第22話 再勧誘
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それからルーシーは、ソフィアが連れてきた二人を応接スペースに案内してソファーにかけてもらい、ローテーブルにそれぞれの紅茶を置いた。
「お二人とも、夕食は食べましたか? もしまだなら、ビーフシチューで良ければまだ沢山あるので、食べて行ってください」
何故か妙に嬉しそうに目を光らせているルーシーを、不思議そうにと言うよりは怪訝そうな表情で二人は見やり、お互いに顔を見合わせて頷いた。
「それでは、お言葉に甘えても良いかしら」
「では、早速用意して来ますね!」
声を弾ませて給湯室に戻るルーシーを横目に、二人はそっと立ち上がるとアルトの側まで近寄った。
「とても、この場に馴染んでいらっしゃるのですね」
ロイは言葉を選びながら、アルトに対して小声で囁いた。心無しかその手は震えているように見える。
「……ああ。この姿で行動をしているのは基本的にはこの場でのみだが、そもそも俺は普段はあまり人目のつく場にはいないからな。だから君たちには、あの場以外にいる俺の姿を見るのは新鮮なのだろう」
ロイとスミは短く頷き、更にスミは感嘆の表情を浮かべた。
「もちろんです。……いつか、あなたが身を隠さずに暮らすことが出来る様に、私たちはここにいるのですから」
アルトはふと目を細め、小さく頷いた。
「今回はすまなかったな」
「いいえ、とんでも無いです。俺たちは少しでもあなたの役に立つ為に、この国に入国したのです」
アルトは今度は小さく頷くのみで、その後の言葉を紡がなかった。すると、今までルーシーと一緒に給湯室で作業をしていたソフィアが彼らの元に足早に近寄った。
「ねえ、ルーシーの夕飯の準備が終わりそうだよ。二人はそろそろソファーに座った方が良いんじゃ無い?」
「ああ、そうだな」
ロイとスミは速やかに応接スペースのソファーに座り直し、アルトは給湯室へと向かった。
アルトは給湯室に入ると、先ほど自分が洗った皿を布巾で拭き、その皿にシチューをよそうと予め敷かれたキッチンマットにそれを置いた。
「アルト君、ありがとう!」
ルーシーは、今まで新たにもう一品料理を作っていたらしく、食卓の上にはレタスとチーズのサラダと手作りのドレッシングが置かれていた。
「これを作ってくれていたんだ」
「うん、簡単なものだけどね。ドレッシングはソフィアさんに作ってもらったんだ」
「へえ、あの料理が苦手なソフィアがね」
調理器具を洗っていたルーシーの手が止まった。
「ソフィアさんって、料理苦手なんだ? そんな風には見えなかったけどな」
「まあ、火を使わなければ大丈夫なのかな。以前、僕とジークが住んでるシェアハウスに何故か突然やって来て、『どうせ料理なんてしてないんでしょ。私が作ってあげる』と言って作ってくれたことがあるけど、あの時は……」
それ以上は口をつぐんでしまったアルトに、ルーシーは言葉で語られるよりも妙な説得力を感じた。
「へ、へえ……。まあ、いいや。ともかく皆を呼んでくるね」
給湯室を後にするルーシーを見送ると、アルトは目を細めた。
「状況的に、ここに来られるのも、あと二ヶ月あるかどうかだ。一時は彼女を引き入れることも考えたが、やはりそれは駄目だ。……俺も少しでも、ここで何かの役に立てれば良いんだが……」
アルトはボソリと呟くと、ティーポットに茶葉を入れ、紅茶の用意を始めたのだった。
□□□□□
翌日の十八時頃。ルーシーはアルトと共に、事務所の近くにある公園まで足を運んでいた。
現在は十月なだけあり、周囲はすっかり暗くなっているが、公園内に数カ所設置されている街灯の柔らかい灯りが、人々の心から暗闇に対する恐怖を拭い去ってくれた。
「あ、アルト君! 早速バスケをやっている人達がいたよ!」
このユベッサ公国では、公園でバスケットボールやサッカー、ラクロスなど、国民が気軽にスポーツに触れ合えるように整備されており、またそれに伴い余暇時間を利用してスポーツに触れる者が多い傾向にあった。
なので、いつも何処かしらの公園に行けば、スポーツをしている人々と出会えるのである。
「休憩をしている人もいるから早速声をかけようと思うけど、……今日は、ロイさんのアドバイスを参考にしようと思うんだ」
「ああ、あの『勧誘する時は何かのその人にとって利益になることを持ち出す』ってやつだね」
「そう、それ!」
と言うのも、昨晩食後にルーシーが自分に勧誘の仕方の相談をあの場に集まっていた四人にしたところ、ロイから『ただ頭ごなしに勧誘されたってやろうとは思わないんじゃないかな。何かその大会に出たら良いことがあるよっていう利益になりそうなことが無いと、人は興味をそそられないかも』と助言をされていたのだ。
「利益か……。よし」
ルーシーは意を決して、公園の隅に設置されているベンチに腰掛けて休憩している男性に声をかけた。ちなみに彼のことは、先ほどから横目で観察をしていたようだ。
「あの今、お時間大丈夫ですか?」
男性が声をかけられたのが自分とは思わず、寸秒考えてから立ち上がった。
「何か俺に用件があるの?」
「はい! 実は今度球技大会がノーツ高校の体育館で行われる予定なんですが、メンバーがあと一人足りなくて、是非あなたに参加して欲しいんです」
「あー、そういえば君、前にもこの公園で俺のチームのメンバーを勧誘してたよね」
「覚えていてくれていたんですか? わあ、嬉しいな」
「いや、そんなつもりで言ったんじゃ……」
怯まないルーシーに対して、声をかけられたグリーンの短髪の男性は小さくたじろく。
傍で見守っていたアルトは、穏和な笑顔を浮かべて補足説明を始めた。
「球技大会は年に一度しか開かれませんし、その大会に出場すると様々なコミュニティとの繋がりが出来ると思うんです」
「コミュニティか。……それは魅力的だけど、こうやって公園でチームで練習してるだけでもそれは充分何だよな」
と言いつつも、急に論理的な思考で語りかけられたので、男性はどこか惹かれるものを感じた。
その男性の様子をアルトは見逃さなかった。
(もう一押しだな)
そう思い口を開こうとすると、それよりも早くルーシーが動いた。
「私、あなたがボールを投げていたところを見ていたんですけど、……凄かったです! その凄い技を、是非球技大会でも見せて欲しいんです!」
アルトは思わず男性の方に視線を向けた。
(アプローチとしては悪くないが、果たして……)
「……本当? じゃあ、やってみようかな」
アルトの思考とは裏腹に、以外と男性の心にはその言葉は響いたようである。
「ありがとうございます‼︎」
そう言って飛び跳ね、思わず男性の方へ駆け寄っていくルーシーの肩を、アルトは無意識のうちに掴んでいた。
「アルト君、どうかしたの?」
「……いや、何でもないんだ」
アルトは、自分の行動に驚いていた。だが彼がその手を離すと、再びルーシーは男性に駆け寄って行った。その様子を見て、アルトは自身に対して冷静に分析をする。
(ああ、単純に俺は、ルーシーがあの人の元へ行くのが嫌だったんだな)
そう思うと、アルトはせめて今の場面を強く心に焼き付けておこうと思ったのだった。
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