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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第三幕 第一章 旅の終わりに
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旅の終わりに 27

イヴァン・シムの元に領民たちが集まると

彼は自らの町を拠点に設定し西からの侵攻に備えた。

西の集落の領民を避難させ見張りと早馬を置き

直接帝都を目指すのか、それともこの地を狙うのかを見定める。

「戦闘はするなよ。敵の動きを見極めたならすぐに戻れ。」

そう言って送り出したが見張りから連絡が来ることはない。

その日の内に東から領民を引き連れ「息子たち」が戻った。

「帝都へ向かえと」

騎士達は領主の言葉を遮り

「どこかで行き違いになったのでしょう。」

伝言を任された遣いの者を後ろに追いやって答えたのだった。

「敵は少数。しかし強い。」

犬のように鳴く泥と灰を混ぜたような色の生物と聞いたが

「奴らは人の言葉を使う。」

最初に襲われた東端の村では伝言が届く前だった。

真夜中、羊たちが突然騒ぎ

「全滅させられなかったようだな。」

この地に駐留していた騎士ゾロ・ボンは小さな竜の襲撃に備えていた。

奴らは日が暮れてから現れる。

昼間の内に寝て夜は寝ずの番をしていた。

剣を腰に、弓と矢を手に外に出るとそれはいた。

なんだあれは。

羊の飼い主がそのすぐ後に外に出て見えた影が

小さな竜ではなく人の姿と勘違いしたのだろうか、

彼は「羊を怯えさせるな」と怒鳴りながら近寄った。

ゾロ・ボンが止める間もなく、その男は殴られ吹き飛んだ。

それが1体、2体なら剣を抜いただろうが

少なくとも5つの影を認識した彼は大声を張り上げる。

「鐘を鳴らせっ。全員すぐに逃げろっ。」

その声に同行していた兵が鐘を鳴らすと住民達が飛び起きる。

小さな竜の出現を想定し住民に周知させた成果である。

「無駄にならなかったからと喜べるような状況ではないな。」

ゾロ・ボンは直感に従うような男ではない。

冷静に、しかし素早く状況判断を行い適切な「道」を見付ける。

弓の射程距離ではない。承知している。

それでも矢を射るのは得体の知れない何かの意識をこちら向ける必要があるからだ。

他の息子たちは血の気が多いのか前掛かりになる傾向が強いからと

彼は戦場で一歩下がり、常に全体を見ようとする。

仲間たちの攻撃は、不謹慎ではあるが「美しい」とさえ感じていた。

単身突出する者には不安や不満より期待が先に生じる。

個々の能力の高さが調和の邪魔をしている。

自分がこの仲間たちを操れたならと想像してしまう。

だからこそミハ・イロビテを救えなかったと自身を責め続ける。

彼は覚悟を決めたが、今はその必要が無いのだとすぐに気付いた。

得体の知れないソレは怯える羊にも、逃げる人々にも、

ゾロ・ボンの放った矢にも興味を示さなかった。

人のいなくなった家の中に入り、ただ食料を漁った。

「村の者を急ぎ集めろ。全員で逃げるぞ。」

兵に先頭を任せ、自分は足止めの時間稼ぎをするつもりでもいたのだが

ソレは全ての家を漁り、それから羊たちを殺し食らうまで追いかけようとはしなかった。


「よほど空腹だったのか、奴らは追ってはこなかった。」

そのおかげで他の村を回り共に戻った。

敵の、ホウ・ウルクルの歩みが遅い事が幸いし

牧場主以外領民にも騎士達にも被害は出ていない。

食料や物資を荷馬車に積み込み移動する余裕さえあった。

真鍮の竜がホウ・ウルクル達を率いていたなら

もしかしたら誰1人イヴァン・シムの元に辿り着けなかったかも知れない。

真鍮の竜はホウ・ウルクル達に

「人族の食料を奪え、抵抗するなら殺しそれも食え」と告げ

自身は単身で谷付近まで戻り竜の国を目指していた。

(そのため竜の国から下ったチィト・ルクともすれ違う事はなかった)

ホウ・ウルクルは元来粗野で横暴である。

ただほんの少しウルクル族よりも賢く、真鍮の竜の恐ろしさを知っている。

それが枷ともなり、命令に忠実となる。

「好きに暴れろ」と命じられていたなら奴らはそうする。

食料を漁るその前に、ただ人族の虐殺を楽しむ。

「食料を求めて村から村へと渡るならいずれ現れる。」

状況判断に長けたゾロ・ボンの言葉ではあるが

敵の姿を見もせずに素直に従えるものかと

村で待ち受けるつもりだった騎士は1人ではない。

「戦うのもいずれだ。今ではない。」

「イヴァンの息子たち」と呼ばれる騎士は強い。

皇帝直属の親衛隊にも引けを取らない。

1対1、1対2ならば勝てる。負ける要素はない。

しかし1対3で囲まれたなら無傷では済まない。

ゾロ・ボンの具体的な数字に騎士達も納得するしかなかった。

「お前がそのいずれとやらを用意するのか。」

「それは私の仕事ではない。」

「私の仕事は1対1、1対2にする事。」


息子達の戻ったシム領主イヴァン・シムは戦場を設定する。

「その化物共の数は?」

「正確には不明。確認したのは11。」

対するは4人の騎士。

兵士を数に入れないのは西からのオルクルの襲撃に備えてと

最悪の事態には領民を従え帝都へと向かわなければならないから。

「11匹か。1人3匹ずつだぞ。どうするボン。」

「分散させなければならない。」

「私も数に入れろ。5人ならば誰か1人が」

息子達が勝手に話を勧め領主である自分を蔑ろにするので口を挟むのだが

「悪いがこれは子供達のお遊戯だ。」

「バーバはその場所を用意してくれるだけでいい。」

「その後は領民の傍にいてやってくれ。」


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