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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第三幕 第一章 旅の終わりに
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旅の終わりに 06

「その国を滅ぼしたのが我々ルーンシャールです。」

シュマイルやラーシャも魔法を使うが

ルーンシャールははるかにそれを凌いでいた。

「争いを起こした国も、元は我々の一族。」

女王のこの言葉に、ラウラは確信を抱き、話を遮るように言った。

「それは使い方が、使う者が悪いだけではありませんか?」

女王は微笑み答える。

「そうです。見習い魔女ラウラ・ビーラコチカ。」

「だからこそ、私は貴女にこの書を授けるのです。」

森の魔女イロナ・チェロナコチカからはラウラの思う「魔法」を殆ど教わっていない。

自分に魔法の力があって、それを使える事は教わった。

使い方は、アールヴァ族のシュマイル国のトーマ・ダンヨールのそれを

見様見真似で、ただ何となく使っただだ。

小さな箱を使った光や闇の魔法もそうだ。

弟子と師匠の意識の隔たりはここにあった。

師である森の魔女イロナ・チェロナコチカは

弟子であるラウラ・ビーラコチカに

「魔法の使い方は教えた」と考えている

イロナが孤児院に置いた殆どの本こそが「魔法の書」。

騎士による胸躍る冒険譚。

王子と町娘の悲恋の物語。

猫から逃げるネズミのマリー。

双子の少女と墓堀人のステファン。

イロナ・チェロナコチカは孤児院の誰かを魔女にしようとは考えていなかった。

旧知の仲である院長のオリアーナに「依頼」され

子供たちに知恵や知識を与えていた。

自分の研究に没頭したい時に本を与え、それを読ませていただけだ。

ラウラは全てを読んだ。

イロナはそれを「教えた」と言うだろう。

アールヴァ族ルーンシャール国女王ヘンデアニエーリーンは書を開く。

「風、土、水、火の魔法に精霊が関わっているのはご存じですね。」

「はい。」

これはアールヴァ族の考えで魔女とは異なる。

「しかし、光にも闇にも精霊は存在しません。」

魔女もそう考える。だがラウラの考えは異なっていた。

ラウラは、光と闇の魔法には「火」の魔法が関わっているのだと考えた。

火は光を発する。光があれば、闇が生まれる。

女王はラウラのこの考えを驚きながらも否定した。

「火は光を発しますが、それは結果でしかありません。」

「火がなくとも、明るい空ならば光が満ちている。」

「夜空であろうと、月と星の輝きは光です。」

実はラウラは「お日様も夜空の星も燃えているから光っている」のではと仮定していたのだが

これは口にしなかった。

「さらに、光と闇も、それぞれ異なる魔法であると知りました。」

表裏一体ではなく、別の、独立した魔法。

「4つは精霊の、光は光。闇は、闇に生きる者の魔法。」

夜を広げるだけの魔法ではない?


「ソル様は魔法を使いたいとは思わないのですか?」

「必要があればそう思ったのでしょうね。」

魔法について考えたのは一度や二度で゛はない。

実際に「魔法」を試した事もある。

母に尋ね、教えを受けたこともある。

母は咎めるでも戒めるでもなく娘に魔法を見せ、それを実行させる。

「精霊の言葉を聞いて、こうしたいと言葉を伝えても、その通りにはならない。」

ソールヴェイが学んだのは「魔法は万全ではない」事実。

「殆ど」ではなく「すべて」が魔法以外の力で解決できる。

火を起こすのは火打ちの道具がある。

水は桶で運ぶ。土を掘るのも盛るのも手でする方が早いし正確だ。

風はただ真っすぐに、そよそよと吹く。

獲物を狩るならば弓を操る術を磨き、ナイフを研ぐ。

ラウラの村では、ラウラは地面に何やら模様を描いて大きな穴を開けたが

あれだってたった一本の線が消えてしまえば何の意味もない。

「すごいとは思ったけど、私には必要がない。」

私には必要だ。

ソル様のように弓や剣を扱う技術はない。

村を守るためには、シエナを守るには大きな力が必要だ。


ルーンシャールからシュマイルに向かった魔女はたった一人。

湖の魔女ルイジア・チェロナコチカだけだった。

塔の魔女カラミア・チェロナコチカは途中まで引き返し、

ステファノス公国に立ち寄り騎士団長ピュイ・ステファノスと再会した後、

叔父である国王リヒト・ステファノスに面会し兵を預かった。

ステファノス公国に騎士階級はなく、兵は全て民間からの徴用である。

「川には一部の予備兵力を残すだけでいい。」

カラミアは川からの侵攻は無いと確信していたが

これから起こるであろう戦いで逃げ延びた何かが川を渡らないとは言い切れない。

「戦いとは?」

国王、リヒト・ステファノスは魔女の答えを完全には信じられない。

「谷から這い上がった者。そしておそらまくは、その者たちが従える獣たち。」

森の魔女、イロナ・チェナロコチカはシュマイルには向かわなかった。

何度も方向を変えようかと考えたが思い直しを繰り返した。

イロナはベルスス王国王都に向かい、兵の増員を依頼する。

ノイエルグから帰還したであろう騎士団のほとんどは王都に留まっている筈だ。

村にいる騎士達でも充分事足りるだろうが

戦の結果がどう転ぼうとも人手は必要となる。

アールヴァ達が森から去る。

考慮も想定もしていなかった事態だ。

「この森の殆どは切り拓かれるのだろうな。」

計画の変更は、イロナのこの嘆きから始まった。

シュマイルも、ルーンシャールも、森に棲むアールヴァ族は

人族との関わりを避けている。

「竜の復活」が無ければそれは今でも続いていただろう。

「その仮定は無意味だ。それならアールヴァ達が森を去る理由もなくなる。」

「森の管理はどうなる。」

「待て。その前に森への侵入をどう防ぐのだ。」

魔女達の緊急の会議にルーンシャール女王が一つだけ約束をする。

「その心配には及びません。」

「そのためにソールヴェイをラウラ・ビーラコチカの共に付けたのです。」

ソールヴェイはシュマイル国王ペテルボレス・シュマイルに宛てた親書を携えている。


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