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羽撃く者達の世界  作者: かなみち のに
第一幕 序章 シエナとラウラ
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第一幕 序章01

羽撃く者達の世界

第一幕 シエナとラウラ

序章


シエナがその大きな剣を見付けたのは、森の近くの庭園でのハーブ採取の帰り道だった。

路の脇の草むらに、無造作に置かれた大きな剣。

剣の(ガード)には赤い宝石と、鞘には銀細工の模様が施され、

それは戦闘の道具と言うよりも

貴族やお金持ちの商んが自慢するための飾り物のようであった。

気付いたのは自分の膝下ほどの丈もある草花がそこだけ不自然に折れ曲がり、

飾りの宝石が夕陽に反射してシエナの目に入ったからだった。

周囲を見渡すが人影は見当たらない。

陽もそろそろ街の向こうに落ちようとしている。

シエナはハーブを詰めた籠を置き、草むらに入る。

「どうしたのシエナ。」

声をかけたのはシエナの隣を歩いていた年上の少女ラウラ。

「あそこに大きな剣があるの。」

言いながらシエナは歩き、ラウラは「やれやれまたか」と言いたそうにその後に続いた。

産まれたばかりで孤児院の前に捨てられ、それからおよそ8年。

シエナより5つ年上のラウラはその8年間ずっとシエナの姉として面倒を見てきた。

森の魔女が寄贈したたくさんの本を読んで聞かせるのもラウラの仕事だった。

女の子なのにドラゴンの出てくる冒険譚が好きだった。

ラウラにはそれが気に入らなかったが、

目を離すとシエナはすぐに何処かにいなくなって、

何処でどうしたのか判らないのだが泥だらけになって帰って来る。

その度にラウラは院長のオリアーナに叱られるので仕方なく本を読み聞かせるのだった。

赤毛でくせっ毛の自分と違ってシエナの明るい茶色の髪は伸ばしたらきっと綺麗なのに

「木登りの邪魔になるから切って」と言われる。もったいない。

「きっとそこの木の枝が折れただけよ。」

ラウラは草むらに茂る木を見上げて言った。

泥だらけになるのはこんな事ばかりしているからね。と立ち止まったシエナを見ると

その足元に本当に大きく立派な剣が置かれていた。

シエナは剣を担ぐ際の革ベルトを手に取り持ち上げようとするが、その長さはシエナの背丈よりも長そうだった。

腰を落とし、鞘を抱えるように持ち上げると

「うわっ。」

思いっきり力を入れたのに、思ったよりずっと軽く持ち上がって驚いてしまった。

軽くて持ち上がるが、どう持っても剣の端が地面に着いてしまう。

「どうするつもり?」

「宿に持って行くわ。もしかしたら落として困っている人がいるかも知れないから。」

「そうね。そうしましょう。でもシエナには運べないでしょ。私が持つわ。」

ラウラも籠を置き、シエナから剣を受け取ろうとするのだが

シエナが手を離した瞬間、ラウラも手を滑らせ剣を押してしまう。

ガシャンと大きな、とても重そうな音を立てた。

「壊れたらどうしよう。」

ラウラが手を伸ばしもう一度その剣を持ち上げようと試みる。

「あれ?」

シエナは軽々と持ち上げていた。

なのにどうして自分に持ち上げられないのだろう。

両手を鞘の下に入れ抱えようとしても無理だった。

「やっぱり私が持つわ。」

「貴女には無理よ。とっても重いもの。」

シエナはラウラの目の前で軽々とその大きく立派な剣を抱え上げた。


村に入り、孤児院が見えるとすぐにラウラは駆け出した。

ただいまも言わず、ドアを開ける前から

「オリアーナ院長っ。」

ドタバタと荒々しく音を立てながら孤児院に飛び込んだ。

「そんなに慌ててどうしたの。シエナがまた何かしたのね?」

ラウラは手に持った2つの籠をテーブルの上に置くと

