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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第二幕 第二章 塔の魔女、塔の王
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塔の魔女、塔の王 09

ベック・クランツを塔で下ろし、首都に戻った騎士団長エッフェ・ティーガは

早速各小隊責任者を呼び寄せ、君主の意向を伝えた。

「それでカイゼルは何処へ。」

「塔だ。」

皆がその言葉に苦い顔をするのを見てバッカ・バララッカが尋ねる。

「塔とは?そこに何がある?」

「そうか。お前はここの産まれじゃあないからな。」

エッフェ・ティーガの答えでは判らず問い質そうとすると

ジルスト・ブーホが話を続ける。

「魔女の棲む塔だ。」

「魔女?魔女とは?その、何者だ?」

取り乱すような若いバッカ・バララッカにティーガは笑い

「何者と問われても魔女としか答えられんよ。」

騎士団の中でも一際背の高いオリビエル・トームが会話に加わる。

「魔女とは傷を癒やす者。と聞いている。」

「傷?怪我を治すと?」

「お前がトーム(塔)と呼ばれているのはデカイからじゃあないのか?」

「話を逸らさないでくれ。」

騎士団の中で魔女の存在を知らないのはどうやら自分だけかと

田舎者であるがゆえの無知が悔しかった。

「つまりだな。隊長殿にもよく判らんのだよ。」

同年齢のイーゲ・リンケフェアタイディガーが茶化すとどうやらその通りのよただった。

「塔に棲む女性。確かなのはこれくらいだ。」

「噂ならいろいろあるぞ。」

「トームの言ったように傷を治すだとか。」

「雨を降らせるとも聞いた。」

「炎を操る魔法が使える。」

「そしてかつて竜を滅ぼしたと。」

田舎者の自分でも聞いたことがある。

かつてこの世界には空とを飛ぶ巨大なゲッコー(ヤモリ)が存在し

英雄達によって滅ぼされたのだと。

「その英雄達の1人だと?いやだとしたら一体何歳なんだ?」

「その話が事実なのかも怪しいがな。」

「しかしどうしてあのような塔に?見張りこそいないがあれではまるで。」

「牢だな。」


伸びるがまま放ったらかしているであろうボサボサの黒く長い髪で

その顔立ちがはっきりと認識できない。

同様に黒くて長い外套はその体型を覆い隠す。

なるほど確かに魔女なのであろう。

時折背を向け何やら作業をしているようであるが

ベック・クランツは二歩ほど歩み寄り、大きな木机越しに話をする。

「お忙しい中申し訳ない。貴殿の知恵をお借りしたく参った。」

魔女は背を向けたまま即答する。

「判った。」

「え?あ、いや私が頼んでこのように言うのはおかしいが」

「その、内容も聞かずによろしいのでしょうか。」

「条件が一つ。私に行動の自由を約束しろ。」

ベック・クランツはそれが出来ないから「知恵を」と言ったつもりだった。

通じなかったのか。

「それはお約束できません。」

魔女は変わらず振り返りもせず言い放つ。

「ならば谷の獣の餌になれ。」

「何故それを。いや、やはりそうなのか。対抗手段はあるのか?」

魔女はようやく振り返る。笑っているようではあるがよく見えない。

「あるぞ。相手にしない事た。今すぐ兵を挙げてドレアスを滅ぼせ。」

単純明快だ。援軍が到着したところで援護する国が無いのだ。

「猶予は?」

「さあな。塔の上からでも山の中までは見えんよ。」

「では援軍が到着したらどうなる。」

「当然獣とオルクルの襲撃を受けるだろうよ。ただし、」

「ドレアスが滅んだ後だな。次はここか、ステファノスか。」

「こればかりは私の都合では決められん。」

ベック・クランツは俯き一思案してから顔を上げる。

「我が国だけでは対処できませんか。」

「騎士と兵共と領民全てを集めても無理だろうな。」

「オルクル共がそこまでの戦力になるとは。」

「オルクルだけならば騎士共だけで充分だ。」

しかし獣がいる。獣がいるのはつまりそれに乗る者がいる。

「谷の者。か。」

「私がしているのは最悪の想定だ。仮に谷の者がいたとしても」

「戦次第でどうにでもなるたろうよ。」

「まだ何か懸念があると?」

「ホウ・ウルクル。奴らはなかなかに獰猛だ。時折命令も無視するほどにな。」

オルクルの存在は認識している。

数年前にドレアスで畑が荒らされ「駆除」したと聞いた。

実物は見たことがないが一般的には小鬼(コボルド)の姿形として知られる。

成人の人よりやや小さく、土と灰を混ぜたような色をしている。

人の言葉は伝わらず、犬のように鳴き仲間を呼ぶと。

コボルドと異なるのは、オルクルは妖精の類ではなく

家畜を襲い、時に人を襲い喰らう事だ。

「ホウ・ウルクルとは?」

「残念ながら私も詳しくは知らん。」

オルクルより一回りから二回り大きい。程度の知識。

「ホウ・ウルクルは人の言葉を使う。つまりオルクルより賢い。」

ベック・クランツは「また来る」とだけ告げ退室し、塔を後にした。

ドレアスには10日の猶予を与えた。

既に2日経過している。

これから行われるであろう戦闘が「戦争」であるならばまだ間に合う。

ドレアスが他の公国を滅ぼすつもりであるならば

相手の戦力が整う前に攻め込むだろう。

遣いを送り、兵を集め、行軍開始、

我が国に到着さするのは最短で5日。

「既に2日経っている。急がねば。」


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