第8話 アルトの魔法
翌日。夕方にアルトが事務所にやって来ると、ルーシーは早速彼に紅茶を勧め昨日の相談をした。
「そっか。財布は見つかったけど、中身は一部しか無かったんだ」
「そうなんだ。お金と、お孫さんからもらったというコインが抜きとられてしまっていて」
うーん、と呟きながらアルトは思案した。
「まあ、今時電子決済が主になってるから、財布が落ちてて、もしやと思って拾われちゃったんだろうね」
「……でんしけっさい……」
これはよく分かっていないな、と思いながらも、面倒臭いので特に触れずに続けることにした。
「流石に誰かが拾った物を見つけるなんてこと、もう出来ないよね……」
少し考えてから息を吐いて、
「いや」
と言って切り出した。
「方法はまだある」
「え、どんな方法⁉︎」
思わずチョコクッキーを頬張るアルトの机に手をつき、身を乗り出した。
「……僕が、捜索系の魔法を使うこと」
「……え」
思わず思案し、おののいた。
「アルト君、捜索系の魔法を使えるの⁉︎」
「うん」
「それって、結構難しい魔法なんじゃ無いの⁉︎」
「……最近やっと使えるようになったんだ」
視線を泳がせながら、言葉を選んでそう言った。
「ええ、じゃあ最初から使ってくれれば良かったのに」
そう言われるだろうと思っていた。
「ほら、ライセンスの問題があるだろう? 実は昨日あの後、僕が魔法を使って手助け出来ないか、家に帰って色々調べてみたんだ」
「え! そんなわざわざ調べてくれたの⁉︎ ありがとう」
ルーシーは非常に感動した。
「う、うん。それでまあ、一応使用できる方法があることを見つけ出せたよ」
「なになに⁉︎」
先程から身を乗り出して来るルーシーを、ともかくその手で押し戻して自身は椅子に座り直した。
「依頼者から、報酬を受け取らないこと」
ルーシーの動きが思わず止まった。
「つまり、賃金が発生しないボランティアなら問題ないってこと」
「そっか!」
特に困った風もなく、素直に受け入れたようだ。
「いいの? せっかく見つけても報酬にはならないんだよ?」
「そりゃ、お金が入らないのは残念だけど、依頼者さんに大切な物が戻って来る方が大切だよ」
「……そう。まあ、今回の場合、捜索も行われておまけに財布は自力で発見出来てるから、成功報酬だけ受け取らない方向で大丈夫だと思うけど、一応確認とっとくよ」
「ありがとう!」
ルーシーは、アルトのことを頼もしく思ったのだった。
ただ、彼自身は少し暗い気持ちで彼女を見ているようだ。
(どうして、他人のためにそんなに頑張れるんだ)
思いながら、アルトはともかくクッキーを全て食べてしまおうと頬張っていった。
□□□□□
それから約十分後。
二人は事務所の事務室へと移動し、ルーシーの手で綺麗に洗われ、乾かされた依頼者の財布を机の上に広げて、それを眺めていた。
「それでは……」
アルトは、右の掌を開いて財布に触れると、早口で詠唱を始めた。
『今はここには無き、直近に存在した物品の捜索を始める。分岐点AからBを捜索』
途端に緑色の光が財布を包み込み、そのすぐ真上に地図が出てきた。
『ナビゲーション・サーチ』
彼が魔法の名称を口に出して詠唱を完成させると、ものの数秒で魔法が発動した。
「……すごい」
ただただルーシーは、その様子を息を呑み込んで見守っている。
その地図は正確で、複数の点滅した点が一箇所に集中している様が表示されており、アルトは自身の電子端末を取り出し地図アプリを起動させると、魔法で表示させている地図と照らし合わせて点の位置を確認していく。
「やっぱり」
彼は確信を得たが、ルーシーは唖然としていた。
「ここを見て」
声をかけられると、ルーシーはびくりと身体を震わせた。
「この点滅してる点は財布の中身を指してるんだけど、複数の点が同じ箇所に集中して存在しているから、おそらくこの財布の中身を盗んだやつがそれらをまとめて所持しているんだと思う」
「……」
目の前で起きていることを飲み込もうとするが、すぐには出来そうもなかった。
「ねえ、聞いてる?」
「は、はい!」
思わず飛び跳ねた彼女を見て相当驚いているんだろうと察したが、構わず話を続けた。
「それでアプリの地図によると、盗んだやつは今ハイドン通りのコンビニにいるみたいだけど」
「よし、行こう!」
間髪入れずにそう答えたので、彼は思わず制止させた。
「待って。策もろくに無しで行くのは、流石に危険過ぎる。魔法を咄嗟に使っても相手も使ってくるだろうし、逃げられる可能性が高いと思う」
彼の冷静な声につられてルーシーは息を吐き、一度立ち止まることにした。
「そっか、そうだよね」
そして、いつものシャープペンとノートを取り出して事務机に座った。
「一、ともかく二人で今からコンビニへと向かう」
「……うん、疑わしい人物を特定する必要があるね」
「二、うーん、声をかけ、コインを返してくださいと丁寧にお願いする」
「はい、逃げられるか、いいがかりをつけられたとか言われて警察を呼ばれるね」
「嘘⁉︎」
アルトは頷くと目をつぶった。
「ここは、かなり慎重にならないといけない。……盗まれた紙幣は使われる可能性もあるかもしれないけど、お守りのコインは流通している貨幣というわけでは無いんだよね」
「うん。確かお孫さんが並んで買ってきた特別なものだって言ってたよ」
「プレミア物のコインか……」
アルトは、思案すると息を吐いた。
「君、身を削る覚悟はある?」
「と言うと?」
「君には、対象者と直接やり取りをしてもらいたいってことだけど、大丈夫? 僕は魔法を常にかけられるように待機したいし、もちろんあらかじめ、保護魔法はかけるけど」
ルーシーは、ごくりと息を呑んで頷いたのだった。
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