなくなった日の夜にオリアーナ院長がずっとそうしてくれた。

その時も私はとても安心した。だからこれはきっと、誰にでも使える魔法。

シエナがそうされたように、シエナはトロルドにそうしていた。

「それにトロルドさん達も気を付けないと駄目よ。」

「俺達気をつける?」

「また仲間が乱暴になったら大変でしょ?今度は皆で皆を助けるのよ。」

「皆で皆助ける。俺達で俺達を助ける。」

族長トロルドは後ろを歩くトロルドに同じ事を言った。

トロルド達はお互いを見ながら同じ事を言い合った。

族長トロルドは静かにシエナを降ろして言った。

「小さな人の子よ。俺達は俺達を守る。仲間で仲間を守る。」

族長トロルドは大きな腕を伸ばし太い指で森を指して言った。

「アルブのいる場所はあっち。大きな2つの白い木の向こうだ。」

「ありがとうトロルドさん」

「ありがとう小さな人の子。羽撃く者。俺達の長。さようなトモダチ。」

トロルド達は森の奥へと消えた。

このトロルドさん達にもきっと家族がいて、お家に帰るのだろうとシエナは思った。


言われた方向に歩きだしてすぐにシエナは少し不機嫌に呟いた。

「私そんなに小さいかな。」

デメトリオは笑いそうになったがぐっと堪えた。

「そうではありませんよ。トロルドから見たら私だって小さい人です。」

「そう?。本当にそう思う?」

納得しないシエナにやはりデメトリオは必死に笑いを堪えた。


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