訳も言わずにオリアーナの手を取り外へと連れ出した。

孤児院の庭から路に出て森の方を見ると

とても大きな何かを抱え、それをずるずると引き摺りながらよろよろと歩くシエナが見えた。

心配になったオリアーナが小走りでシエナの元に向かうと

抱えているのはどうやら大きな剣だと判った。

「大きな剣を抱えて、冒険の帰り?」

「ううん。路で拾ったの。落として困っている人がいるかも知れないから宿屋へ持っていくの。」

「そうね。きっと困っている人がいるわね。偉いわシエナ。私が代わりに持って行きましょう。」

シエナから剣を受け取ろうとするのを止めたのはラウラだった。

「だめです院長。」

「だめ?」

受け取ろうとしたオリアーナも、ラウラがそうしたように手を滑らせ剣を落としてしまった。

もう一度ガシャンと大きな音を立てる剣。

「今度こそ壊れてしまったかも。」

ラウラの心配をよそに拾い上げようと試みるオリアーナ。

小さなシエナが抱えているのに、大人の私が持ち上げられないなんて。

持ち方や姿勢を変えて何度か持ち上げようと試みるのだがほんの少しも持ち上がらない。

「私が持っていくわ。」

シエナはオリアーナの横から軽々とその大きな剣を持ち上げてしまう。

しかしどうやら大きすぎて抱えるとどうしても引き摺ってしまうのだった。

よろよろしていたのは引き摺っていたところが突っかかっていたのね。とオリアーナは理解するのだが

すぐに「この子はこんなに力強い子だった?」と不思議に思った。

「それではせめて一緒に行きましょう。ラウラは摘んできたハーブを片付けてちょうだい。」

一緒に連れて行ってと言いたそうにしていたのは判ったのだが

ぞろぞろと孤児院から様子を伺いに現れた他の子供達も付いてきてしまうだろうと

「鶏小屋の掃除は終わったの?夕方の水汲みもお願いね。」

ひとまず全員に仕事を与え孤児院に引き返させた。


宿屋では女将さんが玄関前で村の鍛冶屋の娘ロージーと立ち話をしていた。

「こんにちは女将さん。ロージーさん。」

「こんにちはオリアーナ院長。それにシエナ。なんだいその立派な剣は。」

「路に落ちていたの。ねえ女将さん。宿泊している人で落とした人がいないか聞いてくれない?」

「拾って届けに来たのかい。偉いねえ。でもね今日は誰も泊まっていないんだよ。」

女将の言葉に肩を落とすシエナを見兼ね、女将は

「ちょっと待ってな。念の為旦那に聞いてみるから。」

そう言って中に入る女将。

すると鍛冶屋の娘ロージーがシエナの抱える剣をまじまじと、睨むように見詰めて

「立派な宝飾ね。本物にしか見えないわ。ねえシエナもっとよく見せてもらえない?」

腕を伸ばしその剣を受け取ろうとするのだがそれを見たオリアーナが制する。

「危ないわロージー。」

「え?」

理由を聞く前にロージーも手を滑らせ三度剣を落としたしまう。

ロージーも「こんな小さな女の子が持ち歩いているのだから」簡単に持ち上げられると

柄を握り片手で持ち上げようとするのだがピクリとも動かない。

「なにこれ。どうなっているの?」

持ち方を変え、姿勢を変え、えいやっと何度挑戦しても無理だった。

息を切らすロージーの横から

「私が持ち上げるから良く見ていいわよ。」

柄を握り軽々と振り上げるシエナではあるが、やはりシエナには大きすぎるその剣は

右へ左へ前へ後ろへとふらふらよろよろ落ち着かないでいた。

「ああ危ないからちょっと持ち上げるだけていいわシエナ。」

「そう?判ったわ。」

鞘に施された細工と、填め込まれた宝石はどうやら本物だった。

「これってもしかしたら。ねえシエナ、その剣を持って一緒に来てちょうだい。」

「ええいいわ。でもお女将さんが戻るまでちょっと待ってね。」


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