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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第三幕 第一章 旅の終わりに
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旅の終わりに 16

「逃げちまったもんは仕方ねぇ。」

布切れはある。言葉もどうにか覚えた。

「だかしかしよ、一向に重くならん。」

そりゃあそうだ。ドヴァルツ族は誰一人魔法に詳しくない頃だ。

「お前たちが私の元を尋ねたのはその時か。」

「そうだ。この山に来たのはそもそも魔女がいると聞いたからだ。」

あン時、オラ達ドヴァルツには魔法が使えないってのを教わった。

あれやこれやらいろいろ試したなぁ。ああ本当に辛かった。

思い出しただけで手が震えてくるわ。

まあ魔法なんてものが使えなくても困りはしなのだが

それでも一度請け負った仕事は終いまで遂げないとな。

その割にはうんなり諦めたような。とウルリカは思い出すのだが口を挟むのは止めた。

「どうにもなんねぇで、正直に王様だかの元に行ったよ。」

魔法を使える奴が必要だと。そしたらまた呼んでくれたら何とかしてやるってな。

早速探しにやったが結局見つかる前にその王様だかはおっ死んだ。


途中からイヤな予感はしていた。

ウルリカだけでなく、デメトリオも「まさか」と考えていた。

オーリの長い話を途中で遮ってまた不機嫌になられても困るからと、結局最後まで聞いたが

2人のイヤな予感は的中してしまった。

「オーリよ。ではその剣が重いのはその魔法が施されているからなのか?」

「ああそうだ。」

ああ、なんてことだ。たったそれだけの事。

青銅の竜の意思など一切関係なく、ただ魔法の力。

「あ、しかし、その、君たちに魔法は使えないのだろう?その剣にどうやって。」

デメトリオの質問にオーリは得意気に鼻を鳴らす。

「ふふん。あの時、あの場所に魔女がたくさんいたと聞いたぞ。」

そいつらの魔法の力をこっそりと借りたと

「借りる?魔法の力を?どうやって。」

「その道具をこしらえただけだ。」

ドヴァルツに魔法が使えないのなら、使えるような道具を作ってしまえ。

その道具を使う機会ではかろうかと

荒ぶる竜の魂を封じた宝石を治めるなら、それくらいはしないと。

魔女達に内緒でこっそりと仕込んだ魔法。

「だがどうしてシエナにだけ持てるのだ。」

「シエナ?ああこのご馳走を作った小娘か。そりゃあこいつがこの剣の持ち主だからよ。」

単純な話だ。

この剣は持ち主以外を拒む。たったそれだけの話しだ。

「持ち主が変われば誰だって持てるが、それには前の持ち主がそう言わないとなんねぇのよ。」

「では持ち主のいない状態ならば誰にでも持てるのか?」

「まあそうだな。」

青銅の竜が封じられたのは真っ赤な宝石。

魔女たちはそれを「簡単に持ち運びできないように」と細工を依頼した。

彼らは大きく立派な「剣」を作りその飾りに填めた。

その剣は、竜との戦いにおいて騎士以外で生き残ったたった一人の若者に渡される。

若者は勇者と呼ばれ、その剣を持ち帰り王に献上した。

「当時の国王が亡くなってそれからずっと持ち主はいなかった。」

それが獣の騒ぎで勇者の子孫が呼ばれ剣が与えられた。

「その者はシエナの暮らす村近くで剣を捨て、シエナがそれを拾った。」

「その際に現国王の所有になったのでは?」

「いやよく思い出せ。シエナは確かに剣を差し出した。」

「しかし、しかしだ。ベルススはそれを受け取らなかった。」

シエナはその手で宝物庫へと収めた。

さすがの国王も幼い娘に「獣退治」を命ずる事もできずにたが

もし気まぐれにでも剣を手にしたなら軽々と振り上げただろう。

国王は受取を拒否し、結局シエナは自ら再びその剣を手にした。

