表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第二幕 第二章 塔の魔女、塔の王
134/242

塔の魔女、塔の王 10

父は権力争いに負けた。

敗者は領地と財産を奪われる。追放だ。

勝者によって殺されなかっだけ幸運だと言った。

山脈を越え、帝国へと亡命しようと言った。

過去、同じように敗者は帝国へと渡ったのだと聞いていた。

それが成功したのかは知らないが

一族、数組の家族を引き連れての山越えは最初から無理と承知していた。

それでもそうするしか無い。

水と食料はすぐに尽きた。

倒れた者はその場に置き捨てた。

そうするしかなかったから。

父も途中で倒れ、その場に残した。

そうするしかなかったと、皆言っていた

何日経ったか判らない。

生き残ったのは僕を含めて3人。

山の奥に広がる景色は、夢の中にいるようだった。

大きな湖と、立派に立ち並ぶ木々。

不思議な衣装を纏った者達は、知らない言葉を語った。

その者達は3人を救い、倒れていたもう1人も連れてきていた。

食事と寝所を与え、僕達はどうにか生き延びた。

しばらくして言葉が判るようになった。

この集落の者達は、ずっとずっと東、帝国のさらに東の

小さな島国から辿り着いた(らしい)。

この湖には「竜」と呼ばれる大きな、とても大きな生物が住み着いていた。

人の言葉を語るその大きな大きな生物はとても穏やかで

人を襲わず、自分が襲われないと判ると東の者達と共に暮らしていた。

少しすると、山の東の帝国から子供が現れるようになった。

竜の餌として現れるのだが、この竜は人を喰わない。

帰れないと泣く帝国の子もこの地に住み着いた。

すぐに世界が騒がしくなり、湖にいた穏やかな竜は飛び去ってしまった。

僕達が救われたのは、そのすぐ後だった。

子供たちが、竜の帰りを出迎えようと集落の外に出ていたお陰だ。

何人かの大人は帝国から現れた子供を頼り、亡命出来ないかと画策したが

その子は帰りたくない。帰れば殺されると取り合わなかった。

2人が道だけを教わり、帝国へと向かい山を降りたが

その後どうなったのか僕は知らない。

僕ともう1人の大人は、ここで共に暮すのだと思っていた。

そうならなかったのは、それからすぐ後、

この湖に新たな竜が現れたからだった。

美しく黄銅に輝く身体から、皆は「青銅の竜」と呼んだ。


青銅の竜は美しいが、獰猛で狡猾だった。

山で獲物が狩れないらしく、人里でヤギを捕まえたり、

山の西にあるらしい海で魚を捕り何日も戻らなかったが

一度戻るとそれと同じくらい何日もただ水浴びをした。

青銅の竜は人を見下し、自分の身体のように輝く物を欲した。

この集落にはそんなものありはしない。

僕たちは、追い出されるようにこの地から去り、

新たな住処を探す事になった。

だけど、1人だけ去らなかった。

僕の父の兄の従兄弟だとか言っていたが詳しくは知らないその男は

青銅の竜と何やら取引をした。

最初は僕にもここに残れと言っていたが僕は断った。

彼は「いずれ迎えに行く」と言った。

男は竜に「輝く物」を差し出すと言って竜の背に乗り山を降りた。


100日経ったのか。200日経ったのか。

竜は傷だらけで山に戻った。

もうずっと竜の姿を見なくなっていたので

そろそろ湖のこの場所に戻ろうかと話していた頃だった。

竜の傷を心配した誰かが

苛立っていた竜に殺されて、その考えは無くなった。

何日かすると、南の国の鎧を纏った男達と

「魔女」と名乗る8人の女性が竜の元に現れた。


僕が覚えているのは、

何も無かった場所に、竜を囲うように「地面から岩が生えた」のを見て、

そのすぐ後に、南の国の鎧を着た男達が僕の腕を掴んだこと。

眠ってしまったようで、それからの事は覚えていない。

目を覚ますと、広くて薄暗い場所で見たことの無い人達の中にいた。

誰かが、僕の父の名と、竜の背に乗って山を降りた父の従兄弟の名を言って

2人とも亡くなったので一族はお前に従うと言った。

何を言われているのか判らなかったし

皆僕より大人で、僕が何をすべきなのかなんて判らない。

皆が協力すると言ってくれたが、

その内の1人の女性は、ずっと僕を助けてくれた。


そこが深い深い谷の底なのは判った。

水は流れている。

食料は、谷からどうにか登った者が何処からか手に入れ戻るか、

谷の中に棲むコウモリのような何かとか、ネズミのような何かとか、

ご馳走は谷のずっと南の崖で釣れる魚。

海の近くは谷が浅く、陽の光も射すのだが

海が荒れるとと谷の中まで海水で浸かり、しばらくはそのままなので

普段暮らすのは海の水の届かない場所で、

残念ながらそこは陽の光が殆ど入らない。


谷での暮らしに不平不満を零し嘆く人は多かった。

でも僕には判らない。

あの湖の集落よりは酷いが、山の中を歩き続けるよりずっといい。

谷から出る方法は2つ。

高く高く、陽の光がずっと遠く見える崖をひたすら登るか、

南の海側の崖を海に飛び込むか。

嵐の日に、谷に入る波と共に海へと出た者もいた。

嵐が去り、何日かして、その人が浮いているのを見てからは誰もそうしなくなった。

時折、食料を運ばれるのは

誰かが崖を登り降りしているからなのだろうと考えた。

だから谷から出ようと思えばきっと出られるのだ。

それでも誰も崖を登ろうとはしないのは何故なのだろう。

僕がそれを知るのは

ずっと後、大人になって、

僕を助けてくれていた女性が

「魔女」だと知ってからだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