第23話 意外な場所での出会い
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そして、当日の日曜日。
ノーツ高校の体育館では、朝の十時から王都の市民団体等による球技大会が開催されていた。
現在は、十三時を少し過ぎたところで、丁度ルーシーの事務所に依頼をしたフランツが所属するバスケットボールチーム「ゴールデンアローズ」が、対戦相手である「ルビードルフィンズ」と試合を行っているところである。
「わあ、何だか凄いなあ!」
ルーシーは観客席に座り、まじまじと試合の様子を眺めていた。隣の席にはチェックのオーバーロングシャツを着込んだソフィアが座っている。
「もしかして、バスケの試合は初めて観るの?」
「はい、そうなんです! 今まで用事がなければ体育館って足を運ばなかったので、何もかもが新鮮です!」
「へえ、そうなんだ。そういえば私も、試合なんて観るの初めてかも」
「ソフィアさんもそうなんですね!」
目を輝かせるルーシーに、ソフィアは片方の目だけ閉じて小さく頷いた。
白の十部袖のワンピースに、白のカチューシャ姿の特に普段と変わらないルーシーの姿に妙に安心感を抱いた。
「アルト君も来られたら良かったんですけど、用事があるのなら仕方がないですね」
「……ええ、そうね」
先の依頼自体は完了をしたのもあり、今日この試合を観に来たのは完全にルーシーの私的な判断からだが、アルトは誘ったところ「用事がある」と断られたのであった。
「今日はアルト君の分も沢山応援して、アルト君に会った時に試合の様子を伝えようと思います!」
「え、ええ。そうしてあげて」
ソフィアは目を細めると曖昧に頷いたが、ルーシーは再び構わず食い入るように試合を観戦し始めたのだった。
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その後、ゴールデンアローズは好戦を繰り広げたのだが、試合は五十対四十八で敗北を喫し惜しくも三回戦敗退となった。
「残念でしたね……」
「ええ。でもとてつもなく惜しかったね!」
「はい! 最後のシュ、シュート? が決まれば逆転だったんですけど……」
ルーシーの言葉通り先ほどまで行われていた試合では、試合終了間近ロイが投げたボールがゴールポストを弾いてしまい得点にはならなかったのだが、反対にそのボールが入っていれば勝利となっていただろう。
「そうだね。でもあれはしょうがないよ。誰も、ロイを責めることなんて出来ないと思うけど」
「そうですね! よし、私声をかけきます!」
そう言って真剣な表情で一階の選手の控え室に足を運ぼうとするルーシーの肩を、ソフィアは無意識的に掴んでいた。
「えっと、それは私が行くから、……そうだな。ルーシーは何か飲み物を買ってきてくれるかな?」
「もしかして差し入れですかね? 分かりました! 私買ってきます!」
「よろしくね」
「はい!」
意気込んで立ち去っていくルーシーを傍目に、ソフィアは小さく息を吐いた。
「下手にロイやスミとルーシーが接触して、何か綻びが出ても良くないしね」
ポツリと呟くと、自身も階段を降りて控室へと向かったのだった。
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「うーん、自販機が見つからない……」
あれからルーシーは、体育館中を自動販売機を探して歩いたのだがそれは叶わず、ともかく屋外に出て探すことにしたのだった。だが、中々見つからず、気がつけば見慣れない建物の中に迷い込んでいた。
「ここはどこだろう。校舎のようだけど……」
周囲は薄暗いが、よく観察すると教室や養護室等があるので校舎内のようだった。
「間違えて校舎の中に入ってきちゃったみたい。うーん、学校の中だったら自販機あるかな?」
呟きしばらく彷徨っていると、突き当たりで突然誰かとぶつかり後方に転んでしまう。
「わあ‼︎ いたたたたた……」
「大丈夫ですか?」
「はい! こちらこそ、すみませんでした」
差し出された手を握り立ち上がると、目前の人物が目に入った。彼は男性で、長身の白髪混じりの大方四十代くらいの男性だった。彼は、白のワイシャツに黒のスラックスを身につけている。ルーシーの姿を確認すると思わず身体を硬直させ、動きを止めた。
「何でここに……」
「すみません‼︎ 自販機を探していたらここに迷い込んじゃいまして!」
咄嗟に頭を下げるルーシーに、男性は口元に手を当てて思案すると小さく頷いた。
「そうでしたか。でも自販機はこの棟には設置していないですよ」
「そ、そうだったんですね! すみません、すぐ外に出ますので!」
足早に立ち去ろうとするルーシーに、男性は控え目に声をかけた。
「ああ、でも確か自販機だったら中庭に設置されていたかな」
「中庭ですね、ありがとうございます!」
深く礼をしてから立ち去っていくルーシーを、男性は目を細めて見送ったのだった。
「まさか、ここで会うとは……」
ポツリと呟くと男性はすぐにスラックスのポケットから電子端末を取り出し、電話をかけ始めた。
「……ああ、そうだ。頼む」
通話を終えると、ルーシーが立ち去って行った先を視線で確認し一瞥してから自身もその場を去ったのだった。
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その後、中庭に自動販売機で人数分の飲み物を購入し手持ちの袋に詰めていると、ソフィアが駆け足でルーシーの元まで辿り着いた。かなり急いで来た様子で、息を荒げていた。
「ルーシー、ここにいたのね……」
「ソフィアさん、すみません! 何だか迷ってしまって、遅くなってしまいました」
「ううん、私こそごめんね! てっきり体育館に自販機が置いてあると思って、頼んじゃったものだから」
息を整えると、ソフィアは自身の手持ちの袋を取り出してルーシーの袋に入っている飲み物を半分ほどそれに詰めた。
「それでは行きましょう。皆んなルーシーを待ってるよ」
「え? 私をですか?」
意外なことを聞いたかのようにルーシーは思わず足を止めたが、ソフィアは眩しい笑顔で頷いた。
「ええ。ともかく行きましょう」
そう言って、早足で体育館までの道程を行くソフィアを追っていくと……。
「ルーシーさん、今日はありがとうございました」
依頼主のフランツが笑顔で出迎えてくれた。ルーシーとソフィアが足を運んだのは体育館の一階にある選手の控え室だった。
「いえいえ、こちらこそ皆さんの白熱した試合を観ることが出来てとても良かったです!」
「それも、ルーシーさんがメンバーを集めてくれたからですよ」
「いや、私は実は一人しか……」
そう言って言葉を濁すが、フランツは首を横に振った。
「いいえ、人集めが大変なのは身を持って知っていますから。本当にありがとうございました」
そう言って一礼し去っていくフランツの背中を見ていると、ルーシーの心は温かくなっていった。
(依頼を無事に終えることが出来て良かった。今度アルト君に会ったら、さっきのフランツさんの言葉を伝えておこう)
すると、ふと先ほどの四十代くらいの男性が脳裏を過ぎった。
(そう言えば、さっきの人どこかで見たことがあるような……?)
そう思ったが、ともかく今は各選手に飲み物を配り声をかけることを優先し、男性のことはどこか頭の片隅に置いておくことにしたのだった。
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