シエナと旅の仲間 14
夕食を済ませ、シエナが眠るのを待ってから
森のざわめきを感じながら夜を過ごした騎士団長と魔女は
今後の方針について相談する。
「助けてもらえるか判らない森の民を訪ねる必要があるのでしょうか。」
「デメトリオ殿の言う通り手助けはしていただけないでしょうね。でも行く必要はあるわ。」
「どのような理由かお聞かせください。」
「私達が森の民と会って話しをする事実があればいいの。」
デメトリオにはその意味が判らなかった。
詳しく聞こうともしたが自分が頭を使う必要はないと割り切ることにした。
「それでは森の民に出会った際に私がすべき事を教えてください。」
「デメトリオ殿は本当の話しをしていただければそれで構わないわ。」
「本当の話し?」
「森の民はきっと貴方が騎士団長だと知っています。敬意も抱いているでしょう。」
だから何も隠す必要はない。森の民達はどうして我々を訪れたのかと考える。
そしてその考え通りの者達なのかを確認しようとするだろう。
「デメトリオ殿がどうなさりたいのか。森の民が知りたいのはそれだけです。」
自分はどうしたいのか判りきっている。
シエナを連れて谷へ行き、魔者の王とやらを滅ぼす。
ただずっと引っ掛かっている事はある。
魔女ウルリカの話しではシエナの抱える「竜殺しの剣」は
本当は「竜封じの剣」であって、そこには青銅の竜が封じられている。
その剣で果たして闇の王を滅ぼせるのだろうか。
「いやいや。あの威力を見たではないか。あれは魔者と魔獣を一振りで倒したのだ。」
だからこそシエナに全てを託した。
私があの剣を振る事さえ出来たのなら、どうしてあのような幼い少女を危険な目に合わせようか。
私の成すべきは1つしかない。
いつも早起きのシエナはいつもより早く目が覚めた。
その原因は森のざわめきなのだと判っている。
だからデメトリオを休ませ、寝息が届くとすぐに森に向かって歩いた。
森の奥で何かが動いているのが判る。
風で木々と葉が揺れているのではない。
もしかしたら森の民?それとも本当に妖精?
さらに森に近寄る。
いつもそうだ。
ラウラは「森に入ったら駄目って森の魔女様に言われているでしょう。」と言って私を止める。
私は聞こえないフリをして森へ入る。
だって気になったのよ。何か見えたのよ。何かいたのよ。風なんかじゃあないわ。
ラウラが大きな声を出すから逃げてしまうのよ。
ラウラが泣きそうに私を呼ぶから戻るけど、きっと森の何かは私達とお話がしたいだけなのよ。
シエナは森に足を踏み入れる。
冷たい風が吹き抜ける。
やっぱり風だったのだろうか。
引き上げようとしたがもう一度だけ暗い森に目を凝らすと確かに何かが動いていた。
風の動きとは違う、獣が真っ直ぐ走っているようだった。
鹿か猪だろうか。何度か見た事はある。
獣達はこちらに気付くと少しだけこちらを見て森の中へと帰る。
決して庭園には近寄らない。
「鹿でも猪でもないわ。もっとずっと大きい。熊なら逃げないと。それとももしかして。」
トロルド?
シエナは剣を抱えたまま走り出した。
森の中を走るのは大変なので一旦外に出て、それから獣の走る先へ向かった。
「真っ直ぐ森の外へ向かっている。もし本当にトロルドだったらすぐに朝になってしまう。」
朝日を浴びたら石になってしまう。先回りして森から出ないうよに言わないと。
大きな獣はあまり足が速くなかったのでシエナはすぐに先回りする事ができた。
それから森へ入り、獣に向かって走った。
大きな、騎士団長よりも大きな生き物。二本足で立ち、腰布を巻いて、全身毛むくじゃらの大きな生き物。
「止まってトロルドさんっ。」
シエナはありったけの声で叫んだ。
森に入ったシエナに気付かなかったのはシエナが小さいからではなく、それだけ慌てていたからだ。
何を言われたのか判らなかったが人が叫ぶ声がしてトロルドは止まった。
暗い中でも目の利くトロルドは大きな剣を抱える人の子を見付けた。
「そこをどいてくれ人の子。俺は逃げないと。」
「駄目よ。こっちは森の外よ。すぐに朝になってしまうわ。そうしたら貴方石になってしまうのでしょう?」
「俺逃る。森から逃げないと。」
トロルドは私の言っている事が判っていない。
「どうして逃げるの?何に追われているの?」
シエナはゆっくりとはっきりと聞いた。
「俺の仲間がおかしくなった。皆おかしくなった。俺もおかしくなってしまう。」
何の事だろう。おかしくなるってどんな意味なんだろう。
トロルドは何度も何度も後ろを振り返り先を急ごうとしている。
でもだからってこのまま外へ出てしまった。
どうしたらいいの。一体何に追われているの?
「おい小娘。逃げた方がいいぞ。」
声が聞こえた。
あの時と同じ声だ。シエナは抱えた剣を見た。
赤い宝石は確かに填まっている。なのに声が聞こえる。
「逃げるってどうして?」
「おかしくなったコイツの仲間が来ている。5,いや6匹か。」
暗闇に目を凝らす。森が動いている。
耳を澄ますと風の音の隙間から獣の叫びが聞こえる。
「でも私が逃げたらこのトロルドも逃げてしまうわ。そうしたら石になってしまう。」
「トロルドは石にはならん。まあ火傷で死んでしまうだろうが。どのみちお前には関係あるまい。」
シエナはそれを聞いて、奥歯をぎゅっと噛んだ。
「トロルドさん。鞘を抑えていてちょうだい。」
シエナは目の前のトロルドに剣を向けた。
「おいバカな真似は止めろ。」
シエナは聞こえないフリをした。
トロルドは訳も判らずシエナの言う通り、剣の鞘をその大きな手で掴んだ。
シエナは後ろへ2歩3歩。それでも抜けきれなかったのでもう2歩下がる。
真っ暗な森に、陽の光も星の光も当たらない森の中なのに
剣は微かに輝いている。
シエナは剣を振り上げる。
「仕方ない。おい小娘。そうでは無い。あの男がやったように構えろ。」
「あの男?」
「お前を助けたあの男がやろうとしたようにやれ。」
「デメトリオ様の事?」
「名前など知らん。早くしろ。」
シエナは剣を静かに振り下ろし、テメトリオがそうしたように
剣を自分の身体の斜め後ろに運び構えた。
まだ森の脇で、木々がさほど生い茂っていないからこその構え。
「合図したらそれを横に振れ。その前にとっととそのノロマをお前の後ろに下がらせろ。」
なんて口の悪い剣なのだろうか。
「トロルドさん。私の後ろに立って。いい?絶対に森から出たら駄目よ。」
とても大きなトロルドがとても小さな女の子の影に隠れて怯えている。
デメトリオとウルリカが見たのはまさにその姿だった。




