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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第三幕 第一章 旅の終わりに
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旅の終わりに 19

ラウラは師であるイロナ・チェロナコチカがこの場にいない事には理由があるのだと判っていた。

だがその理由が判らない。

「イロナ様はどうして国に戻られたのでしょう。」

「兵の準備だ。」

また戦いがある?でも、

「カラミア様の塔には行かれたのですよね。」

「ああ、そこで待ち合わせた。それがどうした?」

だったら経緯は聞いたはずだ。それなのにベルススへ戻った?

「ベルススで兵を集める必要があるとは思えなくて。」

「いや、奴らの数が知れない以上警戒し備える必要がある。」

「それはそうなのですが。」

「なんだ?何かあるのか?」

「いえ、何かというか、ただオルクル達がこの森に入ろうとするかなって。」

「谷の者が率いたならそうするだろう?」

「いいえ、谷の者ならばもう二度と森を抜けて私の村を襲うなんて考えないでしょう。」

それだけの事をした。

あの時、もう一人いたのを私は知っている。

だからこそ谷の者が村を襲うなんて考えられない。

オルクル達が勝手に森に入る?それこそありえない。

引っ越しで大慌てだけど、いえだからこそ、

「この森の中でアールヴァと戦うなんて、灯りの無い夜道を歩くより恐ろしいって知っているはず。」

アールヴァのいる森は通らないだろう。

「きっと山を越えてドレアス?に行く。」


イロナ・チェロナコチカはベルスス国王ロロ・ベルススと会見する。

それなりに大袈裟に国の危機を伝えたのだが

ロロ・ベルススは協力を拒んだ。

「すまない森の魔女。王国は安泰ではないのだ。」

「何とも得体の知れない何者か、しかも組織的に我が国が乗っ取られようとしている。」

「戦を仕掛けてきたなら迎え討つ準備は整えてある。」

「しかしどうやらそうではない。そいつらは戦わずして国を奪おうとしているようなのだ。」

表面化したのはクランツ公国への援軍が決定した際に

執政官の部下から猛烈な反対があったと報告を受けた事に起因する。

当初は「騎士の剣は自国の民を守るため」とする誓約に反する行為だと主張する者の声として処理したが、

その者の主張はどうやら異なる旨が上司である執政官から国王に告げられた。

ただロロ・ベルススは獣や谷の騒ぎによってその事を忘れていたのだが

「昨日南で大規模な組織が動いていると報せが入った。急ぎ向かわなければならない。」

南?そうか、ルイジアの言ったおかしな連中とはこの事か。

噂程度の話として放置したが好都合だ。国王自ら調査するなら手抜かりはなかろう。

「たしかに戦もせず国を取るとは気になるな。判った。王はそちらに専念せよ。」

兵は少しばかり借りるぞ。

「全て終えて帰還するにも国が無くなっていては困るだろうからな。」

「笑い事ではない。」

イロナはすぐに王都を発ち、急ぎリッピ領に向かった。

領主マルロ・リッピは王の要請により兵を集め送り出す準備を整えていた。

「事情が変わった。これが王の書簡だ。兵はこのまま私が預かる。」

「森の魔女よ。突然現れ随分と急ぎのご様子。」

「様子どころか実際に大急ぎだ。」

イロナは騎士数名と兵士を森近くの村へと派遣するよう伝え

自分は一足先に向かい村の連中を避難させる。

「心配するな。今度は村の連中だけだ。」

村では村に到着するとすぐに孤児院に向かい子ども達に言った。

「村中の大人を宿屋に集めてくれ。大急ぎで頼む。」

子供達が飛び出すと院長オリアーナは何事かと魔女に尋ねる。

「何事が起こるか判らない。村の者達が避難に応じてくれると助かるのだが。」

村の連中に最悪の予想を伝えるべきだろうか。

案の定、予想通り、村の人々は避難を拒んだ。

「前は皆で戦い勝った。」

確かに女性と幼子は避難されたがそれも不要なほどの勝利。

「結果としてそうなった。今回もそう願う。」

私の予想では前回の侵攻より小規模になるだろう。

「それでも最悪に備えたい。」

敵が全軍で攻め込んできたなら、リッピ領の騎士と兵士だけで充分戦える。

しかしそれは、この村でなければならない。

敵にとってここは唯一の進路である。

谷から這い上がり、アールヴァの国を避けようやくたどり着ける人族の村。

この村を抜けたなら、奴らは一体何処へ向かうだろうか。

領主の町か、それとも真っ直ぐ王都を目指すか、近隣の村や町を手当たり次第襲うのか。

ここで食い止めなければならない。

この村は防御に適しているが、それを避難を拒む理由にしてはならない。


村の者達の避難は女性と子供達に限定され、

男性の大人は村に残り騎士の指示に従う事になった。

結果としてイロナの準備は全て無駄に終わるのだが

それは彼女がそれを実行したからである。

谷では村への侵攻が計画されたが

魔女が王都へと赴き、村の防御を固めるよう王に進言した事実が伝わり

計画は変更され、村への侵攻は一切なくなったのだが

同時に旧ドレアスへの進軍に全戦力を注ぐ結果となった。

騎士達の到着を待たず、イロナは谷からの進軍路の下見として単独森へと入る。

一度目は、森を拓きながら進んだ。

今回もその道を使うだろう。

ほぼ真っ直ぐに、邪魔な木々を切り倒しなから進んだのは一目瞭然だ。

先頭は力のあるホウ・ウルクルではなくねオルクルクが数体横並びにそうしたのだろう。

村に通じつる道には結界を施してはあるが

それは村の誰かがこの道を通らないようにするためだ。

オルクル達は結界に構わず再び真っ直ぐに進むだろう。

イロナは偵察を偵察を続けるが、ほんの少しの好奇心を抱いているのを自覚した。

「このまま谷へ入れるだろうか。」


真っ直ぐ道と思ったが、振り返ると木々によって道が塞がれている。

意図的にうねらせてているのか、それともただ雑なだけなのか。

道になっているから迷いはしないからこそ、村近くを塞いで正解だった。

「ラウラが、いやシエナがいたならここまで来たかもな。」

結構長い時間歩いたが野営の形跡が見つからない。。

奴らは寝ずに村まで行ったのだろうか。

もうすぐ日が落ちる。

ここで引き返せば暗くなる前に村に戻れる。


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