冒険の始まり 04
天幕を開け耳を済ませ目を凝らすと
隣の天幕から騎士団長が慌ただしく飛び出した。
その手にはやはり剣を握っていた。
その後から他の騎士も飛び出す。
ジュティ・ネツテは騎士達に声を出し指示をする。
「デヨは俺と来い。ゾロは親父の天幕だ。」
「ピクスは兵士達を叩き起こせ。」
ピスク・コビテが兵士達が眠る天幕を慌て開けるが中は空だった。
それを告げに戻ると領主イヴァン・シムを中心に騎士達と数名の兵士が集まり
その周囲を多数の兵士が取り囲んでいた。
両者は相対している。
彼はすぐに状況を理解した。
「お前たち領主に剣を向けるのか。」
兵士達の後から、騎士の鎧を纏った数名の男が現れる。
「第二王子に剣を向けたのは貴殿達だ。」
その内の一人が続ける。
「我々は帝都地騎士団。第二王子の要請により参上した。」
その後から第二王子ヴァレリー・カル・ヴォイが現れる。
「ではシム殿、それから騎士諸君。剣を収め投降していただこう。」
イヴァン・シムが剣を鞘に収めると4人の騎士達もそれに倣った。
戦闘はなく、このまま静かに事は終わる。
少なくとも同じ帝国民同士で切り合う事態は避けられた。
騎士達の憤りは伝わるがイヴァン・シムはこれで良かったのかもなと
そう思ったその時、
一人の兵士が振り返り、第二王子に斬り掛かった。
その一撃は帝都騎士によって難なく受け止められる。
「お逃げくださいっ。ここは我々が」
言葉の途中で他の数名の兵士が一斉に第二王子目掛け突進した。
弱くも降り続ける雨によって弱々しく灯りを持つのは
第二王子の近くに立つ兵士だけだったが、この混乱で灯りを落とし、踏みつけられ消えた。
「こちらです。」
イヴァン・シムは一人の兵士に手を引かれた。
四人の騎士達も、若い兵士にそれぞれ手を引かれた。
「すぐそこに馬を用意してあります。お急ぎくださいい。」
若い兵士達はシムと騎士達が馬に乗るのを届けると剣を構え振り返る。
「我々はここで足止めします。どうかご無事で゛。」
ピクス・コビテと帝都騎士とのやりとりが全てを物語っていた。
兵士達は歓迎を受ける中、第二王子側から「説得」を受けていた。
「帝国第二王子と地方領主、どちらが正義か。」
お前たちが勝利しても、それは帝国への反逆であり死罪は免れない。
これは脅迫でも忠告でもなく事実だと。
「今ならまだお前達は何もしていない。」
「私の兵になれ。」
夜になり、作戦が実行された。
第二王子に斬りかかり、イヴァン・シムを逃がしたのは竜の国の者達。
彼らは第二王子に協力すると言いながらその機会を待った。
すぐにでも伝え、逃げようと考えたが
既に自分達以外は取り込まれ、帝都からの騎士団による包囲も完了している。
何処に潜んでいるのかも判らない以上迂闊に行動できない。
ならば第二王子の作戦通り帝都の騎士達が皆を取り囲んだ瞬間こそが好機と判断し、
事前に逃走用の馬を三方に控えさせた。
後日、この事実を知ると、
イヴァン・シムは人目も憚らず号泣した。
自分を逃がすためにここまでの事を計画し実行したのだ。
この老いぼれの命を救うため、若い命を犠牲にする必要などないと叫んだ。
ヴァレリー・カル・ヴォイの元にシム領から遣いが現れ
「光の国」と称するこの土地を一族に返還するよう求められた時点で
彼はシムが挙兵するだろうと予想した。
「帝都から東南方面を開拓中、シムからの攻撃を受けた。」
帝都への遣いはその日の内に発たせた。
後は帝都からの援軍を待つだけでよかった。
帝都騎士達は第二王子の壁となり盾となり、
襲撃者から彼を守り、不届き者達を切り払った。
しかしイヴァン・シムと四人の騎士達の逃亡を許してしまった。
「追います。殿下は」
騎士が言いかけるとヴァレリーはそれを遮る。
「追う必要はない。これでいい。それよりも。」
ヴァレリーは騎士の一人に耳打ちするように伝える。
「私に歯向かった者を全て処理してくれ。」
ヴァレリーはそう言って一人引き上げる。
帝都の騎士達は剣を収めない。
雨が強くなる。
途中の村にも寄らずに馬を走らせ続け、シムは自らの屋敷へと辿り着く。
この場に兵士は残っていない。
戻ったところで何がどうなるでもない。
これからの事を考えなければならないが今は疲れ果て何も考えられない。
イヴァン・シムも、騎士達も寝台に倒れ込んでしまう。
戦闘開始が明朝と定まっていたので鎧も外していた。
だからこそ夜通し馬を走らせていられた。
天幕から飛び出る際に手にしていたのは剣だけだった。
陽の光か、それとも何かの気配を察したのか、イヴァン・シムが目を覚ます。
傍らに置いていた剣を取ろうと手を伸ばすが何もない。
首を動かすと、青年と呼ぶにはまだ幼い男が立ってこちらを見ている。。
「イヴァン・シム。大人しくしていてくれ。」
聞き覚えのある声。
「チィト・ルク。」
「今俺の仲間が騎士達を起しに行っている。」
「拘束するつもりはない。だから抵抗するなよ。」
チィト・ルクは冷たく言った。
「俺に、お前を殺させないでくれ。」




