塔の魔女、塔の王 20
南の街道を見張る兵士が引き連れていいたのは
ステファノス公国から騎士団長であり王位継承者ピュイ・ステファノスと、
外套のフードを目深に被るのはどうやら少女のようで
もう1人は体中を布で覆い隠した長身の者。
突然現れた奇妙な3人組に面食らうエッフェ・ティーガ。
荒れ放題で人の姿の無い変わり果てた首都に驚くピュイ・ステファノス。
両者共、何をどう切り出せばよいのか判らず戸惑っていると
「えーと私から失礼いたします。」
「私は魔女の塔を、いえ塔の魔女様に会いにこの国に来ました。」
「え?ああそうなのか。私もこれから。あ、いやステファノス殿のご用件が先か。」
「実は私も塔の魔女殿に面会を求めて参りました。」
「そうなのですか?しかし一体何故。」
「この少女の言葉が事実なのかを確認したく。」
「一体何が。」
エッフェとピュイの会話に再び割り込む。
「あのですね。何度も同じ話をしたくないので」
「魔女様の塔に一緒に行きましょう。」
落ち着き払った態度の少女に戸惑う騎士2人。
エッフェ・ティーガは「馬ですぐです」と言ったが
その割にいつまで経っても「塔」らしき建物は見えない。
少女を前に乗せる男は片手で地図を見る。
「女王陛下からいただいた地図ではもうとっくに見えているはずです。」
「塔と言っても低いのでしょうか。」
後ろを走るピュイ・ステファノスも同じ事を考えていた。
「地図を見せて。」
受取りそれを眺める。
「本当ね。でもほら、魔女の塔よ。」
何がどうなったのか、いつからそこにあったのか、
どうして今まで見えなかったのか
円筒の石造りの高い塔が突如目の前に現れる。
「本当に魔女って面倒な人達。」
長い長い階段を登りなが少女はもう一度呟く。
「本当っに魔女って面倒。」
出迎えたのは、髪を纏め後ろで束ねたただの美しい女性。
外套を翻すと、華奢なようではあるが靭やかで張りのある若い女性の身体が現れる。
エッフェ・ティーガは以前にも魔女の元を訪れた事がある。
そのいつも大きな毛布を羽織っているだけのような恰好で、
髪は乱れその隙間から僅かに目の光が零れる程度で顔なんてまともに見たこともない。
「なんと麗しい。」
あまりの美しさに自分がそう口にした事にも気付いていない。
「そろそろ現れる頃だろうと支度をして待っていた。」
それはエッフェ・ティーガに投げられた言葉ではない。
「しかしまさか少女だとは予想できなかった。」
「私が塔の魔女カラミア・チェロナコチカ。」
予想?カラミア様はイロナ様を待っていたのだろうか。
少女はフードから顔を出し挨拶をする。
「始めましてカラミア様。私はラウラ。ラウラ・ビーラコチカ。」
「森の魔女イロナ・チェロナコチカの弟子です。」
カラミアは全員に椅子を用意、ハーブティーを淹れる。
「騎士お2人は少しだけ待ってくれ。」
「私はまずこのビーラコチカと話しがある。」
カラミアは最後にラウラにお茶を渡し
「さて、ではお前の村で何があったか。それから聞こうか。」
「え?はい。いえ、その前に大事な手紙を預かっております。」
多分、イロナ様が事情を事細かく書いているに違いない。
「おおそうか。では早速。」
カラミアは手紙を受け取り封を切り中を読む。
長々と詳細が記されているに違いない。
ゆっくりお茶をいただこう。
ラウラがカップを手に取ると
「なるほど判った。では話てくれ。」
「はい?」
「お前に聞けと書いてある。」
「ああ何てこと。」
手紙を書くよりも、確かに手っ取り早い。
だからって私を、私自身を手紙扱いするなんて。
嘆くラウラを他所にカラミアは勧めた椅子に腰を下ろさない男に声をかける。
「それで、お前は?執政官にも騎士に見えん。」
「私はこのお方の従者です魔女様。」
「ちょっと。貴方は従者では無いわ。」
反射的に声を荒げたラウラ。
「では何でしょう。」
「私のお供です。偉い人とは大人の貴方がお話ししていただかないと困ります。」
「待て待て。経緯は知らんがお前も事情を知っているのだな?」
「私より詳しいです。」
「判った。では大人同士聞かせてくれ。お前は何者だ?」
「私は谷の者と呼ばれていました。」
魔女の弟子の連れ歩く男。
いくつかの見当は付けていた。
その中で最も可能性が低く、同時に最も適した存在。
「今はイロナ様からディノと名付けられましたよ。」
「そうか。ディノ。教えてくれ。谷の塔は完成したかの?」
「私のような兵には判りません。」
早速私に判らない事を言い出した。
谷の塔って何だろう。
カラミア様はディノが何者なのか知っていたみたい。
ああでも良かった。
難しいお話は大人に任せます。
高い塔を登って疲れた。私はゆっくりお茶を飲みましょう。




