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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第二幕 第一章 帝国の子供たち
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帝国の子供たち 27

ユーリ達が祖母の元を訪れたその日、帝都からシム領の小さな村へ「援軍」が到着する。

仰々しい馬車とそれを囲うように4頭の馬。その後ろから一台の荷馬車とさらにその後方に数十人の子供達。

堂々と村の中まで馬車で入り危うく住民を轢きそうになると

「邪魔だっ。道を空けろっ。」

騒ぎを聞きつけ出迎えたのは警戒を続ける「イヴァンの息子達」の2人の騎士。

村の住民も集まる。

馬車が止まるとそれを囲っていた馬上から兵士が昇降口の横に並び立つ。

馬車から降りたのは、少々小柄ではあるが軍服がはち切れそうな筋肉質の男性。

彼は馬車から降りるとすぐに昇降口の脇に膝を付いて顔を伏せる。

「皇帝、ではないな。護衛が少ない。」

イヴァンの息子達、デヨ・チビテとゾロ・ボンが耳打ちする。

「殿下はシム殿と一緒のはずだ。どこのお偉いさんを連れてきたんだ?」

「全員控えよっ。」

立ち並ぶ兵士の1人が声を張る。

集まった村の人々も、2人の騎士も膝を折る。

静まるのを待ち、降りたのは

ヤーシン帝国第一王子ヴィクトル・オノ・ヴォイ。

村の誰も、2人の騎士も馬から降りた青年が誰なのか兵士がその名を叫ぶまで知らなかった。

第一王子ヴィクトルは前列の2人の騎士を無視するように

「村の長はどこか。」

「はい。私でございます。」

「宿に案内せよ。」

「この村に宿はございません。」

途方に暮れてしまう第一王子の後ろで立ち上がったスリチェフ少佐が

「ならば長の屋敷へ案内せよ。殿下お話はそちらで。」

「そうだな。」

第一王子とスリチェフ、四名の兵士が村の長に連れられ

ようやくその場にいた全員が立ち上がる。

騎士のゾロ・ボンが荷馬車から降りた男に声をかける。

「随分と大荷物のようだが一体何を持ってきたのだね。」

御者は半ば呆れたように答える。

「殿下の寝具や着替えですよ。」

「そうか。それで後ろの子供達は?」

「私も詳しくは知りませんが殿下と少佐殿の兵隊らしいですよ。」

「兵隊?あんな子供達が?」

隣で話を聞いていたデヨ・チビテも驚く。

「なんでも精鋭らしいですよ。ところで馬立(馬繋場)は何処ですかね。」

「ああ。デヨ、案内してくれ。俺は御一行の様子を見てくる。」

名物も名産どころか宿屋も飯屋もないような小さな村。

羊と鶏と麦畑だけの村に第一王子が何の用事があって訪れたのたろうか。

ゾロ・ボンはこの一団が「(小さな)竜退治」に現れたとは考え及ばなかった。


村長(むらおさ)の家は他の者の住宅と何も変わらない小さな一軒家。

饗そうにも他所から客が現れる事は滅多に無いから何もない。

特に領主のイヴァン・シムはその「饗し」をとても嫌う。

「本当に何もないのか。」

スリチェフは疑っているのではなく呆れているだけだった。

「我々も突然現れたのだ仕方あるまい。まともな椅子すらないような村た。」

第一王子ヴィクトルは心の広さを見せようとしたのでも嫌味を言ったのでもなく

装飾の無い座り心地の悪い木製の椅子に腰掛けた率直な感想を述べただけだった。

「近頃現れる獣について聞きたい。」

村長は「その事でしたら」と2人の騎士の名を出すのだが

「これまでの経緯を村長殿から確認したい。」

「数ヶ月前に羊飼いがずっと東の岩場で姿を見たのが始まりです。」

数日後、村の最も端の牧場から山羊が数頭消えた。

さらに数日経って再び山羊が消えた。

寝ずの番をしていると音もなく獣が現れた。

領主であるイヴァン・シムに相談すると

羊飼いの羊の姿を見て後をつけてきたのだろうと言った。

「何人か連れて調査をして巣穴を見付け駆除していただきました。」

他にも巣がある可能性を考慮し数日は警戒するようにと2人の騎士が残った。

話を聞いたヴィクトルは少々落胆しなが尋ねる。

「それで他の巣は見付かったのか。」

「巣穴は見つかっておりませんが先日二頭の獣を退治しました。」

一転、第一王子の顔が晴れる。

「そうか。ならば今後その調査と竜の退治は我々が行う。」


村長の家の前には兵士が立ち、ゾロ・ボンの入室を阻んだ。

「殿下への面会は許可されておません。」

「取り次ぐくらい出来ないのか?」

「村長との会談が終わるまでお待ち下さい。」

命令に忠実なのは悪いことではない。

仕方ないと諦めると戸が開き、中からスリチェフ少佐とヴィクトルが出てきた。

ゾロが一歩前で出て声をかけようとすると兵士がそれを塞ぐように立った。

そのやりとりを見たヴィクトルは

「待て。お前はシムの部下だな?」

「そうです。」

「探す手間が省けた。お前と、確か2人残ったと言っていたな。」

「2人とも帰って構わないぞ。後は我々が引き継ぐ。」

「引き継ぐ?」

「お前達に代わって竜退治をしてやろうと言うのだ。今夜の内に荷物をまとめておけ。」

一体何を言っている。

「まだ子供のようですが。」

「子供と言えど精鋭だ。」

ゾロとヴィクトルの会話にスリチェフが割って入る。

「今後の指揮は殿下が行う。貴殿らは戻りその旨領主に報告せよ。」

「ではせめて状況を説明いたします。」

「無用だ。村長に確認した。」

理由は判らんがどうやら俺達が邪魔なようだな。

「判りました。殿下のご命令とあらば明日引き上げます。」

「案ずるな。我々に任せろ。」

高笑いするようにヴィクトル達は馬車に向かう。

「しかしなあ、人里に来てまで馬車の中で寝る事になろうとはな。」

「まったくです。」


子供達は村の外れの、村の中か外かと聞かれたなら「外」にいる。

手分けをして火を起こし湯を沸かしている。

その内の数人がデヨ・チビテに声をかける。

「このあたりに狩り場はありますか?」

「東に行くとあるがその先で小さな竜が発見されてな。しばらくは立入禁止だ。」

「そうですか。他に、川でもあると助かるのですが。」

「なんだおい。食料は現地調達なのか。」

デヨは戻ったゾロに声をかけ、2人で何やら相談して子供達の元に戻る。

「夜まで待てるか?」


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