第21話 ソフィア来訪
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「うーん、見つからないな……」
三日後の午後。ルーシーは事務所の机に一人伏せていた。
と言うのも、先日に「球技大会の欠員を集めて欲しい」との依頼がバスケットボールの市民サークルに加入している青年フランツよりあり、その依頼を完遂すべくルーシーは手あたり次第に公都の公園でバスケットボールを行なっている人々に声をかけて回ったのだ。
だが、それらの人々からは全て断られてしまい、当てが無くなったと言う訳だった。
「うーん、どうしようかな……」
ルーシーはしばらく伏せた後に、はたと気がつく。
「そうだ! ……ともかくノートに考えをまとめてみよう」
そして、いつものように机にノートとシャープペンを持ち出して、自身の考えをまとめるべく椅子に座った。
「えっと、うーん、そうだな……うーん……あれ? な、何も思い浮かばない……」
どうやら、ルーシーの考え得られる案が「公園に行って勧誘する」というもの以外思いつか無かったようである。
「勧誘ってどうやってやれば良いんだろう……。そもそも公園で声をかけたのだって、断腸の思いだったんだよね……」
人見知りのルーシーは、見知らぬ人々に声をかけること自体がかなりの負担だったらしく、疲労が蓄積しぐったりと再び机に伏せた。
「もうこれは、誰かの知恵とか力を借りるしか……」
ぼんやりとしながら呟くと、おもむろに電子端末を手に取り慣れない動作で操作し、通話ボタンを押した。長らく呼び出し音が響いていたが、七回鳴った後に繋がった。
「……もしもし?」
「もしもし、アルト君? 突然ごめんね! 今大丈夫かな?」
「……うん、大丈夫だよ。どうかしたの?」
アルトの声が、少しだけ焦っているような気がした。
「えっとね、この間の依頼の件なんだけど、手あたり次第公園を当たって見ても全然勧誘出来なかったんだ。だからやっぱりアルト君の方で、誰か良い人いないかなと思って」
現在は水曜日の十五時頃であり、通常ならばあと二時間程経てば事務所にアルトが自ら足を運んでいる筈であった。
だが、現在学校にいるであろう彼に電話をかけたのは、あわよくば周囲の友達に声をかけてもらおうと言ういわば「先手」のようなものである。
だが、当のアルトは今ひとつ気乗りをしていない様子だ。
「うーん、そうだな……。僕の周囲にはあまり体育会系の人っていないから正直僕も当てが無いんだ」
「そっか。ごめんね、突然電話して。それじゃ今日も事務所で待ってるね!」
少々気落ちしたような声を発したが、すぐに持ち直して電話を切ろうとした。
「いや、……うん、それじゃまた後でね」
「うん、気をつけて来てね!」
通話の終了ボタンを押すと、再び机に伏せるが、アルトと会話をしたことにより少しだけ気分が浮上したようだ。
「まあ、アルト君にばかり頼っていたら駄目だよね」
と言いつつも、他に当てもないので今日の夕飯でも作るかと給湯室へと向かったのだった。
□□□□□
約二時間後。事務所のドアベルが鳴り響いた後、先ほどの言葉通りアルトが入室して来た。
「こんばんは。お、いい匂い」
玄関先のアルトの声に気がつき、ルーシーが事務スペースから足早に出て来た。心なしかその足取りは軽いように見える。
「アルト君、こんばんは! 今晩はビーフシチューだよ! ちょっと奮発しちゃった!」
「へえ、それは良いな。通りでいい匂いがする訳だ」
学生服姿のアルトは、学生鞄を事務スペースの彼が使用している机の上に置き、ブレザーを脱ぎ事務椅子の背もたれに掛けた。
給湯室に入るとワイシャツの袖を捲って夕食の配膳の準備に入る。これは今ではすっかりアルトの習慣になっていた。
「えっと、パンもご近所のパン屋さんで買って来たのを出したし、シチューもお皿によそってもらったし、うん、いただきましょうか」
「うん、そうだね」
手を合わせて食前の祈りを、簡易的だが捧げる。
「今日も生きるための糧を頂き、ありがとうございます」
「いただきます」
そうして両手を合わせた後、二人は木製のスプーンでシチューをすくって口に運んでいく。
「うん、美味しいね」
「良かった! 実は初めて作ったから味に自身が無かったんだけど、そう言ってもらえて良かったよ」
そう言って微笑むルーシーを見ていると、アルトの心はまるで静かな水面に波紋が広がるようにさざめいた。
「……いつもありがとう」
「ん、どうかした?」
アルトの呟きが聞こえなかったようで、ルーシーは気に掛かったが、妙にアルトの表情が柔らかいのでそれで良いか、と思ったのだった。
「そうそう、ルーシー。これからソフィアが来る予定だよ」
「へえ、ソフィアさんが来てくれるんだ。楽しみだな。そうだ、晩御飯食べて行くかな」
「ああ、それは分からないけど、今日は例のバスケの試合に出てくれそうな人を連れて来てくれるって」
「……え?」
ルーシーはハタと動きを止め、次の瞬間には立ち上がって飛び跳ねていた。
「わあ、嬉しい! これで一人は見つかるかもしれないんだね」
「ああ、まあ、……そうだね」
アルトはどこか遠い目をし、ルーシーは不思議に思ったのだった。
その約三十分後。
「こんばんは」
ソフィアが二人の男女を連れて事務所に訪れた。
「あ、ソフィアさんこんばんは!」
「バスケ仲間を探してるって聞いて、経験者を連れて来たよ」
「ソ、ソフィアさん……」
ルーシーはソフィアの手を握り、静かに涙を流し始めた。
「そ、そこまで嬉しかったの⁉︎」
「ええ、もちろんです。本当にありがとうございます」
「い、いいえ。大学で同じ講義を取ってる友達なんだ。えっと、名前は……」
「俺の名前はロイだ」
「スミです。よろしくね」
男性の方は背丈はルーシーよりも頭一つ分高く中肉中背の黒髪で、女性の方は背丈も高くスラリとした体格の栗色の髪を後ろに一つでまとめていた。
「わあ、お二方共、来週の球技大会に出場してくださるんですか?」
ルーシーは、今度はスミの手を取りグイグイと向かって行く。
「え、ええ」
「俺たち二人とも経験者だから、是非参加させてもらおうと思って」
「助かります! これであと一人集めれば何とかなりそうです」
そう言ってその場で飛び跳ねているルーシーを傍目に、ロイとスミは距離を置いて傍観しているアルトにそっと頷いたのだった。
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