第3話 公爵邸への潜入
「裏をかくってこう言うことか……」
六日後。
ユベッサ公国の公爵邸の使用人用の部屋に、ルーシーはその部屋に相応わしい姿、女性用の使用人用の服を着て鏡の前で立っていた。
あの日、アルトが提案したのは二人で使用人に扮し紛れ込んで、あわや公女と近づいて真相を聞き出す、という何とも力技とも思えるものだった。
「……これ、すぐにバレるよね……」
今日は日曜日。
公女が通っているという大学も休日であり、公女は特に部活動等の予定がなく一日中公爵邸で過ごすとのことだった。
加えて、本日の決行に至ったのは、ルーシーがルドルフと電話で相談した際に潜入するなら今日が良いというアドバイスをもらってのことだった。
「それにしても、相変わらず私はこういう服がしっくりくるな……」
ルーシーは思わず苦笑いをした。
何故なら、過去にもこのような格好をして城で働いていたことがあったからだ。
──あれはもう、何年前のことなのだったか。
もっとも服の素材は今着ているものよりもより粗悪なものだったし、あの時は使用人よりも立場が悪かった。
……考えると芋づる式に様々な思い出が蘇ってくるが、彼女は思わずその記憶に蓋をした。
(思い出したくない)
深く息を吐き出すと、意を決して扉を開けたのだった。
廊下へ出るとすでにアルトが待っていた。
「うん、よく似合ってるじゃん」
複雑な気持ちになったので、ルーシーは言い返した。
「アルト君は、何だかあまり似合ってないね」
それは言い返したつもりだったし、使用人の服が彼にはあまり似合っていないように見えるのは本心だったからそう言ったのだが、アルトはぴたりと立ち止まった。
「……へえ」
「それで、私達はこれからどこへ行けばいいんだっけ」
「マチさんの話では、僕たちは今日一日だけの臨時の日雇いの使用人ということになっているそうだ。使用人の仕事を実際に行って、公女様と接触する機会を狙おう」
ルーシーは頷ずいた。
ちなみにマチさんと言うのは、ここのベテランの使用人でルドルフが連絡を取って、二人を潜伏出来るように手引きを依頼した相手だった。
ともかくそれから二人は、しばらく日雇い枠の使用人として、公爵邸の隅々まで掃除をしていた。
──だが、その時は突然やってきた。
「ルーシー、悪いけどセリア様のお部屋にお茶とお菓子を運んで行ってくれるかしら」
使用人のケイトが、気楽にルーシーに頼み事をしてきたのだ。
「私が今日の当番なんだけど、急な来客があって、そっちの対応をしなくちゃいけなくなっちゃったの」
「分かりました」
通常なら新人で、なおかつ日雇いのルーシーにこんな大役は任せられないが、どうやらケイトにはマチから言い含められたことがあるようで率先して任せられたのだった。
両手にお茶とお菓子がのったトレイを持って、ルーシーは公女の部屋の前で震えながら立った。
(私が公女様の部屋の前に立っている)
正直逃げ出したかったが、反対に高揚感もあった。そして息を吐いてから、力強く扉を叩いた。
「失礼致します。お茶の時間でございます」
少し間をおいて、「どうぞ」と、高めの優しい声がしたのでルーシーはゆっくり扉を開いたのだった。
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