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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 第一章 シエナと旅の仲間
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シエナと旅の仲間 11

「ずっと昔のことだ。」

ウルリカはそのままの格好で、シエナにもデメトリオにも顔を見せる事なく続ける。

北の国の小さな領地の貴族の元で魔女として仕事をしていた。

村の誰かが病にかかれば薬を作り、

街で誰かが出産すると聞けば駆けつけ手伝った。

子供達に野草や果実を教えもしていた。

領主は静かに穏やかに平和に暮らしたいと、他の貴族達とはあまり関わらないようにしていた。

ある日、領地が突然奪われてしまった。

ずっとこの土地を欲しがっていた他の貴族の仕業なのは判っていた。

貴族の会合にあまり出席しなかった領主が悪いのかもしれない。

気付いた時には領地は全ては他の貴族の名義に書き換えられ

それを咎める者はいなかった。

領主も領民も、大人も子供も誰も彼も、それから私も先ずは山へ逃れた。

私は魔女であり続けた。

しかし領主様は変わってしまった。

いつかきっと領地を取り戻し、他の貴族達に復讐を果たすとしか言わなくなった。

竜族と出会ったのはそのすぐ後のことだ。

領主は山に逃げ延びた他の貴族達と手を組み

竜族の長である青銅の竜を利用したのだ。

「結果は知っているだろう?」

竜は封印され、我々は谷に追放された。

それからすぐの事だ。

谷の奥の、ずっと深い谷の底のその奥で、

領主は闇と出会った。

闇が彼を呼んだのかも知れない。

領主は闇の者になってしまった。

私と私の友の何人かは、復讐なんて忘れて谷から出て何処か新しい土地を探そうと言った。

谷から出ようとした日、友は皆捕まり闇の者にされてしまった。

「私は魔女なのでどうにか逃れられた。」

ウルリカはそこまで語ると深く、とても深く息を吐いてからようやく顔を上げた。

そしてシエナを見据えて言った。

「私はずっとシエナを騙していたのだ。だから私には」

シエナは椅子から降りてウルリカの頭をぎゅっと抱き寄せた。

「魔女ウルリカ様。なんて可哀想なお人なのでしょう。」

「ずっと言いたかったのでしょう?ずっと私とデメトリオ様に本当の事をお話したかったのよね。」

「でもそうしたら、本当の事を言ったらきっと嫌われてしまうと思ったのよ。」

ウルリカは小さな女の子の胸に自分の顔をうずめて

小さな身体に腕を回して抱き寄せていた。

ウルリカは、まだ涙が枯れ果てていない事に気付いた。

シエナはウルリカの頭を撫でながら言った。

「今はもう谷の魔女ではないのでしょう?だったら」

シエナは言いかけた言葉を飲み込んで言い直す。

「いいえそうではないわ。」

「私はウルリカ様が何処の魔女だろうと最初から気にしていないかったのよ。」

「だって貴女がウルリカ・チェロナコチカと名乗ったから」

「私は貴女が本物の魔女だと知っているから」

「私だけじゃないわ。村中の他の女の子だって、皆きっとただそれだけで」

「なんて素敵な出会いなのだろうって、そう思ってしまうのよ。」

ウルリカは自分が泣いてしまった事を気付かれないように涙を拭って

シエナの手を取って言った。

「私もシエナ様のお手伝いをするわ。いいえ私も一緒に連れて行ってください。」

「魔女様が一緒なんてこんな心強い事は無いわ。」

「あ、いえ騎士団長様が頼りないって言っているのではないのよ。」

「デメトリオ様は大きくてきっとお強いでしょうからとても頼もしいわ。」

慌てるシエナに大人2人が声を上げて笑ってしまった。

「私が必ずシエナ様をお守りします。何があろうとこの生命に替えても貴女を」

「そんなの嫌よ。」

「は?」

「私は誰にも死んでほしくなんてないわ。」

シエナは真剣だった。自分の想いをこれ以上言葉にして伝えられなかったが

デメトリオにはシエナの想いがスッと自分の胸に刺さるのが判った。

デメトリオは、そしてウルリカもこの小さな女の子が

こんな考え方をするよう育ったのか判らなかった。

貴族の娘であれば、騎士が命を懸けるのは当然と受け止めるだろう。

それ以外の者であっても、大抵の者はそれを名誉としてそして安心する口実として受け入れるものだ。

シエナは違った。

シエナがどんなつもりで言ったのか、正確には判らないのだが

きっと「誰にも犠牲になってほしくない」と本気で思っての事だろうと信じている。

そして「こんな事」を口にしてしまった事を恥じた。

私の縣けられる命はたったの1度だけ。

その後はどうなる。私は最後まで、全ての事を終え、最後にオリアーナ殿の元に届けるまで

命など縣けている余裕は無いのだ。

「判りました。シエナ様を助け、私も助かります。勿論魔女様も。」

「そうね。それがいいわ。」

デメトリオは早速陛下に報告しなければと部屋を出て駆けて行った。

「私も行った方がいいの?」

「では一緒に行きましょう。」

ウルリカはシエナの小さな手を取って王のいる謁見部屋へと向かった。

国王はシエナが部屋に入るのを見てすぐに階下に降りた。

デメトリオが迎え、3人で王の元まで着くとデメトリオとウルリカは王の前で膝を折った。

シエナも剣を置いてそうしようとしたが

「シエナ殿。」

国王はそれを制し、騎士団長とウルリカが自分にそうしたようにシエナに向かって膝を折った。

小さな村の小さな女の子にそうしたのだった。

長老と2人の大臣もそれに習ってシエナの前で伏した。

見ると若い使用人も、この部屋にいる他の全員がそうしていた。

シエナは自分が何をされているのか判らない。

最初にデメトリオ様にそうしたのは私をからかっているのだと思ったわ。

王様も私をおらかかいになっているのだろうか。

「シエナ様に心からの感謝を。」

それでもまだ、国王も騎士団長も自分を許せずにいた。

だからここの一言は、その自分自身をどうにか納得させようとして出た言い訳でしかない。

「羽撃く者よ。どうかお心のままに。」


夜、旅に備えてシエナを眠らせた後、

魔女ウルリカは騎士団長デメトリオの部屋を訪れる。

「いかがなさいましたかウルリカ殿。」

「貴殿はその、構わないのか?私が貴殿を騙していた事も、私が谷の魔女であることも。」

デメトリオは事実彼女に対して不満も不安も抱いていなかったのだが

それをどう伝えたら判ってもらえるだろうかと少し思案した。

その姿に魔女ウルリカは「自分はこの先も信用されないのだろうな」と勘違いをして落胆するのだが

「私は村の娘ではありませんが」

「私もウルリカ様を始めて見たその瞬間に、なんと素敵なお方だろうと思いました。」

「ですからそれでよろしいのでは?」

魔女ウルリカは、デメトリオに対し「なんて単純な人だうろ」と呆れる。

同時に身勝手な理由で落胆していた自分にも呆れてしまった。


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