魔者や魔物が現れ、ベルススの国王は「竜殺しの剣」ならば倒せるのではないかと考え勇者の子孫を呼んだ。

ウルリカがシエナに剣を収めるよう言ったのは、それが「竜殺し」の剣ではなく「竜封じ」の道具だと知っていたからだ。

それでも、二度目にその剣を手にしたシエナに、もう一度同じじことは言えなかった。

他の誰にも剣が持ち上がらなかった事と、獣を振り払ったその剣の威力を知ってしまったから。

ツワーグの施した魔法などと、思い至るはずもない魔女は

幼い娘に託す以外の選択肢を思いつかなかった。

「ただなぁ。」

オーリはぼそりと呟いて、デメトリオを見ながら続ける。

「いくら重くしたと言っても人族の、特にお前さんのような大男なら持ち上がるはだだぞ。」

「それに、」

今度はシエナに目を向け言った。

「元々はとても重い剣だ。魔法が無くたってお前さんのような小さな小娘に振れるはずがねぇんだよ。」


「では偉大な鍛冶師オーリ。竜の魂を体に戻す方法を教えてくれ。」

「まずこの宝石を外す事から。」

そうとも、これを聞かなければどのみち青銅の竜は復活できないのだ。

剣そのものの事情などつまりはどうでも構わない。

意を決した魔女ウルリカの質問に、オーリは実にあっさりと応える。

「そんなもん、鉄槌で叩いて砕いちまえよ。そうすりゃ中身がでらぁな。」

この言葉の通り、

シエナが倒して入った僅かな亀裂によって、封印は解かれようとしていた。

すぐに剣に収め、それは防がれたのだが

青銅の竜はこの事実を知っても、シエナに封印を解かせたりはしなかった。

青銅の竜は、今自分が何処にいるのか判らなかった。

自分の身体が何処にあるのかも判らない。

さらに、宝石から抜け出したとして、どうやって身体に戻るのか判らない。

これが身体を見てもなお、シエナにそれせを告げなかった理由である。

誤った方法で、肉体に戻れなくなってしまったなら、今度こそ本当に死んでしまう。

シエナは「宝石を壊したら中の竜が死ぬ」と考えた。

結果として、宝石を戻した事でシエナは青銅の竜の命を救った。

シエナは宝石を壊したら中の竜も死んでしまうと考え、

魔女ウルリカは宝石の竜を身体に戻すには「儀式的な何か」が必要で

そのためには宝石は完璧な状態でなければならないと勝手に思い込んでいた。

「何を言っている。なんで態々剣に、しかもこんな大きくて重い剣に宝石を填めたのか考えてみれ。」

容易に持ち出されないためではないのか?

この重さは異常だ。誰もが「竜の重さ」が剣にあるのだと考えてしまう。

「は?そりゃおめえ魔法かけてあるからな。そうじゃあねえよ。」

剣の「形」にしたのは

「先ずその宝石を割ってだな、んで素早くその剣でもって身体に穴を穿つ。」

「どうしてそんな事」

「ぶっ刺して穴を開けてやらねば中に入れねぇだろうがよ。」

なんてことだ!

デメトリオとウルリカが揃えて叫んでしまった。

「お口から戻れないの?」

シエナは至極単純な質問をする。

「まあ口でもいいけどよ。」

オーリの答えに驚いたのはデメトリオだった。

「いいのか?では剣である必要はあるまい。」

「いいけどよ、誰がその口開けるんだ。竜が戻ったとたんに食われるぞ。」

魔女たちはツワーグに「竜を封じる道具」の制作を依頼した。

ツワーグは宝石と大きな剣を用意した。

魔女達はその形に何か意味があるのだとは考えなかった。

「魔女達が何も聞かなかったからなぁ。」

私はどうしようもなく愚か者だ。

この事実を知っていたなら、

シエナに剣を担がせずとも、私が直接そうしていたのだ。

穴を穿たなくとも、口に入れて、そのまま食われてもしまうだけだ。

「偉大な魔女よ。」

騎士デメトリオ・アルベルは酷く落胆する女性に言う。

「剣を手にしたのがシエナ殿だからこそ、今こうしてここまで来られたのですよ。」


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