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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第二幕 第一章 帝国の子供たち
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帝国の子供たち 18

騎士達がアーバレットの扱いを「竜の国」のクテラ達に手引している中、

イヴァン・シムはチィトを呼び弓を渡す。

「随分と大きな弓だな。」

施設で配られたそれよりも二回りほど大きく重い。

矢もいつものそれより太く長い。

「これを付けろ。」

イヴァンが手渡したのは鉄の鏃。

「小さな竜の皮膚は木の矢を弾く。」

イヴァンはチィトに鏃を付けた矢数本と弓を持たせ屋敷の端へと連れて行く。

複数の足音に振り向くと「イヴァンの息子達」が揃って彼の後ろを付いて歩いていた。

見世物にするつもりか。

周囲に人の姿が無いのを確認して

「どの程度まで近寄れる?」

「そうだな。この程度だな。」

イヴァンが一本の木を的に選ぶ。

残りの騎士達は少し離れてそれを眺める。

チィトは弓を眺め改めてその大きさを確認する。

弦の張りも今までのそれより強く硬い。

矢を1本。

チィトは息を吐ききって、吸いながら弓を引く。

吸いきる瞬間に左右の腕の距離が最も遠くなる。

息を止めず、ゆっくりと吐き続ける。

全て吐ききってしまう前に矢を放つ。

施設で教わった方法ではない。

チィトは「この方法がもっとも誤差が少ない」と経験則でそうしているだけだ。

放たれた矢はほぼ真っ直ぐに飛び、狙った木に命中する。

ガツン、と幹をえぐり深く突き刺さりその威力を示した。

「チッ。」

「3枚だったな。」

脇の騎士達が何やら盛り上がっているがチィトにはその理由が判らない。

「どうだ?」

「重い分少し下がった。修正する。」

彼は3歩ほど下がり別の矢を放つ。

それを何度か繰り返しながら弓と矢の癖を掴もうとしていた。

その内には的を大きく外す事もあるがチィトはあまり気にすること無く作業を続けた。

「その弓はお前にくれてやろう。だが無料ではないぞ。」

日が沈む頃、全員が執務室に呼ばれる。

「イヴァンの息子」の1人であり隊長であるジュティ・ネツテが説明を始める。

「奴らの巣穴は既に知れている。」

アーバレットの配置と操作する者を決め、

ジュティ・ネツテが顔を上げる。

「チィト・ルク。ルク(弓)と呼ばれるその腕を見せろ。」


夜遅く、シム領南端の村までの街道にガラガラと大きな音が響く。

アーバレットを引くクテラ達は、自分達が呼ばれたのはこのためなのかと勘繰る。

一度の野営の後、日の沈む頃村に到着し、一行はそのまま倒れように眠る。

日が昇りすぐ、騎士団隊長ジュティ・ネツテが全員を集める。

「出発する。日が真上に来る頃には巣穴に到着する。」

ジュティ・ネツテの言葉を途中でミハ・イロビテが奪う。

「奴らを全滅させて夕食までには戻るぞ。」

巣穴のある岩場地帯ではアーバレットを解体し担いで運ぶ。

「あの大きな一枚岩を天井とした窪みの奥がそうだ。」

正面、右翼、左翼。それぞれにアーバレットが設置される。

各アーバレットに騎士がそれぞれ1人。2人の騎士は支援。

準備が整うとジュティがチィトに言う。

「では始めるぞ。」

チィトは黙って頷き、弓を引き絞る。

同時にジュティが野兎の肉を巣穴の前に投げる。

皆が息を呑み、獣が顔を出すのを待つ。

が、小さな竜は顔を出さない。

クテラ達が張り詰めていた緊張を緩めると

暗い巣穴から鼻先だけがヌっと現れ、その鼻をピクピクと動かした。

「警戒しているな。賢い奴らだ。」

クテラ達は慌てアーバレットを構え直す。

「おい。早く撃て。」

小声でチィトに指図するがチィトは弓を構えたままゆっくりと静かに呼吸を繰り返すだけ。

まだだめだ。

外したなら巣穴奥に逃げ込み夜まで顔を出さない。

最初の一頭をアーバレットで「仕留め」てしまっても残りは出て来ないだろう。

確実に傷を負わせ、致命傷を与えないための弓と矢。

痛みを与え、怒らせ、仲間共も巣穴から出さなければならない。

鼻面から徐々に顔を出す。

小さい竜は野兎の姿を確認するが

それが動かずいる事に違和感がある。

顔を出しただけではそれに届かないと判ると、

ゆっくりと、しかも周囲を気にしながら身体を巣穴から出す。

「早く撃て。」

チィトはクラテの言葉に一瞬反応するが手を放さない。

小さい竜は野兎をその鼻で一度突き、顔を上げ再び周囲を見渡す。

それからようやく野兎を咥える。

殆ど同時に叫び肉を落とす。

僅かに見える小さい竜の後ろ脚に刺さる矢が見えず、

騎士達もクテラ達もその理由が一瞬判らなかった。

小さい竜も自分に何が起こったのか判っていない。

狭い巣穴から別の小さい竜が顔を出すと、チィトは即次の矢を放つ。

二の矢は二頭目の左目に命中し、小さい竜は叫び巣穴に引っ込んだ。

巣穴からいくつかの叫びが聞こえる。

「混乱している。出てくるぞ。」

騎士達が剣を抜く。

「アーバレットの準備は?」

「いつでも撃てます。」


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