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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第三幕 第一章 旅の終わりに
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旅の終わりに 40

不思議だったのは谷の王がいた部屋は

入ってすぐに王がいて、部屋からも2,3歩で出られたのに

中での会話が二人に聞こえていなかった事だった。

シエナは聞こえていると思っていたので言う必要は無いと思っていたのだが

デメトリオに「谷の王は何と言っていた?」と質問され

ウルリカに谷の王の言葉をそのまま伝えた。

松明の灯りが揺れて、はっきりとは判らなかったが

ウルリカは寂しそうで嬉しそうでもあるようにシエナには見えた。

塔の底からの帰り道もさほど長いとは感じなかった。

ただ松明の炎が普段よりもすぐに消えそうになるのは不思議に感じていた。

塔を登り谷を抜け、森へと入ると

アールヴァ族は引っ越しの支度を殆ど終えていた。

シエナ達はそこで思った以上に日数が経過していた事を知り三人で顔を見合わせ驚いた。

一日そこで休み、それから王都へ向かう。

イロナはウルリカとデメトリオにアールヴァ族から同行したいと申し出あかったことを伝える。

ルーンシャール国から第一王子ソールヴェイ・ルーンシャールとそのご英訳のトレ・フーロ。

シュマイル国から第一王子カスペレスタ・シュマイルと側付きトーマ・ダンヨール。

「ラーシャ国は最後まで人族とは関わらないと言って同行を拒んだ。」

イロナの言葉にルーンシャールの女王ヘンデアニエーリーンが笑って否定する。

「あの者達は既に出発したのですよ。我々が住みやすい森を探しにね。」

一行はベルスス王国の王都へと向かう。

道中は天候にも恵まれ長閑な旅となった。

アールヴァ族のそれぞれの護衛であるトレ・フーロとトーマ・ダンヨールの間で

少々込み入った話があり、他の連中か゛それを「険悪な」と勘違いした程度の騒動はあったが

何事もなく王都に到着し、騎士団長が城の衛兵に執政官への取次を依頼すると

すぐに国王ロロ・ベルススへの謁見となった。

騎士団長は二人の魔女を従え王の間へと入る。

他は別室で待機するよう言われたが、まさかじっと待ってはいられない。

シエナはすぐに調理場へ行きたいと見張りに言い出した。

「フランキさんとアルテミオさんに会いたい。」

その程度ならと、見張りの兵士はシエナが食堂へ行くのを見届けようとしたが

他の全員もぞろぞろと付いて行こうとしてので慌ててその痕を追った。

最初は歩いていたのだが小走りになってとうとう全力で走った。

どうしても聞きたいことがある。

食堂へ勢いよく飛び込むと二人はそこにいて大量の食材を吟味していた。

騒がしいなと思って見るといつかの小さな女の子がいる。

「おおっお嬢ちゃん。久しぶりだな。」

「ご機嫌ようアルテミオさん。フランキさん。」

少し早口挨拶をすると

「フランキさんっ。フランキさんの、そのあの人の弟さんって」

慌ててどう聞いていいのか判らず口にしていたがフランキはすぐに察して

「ああうん。無事に戻ったよ。」

「それじゃあ、それじゃあ」

興奮して飛び跳ねるシエナを見てアルテミオも理解して調理場から出て行った。

「ああうん。結婚を申し込んだよ。」

シエナは相手の女性がどう答えたのも聞かずにフランキに飛びついた。

フランキの表情だけで充分だった。

料理長のアルテミオが戻り、彼はフランキの婚約者である使用人の女性を連れていた。

フランキがそれに気付きシエナに紹介すると今度はシエナが女性に飛びついて驚かせた。

ラウラが引き剥がして何がどうなっているのかと説明を求め

フランキは照れながら、アルテミオは冷やかしながら経緯を語った。

一通り話し終えると料理長のアルテミオが

「それで、お嬢ちゃん達はどうして城に?」

シエナとラウラが矢継ぎ早にあれこれ言い始めて収拾がつかない。

落ち着かせようかとも思ったが一区切りついたところで判ったように

「そうかそうか、それで今日は宴会なのか。」

大量の食材の理由をようやく理解した。

するとシエナがラウラら掴み激しく揺さぶりながら

「美味しいのよっ。アルテミオさんとフランキさんのお菓子っ。」

「ずっと、ずっとラウラに食べさせたく」

揺さぶる手を止めずに泣き出した。

「判ったから。判ったから泣かないの。」

料理長のアルテミオは調理場のすぐ外で様子を見ているアールヴァの四人を見てから

「あの人達も宴会に?」

ラウラはそうだと答える。シエナはそれを聞いて涙を拭ってから

「ええ、そうよ。私のお友達。」

アルテミオはアールヴァ達に歩み寄り挨拶をする。

「料理長のアルテミオと申します。皆様苦手な食べ物はありますか?」

四人はそれぞれ顔を見合わせ「ない」と答え、

「肉も魚も、野菜も果物も食べる。」

「それは何よりです。」

フランキが「どうせなら今から甘い物を作りましょうか」と提案すると

シエナは目を輝かせるがフランキはそれを見てから

「いいや、宴会の際にお出ししよう。」

「今から支度だっ準備しろいっ。」

アルテミオの声にフランキも大きな声で「はいっ。」と答える。

「そんなわけだから出て行ってくれ。」

アルテミオは全員を調理場から追い出した。

シエナは落胆するがアルテミオがそっと耳打ちする。

「楽しみに待ってろ。皆が飛び上がるような料理を作ってやる。」

追い出されてすぐに別の使用人が一行を探し王の間へと呼ばれたので

ここでお菓子を作ってもらっても結局は食べられなかったなと少し安心した。


6人が王の謁見室に入る。

シエナとラウラを先頭に、その後ろにソールヴェイとカスペレスタ。トーマとトレが続く。

脇に控える数名の執政官が初めて目にするアールヴァ族の姿に少しだけ声が上がるがすぐに収まった。

国王ロロ・ベルススは壇上から降りる。

イロナから「お前たちは膝を折るな」と言われたのでそのまま立っていると

国王は彼女達の前で立ち止まり、片膝を折った。

目線を合わせただけかと思った執政官も、国王が二人の少女に頭を下げたのでとても驚いた。

ロロ・ベルススは顔を上げ尋ねる。

「ラウラ・ビーラコチカ、シエナ。二人の働きに褒美を与えたい。望む物はあるか?」

少女は隣の小さな少女のお手本にならないと、とでも思ったのだろうか?

執政官の何人かはそう考えた。そんな返答だった。

「国のために働いたのは騎士様達です。」

「ここにいるデメトリオ様だけではありません。」

「私の村にもたくさんの騎士様が来て、私の村と私の大切な人をお守りくださいました。」

ラウラは深々と頭を下げて言った。

「褒美をと申されるなら、命を懸けて人々を守った騎士の皆様に。」

場内に感嘆の声が広がった。

その中、一人イロナだけは笑いを堪えるのに必死だった。


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