塔の魔女、塔の王 24
「こうして私は塔の形をした牢獄に閉じ込められたのさ。」
酷い話。
でもどうしてこんな人の言いなりになったのだろう。
「魔女殿、カラミア様。」
クランツ公国騎士団長エッフェ・ティーガは立ち上がり頭を下げる。
「お願いします。知恵をお貸しください。」
カラミアは答えなかった。
「カラミア様はクランツ公国と契約を結ばれ、」
「そして私は公国騎士団団長としてカラミア様にお願いいたします。」
「国を、いえ、国民を守るための知恵を私に。」
塔の魔女カラミア・チェロナコチカは立ち上がり外套を翻す。
「虎を称する誇り高き騎士よ。頭を上げてくれ。」
「微力ではあるが喜んで手を貸そう。」
きっとこうなるだろうなって私には判っていた。
イロナ様もそうだけど魔女って本当に面倒。
そんな事より私はすぐにでもシエナを探しに行きたい。
カラミア様に山への行き方を教わりたいのに。
それとも一度ルーンシャールへ戻ってソル様と一緒に行こうか。
「では改めて状況確認だ。」
「ステファノスは兵を出せるのか?」
ピュイ・ステファノスもここぞとばかりに立ち上がる。
「勿論です魔女殿。全軍をもって駆けつけます。」
「期待しているぞ。ディノ。獣の言葉を使う者はどれほどいるのか。」
「私が知るだけで10名ほど。」
「ならば各部隊を率いるのも可能か。」
オルクル個々はさほど強くはない。
数が多いほど厄介になるだけだ。
分散した敵には各個撃破が効果的ではある。
「ホウ・ウルクルの数は?」
「申し訳ありません。判りません。」
「ラウラの村には連れて無いのだよな。」
「はい。」
「南の川を渡ろうとした中には?」
「姿はありませんでした。」
規模を考えると北からの部隊にもいないた゛ろう。
「本体にどれほどいるか。」
「理想を言えば各個撃破し本体を待ち受ける。だが」
奴らもそこまで間抜けではあるまい。
こちらが向かっても姿を消し首都へ戻った際に一斉攻撃をしかける。
街道におびき寄せて側面から攻撃
一箇所に集めて包囲殲滅
数が多すぎる
いつの間にかステファノス公国騎士団長が戦術立案に加わり議論を交わす。
村や町を転々としながらそれを追わせて消耗させる。
西のエンツ公国まで引き連れ無理やりにでも協力させる。
「最も手っ取り早いのは」
各個撃破などと悠長な手段を取らず
「一か所に集めてドカンと。」
「言うのは容易いですがその方法が」
「城に入れて城を崩せば済むぞ。」
「城を?それこそどうやってドカンと。」
「魔法でだ。どうだビーラコチカよ。」
「出来なくはないでしょうけど、私の魔法の力ではとても足りませんよ。」
陣を設置し、魔法の流れる路を作り、魔法の力を流す。
城の破壊が可能。この言葉で魔女の恐ろしさが伝わる。
出来なくはない。か。恐ろしいビーラコチカだな。森の魔女め羨ましい弟子だ。
「魔法の力ならあるぞ。長い事塔に溜め込んでいるからな。」
と言っても陣の設置と路の作成には間に合わない。
緻密でかつ正確でなければならない。ラウラ1人ではどうにも出来ない。
騎士や兵士が手伝ったとしても、少しでも雑な箇所があれば流れは止まる。
「壊すのは無理でしょうけど、お城は使えそうですね。」
「どうやって?」
「閉じ込めて蓋をしてし出られなくするだけですよ。」
するとどうなる?
「お腹を空かせて戦えなくなるじゃあないですか。」
あまりに単純な発想に2人の騎士は笑い出してしまう。
ラウラは大人達の大笑いにすっかり不機嫌に不貞腐れてしまう。
「私は真剣に言ったのに。」
塔の魔女カラミアは笑ってなどいない。
ラウラのこの案は、食糧を漁り破壊された首都を通って
奴らがすぐに腹を空かすのだと理解した上での発言なのだ。
「囮が必要になるな。」
魔女の言葉に騎士達も驚く。
「まさか本気で」
「空腹を待つまでも無い。城に閉じ込め火を放つのも有効だ。」
実はラウラはそう言いたかったが止めていた。
それは村でもうした。
オルクル達の悲鳴が今でも耳の中に残っているようで堪らなく不快だ。
可哀そうだとは思わないが残酷だとは思う。
オルクル達は人を殺す事を躊躇わないし
残酷だからと黙ってこちらが殺されてなんてやらない。
それにしても、
カラミア様は壊すとか燃やすとか言っているけれど
やっぱり閉じ込められて怒っていらっしゃるのね。
さっきも町や村を回ってとか言っていたけど
そんな事したらこの国が荒らされてしまう。
理解するほどに魔女カラミアの作戦案が少々偏っているように感じた。
思い過ごしなら良いのだけれど。
カラミア様はオルクル達にの国を潰させて
その後で退治しようとしている?
そもそも、オルクル達が現れると予期していたなら
何が何でも王様の出発は止めるだろうし
道中王様が襲われたら一体どうするつもりだったのか。
攻め込まれる前に橋を落として来られないようにするとか
橋に罠をしかけて渡っているときに落とすとか。
いくらでも攻め込ませない方法はあったはずなのに。
ラウラはカラミアの契約について「ひどいはなし」としか思わなかったので
「国がなくなれば契約もなくなる」事に気付かず、
魔女がまさかそんな恐ろしい事するはずがない。と自分の思い過ごしだと決めつけた。
なのにどうしても引っ掛かるのは
森の魔女イロナ・チェロナコチカも似たような事をしようとしていたからだ。




