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終止符からのルーシー 〜なんでも屋で解決します〜  作者: 清川和泉


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第9話 接触

 それから事務所を急いで出た二人は、ともかく走ってハイドン通りのコンビニへと急いだ。

 アルトの捜索魔法によると、まだ対象の人物は先程の場所から動いていないようだった。

 ただ、捜索を開始して十分余り。そろそろ対象の人物も移動してしまう頃だろう。


「はあ、はあ、アルト君、は、速いね!」

「そうかな? ともかく、目的地まで後少しだから頑張って」

 

 事務所から今まで、かれこれ五分以上は全速力で走っており普段運動など殆どしないルーシーは、既に身体中がガクガク震えて今にも倒れ込みそうだった。


 対してアルトは、何の問題もなく涼しい顔をして速度を落とさずに走っている。


「さ、流石、十六歳、現役学生……」


 呟いた後、ふと思う。


「もしかして、魔法を使っているとか?」

「いや? これぐらい使うまでもないよ。大体、もっと急ぐなら飛翔魔法を使って行くしね」

「そんな魔法もあるの⁉︎ それだったら、まさに今使って欲しいな……」


 そう言った後、ルーシーは昔その魔法を実際に見たことがあるような気がした。


「そうしたいところだけど、飛翔魔法は高度な魔法だから使っているだけで相当目立つし、ターゲットにバレる可能性があるんだ。それに今君にやっつけでその魔法をかけても、とても使いこなせるとは思えないしね」

「……そ、そっか」


 彼女は大きな息を吐いて、ともかく早足に切り替えても歩みを続けようと動きを止めなかった。

 

 ────アルトは、そんな彼女の様子を見ていると何か自分の胸の中から熱いものが込み上げて来るのを感じたが、この感情が何なのかはなんとも形容し難かった。

 

 ともかく彼は、一度立ち止まりルーシーに近づくと早口で詠唱を始めた。


『対象者に癒しを』


 彼はの掌から青白い光が溢れ出し、ルーシーを静かに包みこんだ。


『ヒーリング』


 魔法の名称を唱えると、それは完成し、ルーシーの身体に変化が現れた。


「あれ? 疲れが取れたような……」

「簡単な回復魔法だけど、疲労をとるのには最適なんだ」

「……今アルト君、私のために魔法を使ってくれたの?」


 思わず一筋の涙をこぼす。


「え? ま、まあ、そうだけど、そんな泣くほど嬉しかった?」

「嬉しいよ! 私のためにこんなに素敵なことをしてくれたんだもん。私のために、誰かが何かをしてくれるなんて……」

「そんな大げさな……」


 そうは言ったが、彼は何故か時が止まったように感じた。

 行き交う人々の動きや、車のライトなどもやけに動きが遅く感じる。



 ────この感覚は何だろう。



「……ともかく、急ごう。後ほんの少しだから」

「うん!」


 二人はそのまま走って行き、間もなくコンビニへとたどり着いた。

 

 コンビニの駐車場へ到着すると、アルトは間髪入れずに先ほどの財布を取り出して詠唱し、捜索魔法を発動する。


『ナビゲーション・サーチ』


 緑色の光が凝縮し、マップを表示させる。点滅している複数の点はまだ先程と同じ場所に留まっていた。


「まだ、ここにいるみたいだ」

「良かったー! ……それじゃあまず、外からそれらしい人を探すんだよね」

「うん。流石に店内で魔法を使っていたら怪しまれるからね」


 彼女は頷き、屈んでこっそりと店の窓ガラス越しに店内を見渡してみた店内には、ざっと見たところ一人客がいた。

 会社員なのか、長身のすらりとしたスーツを着た二十代程の女性だった。


「あの人かな?」

「いや、ここからじゃ実際に店内に何人客がいるのか完全には把握が出来ないから、あの人だとは断定しきれないと思う」

「そっか。それじゃ、中に入る? ……のは目立つから駄目だっけ」

「うん。でもまあ、出入り口付近で待っていれば、捜索魔法で表示される移動した点と照らせ合わせられると思う」

「なるほど! 改めて間に合って良かったと思ったよ!」


 彼は頷くと、魔法で表示されているマップから目線を逸らさないように待機することにした。

 

それから数分後。

 

