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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第三幕 序章 真鍮の竜
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真鍮の竜 02

アールヴァ族は森に住み着き、人族との交流を断つようになったが理由は定かではない。

習慣や文化の差異よりも、互いの種族の寿命の違いが原因とも言われているが

アールヴァ族が人族の生活圏から去ったのは事実だ。

谷でもその事実は知られている。

人族との間に諍いがあったとしても、おそらくはアールヴァ族は関心を示さないだろう。

真鍮の竜は人族と同じようにアールヴァ族とツワルグ族を恐れた。

真鍮の竜には、それぞれが「異なる種族」である認識はない。

それぞれの生活圏の違いも意識すらした事はない。

真鍮の竜にとっては、地面を二足で歩く生物。との認識でしかない。

もっと言えば、谷の奥底に住む人族と、浅い場所に潜むオルクル族との違いも判らない。

その両者を別の存在と区別していたのは、

言葉を発する者達と、それ以外。

(言葉とは竜族の用いる意思疎通技術であり

 人族はその技術を盗んだ。のだとさえ考えている。)

そう認識させたのは、単に獣やオルクル族を安易に操れた事に起因する。

つまり、支配には「言葉」が邪魔をしているのだと結論付けた。

「それ以外」と考えていた森に棲むトロルド族の支配が不完全だったのもそれが原因であった。

身体は大きく力は強いが愚鈍で臆病な連中は、容易に支配できる。

トロルド族に言葉を操るほどの知能があるとは思わなかった。

アールヴァ族の殲滅を一度命じたならば、

どちらかが滅ぶまでそれは行われるだろう。

結果として、真鍮の竜はアールヴァ族と人族とを再び結託させてしまう。

これは真鍮の竜が尊大であり続けた結果でしかない。


塔の王と呼ばれる男が正気を保ってもなお

真鍮の竜の言葉に従い続けるのは

真鍮の竜が、今は谷に暮らす者達の希望になっていると知っているからだつた。

その動機がたとえ「恐怖」であろうとも、

谷の外に出る。陽の光の元で暮らす。

この行為こそが全ての谷の者の唯一絶対の共通意思。

彼が塔の王と呼ばれる事を受け入れたのは、

その希望を絶やさぬように、同時に、

人々がこの邪な竜の虜になってしまわないように、

塔の王は、真鍮の竜が復活を果たしたならば、

谷に棲む者達を皆殺しにするだろう事を知っている。


かつては帝国の貴族だった者の子孫達は、

帝国に対する恨みをも受け継いでいる。

谷の奥底に、真鍮の竜の呼びかけに応えた者の殆どは

この恨みを受け継いだ者達。

真鍮の竜はそれを利用し誘惑する。

「お前たちが王となれ」

勿論そんなつもりはない。人族は根絶やしにする。

真鍮の竜が尊大であり続けなければ、

谷に暮らす全ての者がそうである。と勝手に思い込みさえしなければ

帝国に恨みを抱かぬ若者を「塔の王」として認めはしなかっただろう。

真鍮の竜が尊大であり続けさえいなければ、

人族を見下し続けていさえいなければ、

剣を見失った事も、森が再び焼かれていない事も、

竜の肉体がいつまで経っても見付からない事も、

「人族が愚かだから」と結論付けはしなかっただろう。

ただ真鍮の竜がその体の大きさに似合わず、短気であったために

それでも塔の完成間近になってようやく

「全てが遅いのは理由があるのか」と考えるようになった。

いっそ谷の人族を皆殺しにしてしまおうか。

言語を使わない下等な人族(オルクル族)を操れば造作もない。

しかし奴らは単純過ぎて細かい指示が与えられない。

殺せと命じたなら全員殺すか、全員殺されるかまで終わらない。


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