 マップ上の点が動き出したので、彼はルーシーに注意するように促し、二人は息を潜めてその人物が現れるのを待った。

 そしてコンビニの自動扉が開くと、ビニール袋を手提げて、中年の男性が店内から出てきた。

 アルト無言でルーシーに対して頷くと、彼女も小さく頷き男に話しかけようとする。瞬間彼は、小声の早口で詠唱を始めた。


『対象者に最大限の守りを。プロテクトモスト』


 それは彼女の背中に目掛けて魔法をかけたので、男性には気付かれずにすんだようだった。

 そしてアルトは、更にいつでも魔法をかけられるように体制を整える。


「あの」


 ルーシーは小さく息を吐いて、意を決して男性に声をかけた。

 男は眉を潜めて、彼女には気づいたようだが、そのまま歩き去ろうとする。


「あの!」


 もう一度、今度は先程よりも声を大きく張り上げ声をかけると、男性はピタリと動きを止めた。


「……俺?」


 彼女は頷き、出来る限り(にこや)かな表情を作って続けた。


「はい。あの先程、このコイン落とされましたよ」


 男性は、思わず動きを止めて振り向いた。


「え? マジか。どこで落したんだろう」


 思わず男性はルーシーの手からコインを受け取ると、そのコインを確認すると違和感に気づいた。

 実はそのコインは、アルトがたまたま持っていた別の記念コインだった。


「あれ? こんなんだったかな」


 自然な流れで、男性は自分のカバンから財布を取り出すと、コイン入れから例のコインと(おぼ)しきコインを取り出した。


「なんだ、やっぱりあるじゃねえか。せっかく教えてもらって悪いけど、これは俺のじゃねえみたいだ」


 ルーシーは、鼓動が急激に高まっていくのを感じた。

 

 ────ここからだ。ここからは特に失敗してはいけない。


「そうでしたか、すみません。勘違いをしてしまいました。……あ! そのコイン! 見せてもらってもいいですか?」


 わざと声を大きくして会話を続ける。


「? なんだ姉ちゃん。これに興味があるのか?」


 男性はコインをルーシーに手渡し、ルーシーはそれを確認すると、あらかじめ調べておいた写真のコインと絵柄や特徴が一致することを確認し、無言でアルトに頷いて合図をした。


「はい! だってこれって、三年前に開催された国際競技会を記念に発行された、特別なコインなんですよね? 特にお守りとしても人気があるとか」

「? これって、そんなに価値があるのか?」

「価値は分からないですが、とある方にとっては特別なものなんです」


 瞬間、ルーシーは男性に対して綺麗な姿勢で頭を下げた。


「良かったら、このコイン返していただけないでしょうか」

「返すって、何を言って」

 

 今度はアルトが、男性の言葉を遮って続けた。


「あなたがこのコインを拾ったことは、追跡魔法で確認済みなんです。ログもしっかり記録しましたし、これを出すところに出したらどうなるか、分かりますよね」


 アルトは柔かに、だがどこか冷たさを含んだ物言いでハッキリと言った。


「……追跡魔法だと⁉︎ そんな上級魔法が使えるやつがあんたたちについてるのか⁉︎」


 男性は大いに驚いたが、ルーシーは疑問に思った。


(あれ? 追跡魔法って中級レベルの魔法じゃなかったっけ?)


 そう思っていると、アルトは小さくつぶやく。


「この国では上級扱いだったか。うかつだった」


 だがその声は、ルーシーには届いていないようだ。


「……分かった、返すよ。追跡魔法まで使われているんじゃ太刀打ち出来ないからな」

 

 あっさり引き下がってもらえたので、ルーシーは安堵し小さく息を吐く。


「良かった。ありがとうございます!」


 そしてそのままコインを自分の財布に入れようと、自分のポシェットから財布を取り出そうとすると、男が隙を見てルーシーの手からコインを奪おうとする。


「なんて、言うと思ったか!」

 

 ────だが、瞬間ルーシーから白い光が発生し、男性を弾き飛ばした。


 男性は思わず体制を崩してその場で転んでしまうが、幸い頭は打たずにすんだ。


「……今のは、正当防衛ですから」


 アルトは冷たく笑いながら、男性を見下ろす。

 ルーシーは、何が起きたかわからなかったが、よく考えてみるとおそらく先程アルトが自分にかけた防御魔法が発動したに違い、と結論づけたのだった。


「うう、……防御魔法って、どれだけ高等な魔法士が、あんたらについてるんだよ」


 男性は、まさか目の前に立っている少年がその魔法士だとは、夢にも思わなかったのだ。

 何故ならこの国では、アルトが先程から簡単に使用していた魔法はほとんど手練れと言われるレベルの魔法士しか使用することが出来ず、その者たちはほとんど国家公務員である国家魔法士となって国の機関で働いているからだ。

 もちろん就職試験の倍率は非常に高く、魔法大学校の主席卒業者レベルでないと合格は難しいとも言われている。


「ともかくこうなったら、一緒に抜き取ったであろう紙幣も返してもらいます」


 アルトが追求すると、男性は観念して折り畳まれた紙幣も財布から取り出して差し出し、足早に立ち去って行った。

 これでコインを取り戻すことが出来(でき)、成功報酬は発生せずとも依頼は完遂出来たのだった。


 喜びのあまり、思わずその場でアルトに対して笑顔でハイタッチをするルーシーのことを、銀髪の長髪が印象的な少女が反対側の歩道から口元を緩ませて見ていた。


「あの子がルーシーか。……たしかに、上が常に動向を監視しているのも、無理がないわね」


 そう呟くと、彼女は静かに立ち去って行ったのだった。

ご覧いただきありがとうございました♪

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