第20話 球技大会の仲間を集めて欲しい
ご覧いただき、ありがとうございます。
時が経ち十月。
ルーシーの事務所前の街路樹は紅葉し、鮮やかな黄色に染まっていた。
近ごろでは暑さもすっかり落ち着いたが、まだ気温が低いわけではないので、室内はエアコンを付けずとも快適に過ごすことが出来ている。
「アルト君、秋になったね!」
「う、うん。秋だね……」
おもむろに季節が移り変わったことを発言して来たルーシーに、アルトは目を細めた。
現在は日曜日であるので、アルトは昼食を摂るべくいつもよりも早い時間に事務所に足を運んでいた。
二人は、給湯室に置かれている簡易的なダイニングテーブルを囲み、食事をしている。ちなみに本日のメニューは、ベーコンと玉ねぎのパスタである。
「やっぱり、君の料理は落ち着くな」
「そう言ってもらえると嬉しいけど、どうかしたの?」
急に自分の料理が褒められて、ルーシーはむず痒く思ったが、普段彼はあまり自発的にそう言った発言をしないので純粋に疑問にも思った。
「うん。料理ってさ、難しいなと思って」
「そっか、アルト君ってシェアハウスで一人暮らしをしているんだっけ」
「そうなんだ。一人暮らしも長いけど、自炊はいまだに慣れないよ」
その言い草にアルトの私生活が垣間見れ、一気に好奇心が沸き立つ。
「アルト君ってご家族と離れて生活しているんだよね。ご家族はどこに住んでるの?」
アルトの動きがピタリと止まるが、すぐに朗らかな表情に戻る。
「家族は一年前に転勤して今は外国に住んでいるんだ。だけど僕はこの街に残りたかったから、一人シェアハウスに部屋を借りて住んでいるってわけ」
「そうだったんだね! そう言えば私、アルト君の事情をちゃんと知らなかったから、思い切って聞いてみて良かった」
「そっか、あまり僕自身のことは話したこと無かったもんね」
「うん。連絡先は聞いていたけど、家族の事情とかは知らなかったな。でも、アルト君のことを知ることが出来て嬉しいな」
アルトは片目を瞑り、再びパスタを口に運ぶべくフォークにパスタを巻きつける。
(この流れで、ルーシーの情報も聞き出すべきか。……そうだな。今なら自然な形で聞き出せる可能性が高い)
「ルーシー。そう言えば君ってさ」
「うん、どうしたの?」
「君の出身って何処だっけ?」
その質問はごく自然に投げかけられたが、その実アルトの目は全く笑っておらず鋭い光を帯びている。
「私の出身? リール市だけど、どうかしたの?」
リール市は公都の北東に位置し、豊かな自然あふれる穏やかな土地である。
「そうだったんだ。学校を卒業してこっちに移って来たの?」
「うん、そうなんだ。最初はリール市で何でも屋を開こうとしたんだけど、開業資金を殆ど持っていなかったから難しくて。だから公都の何処かでバイトをして資金を貯めようと思ってたんだけど、学生時代にダメ元で応募したここの事務所のテナント使用権が幸運なことに当選してね! それからはあれよとことが進んで、無事に四月から開業出来たんだ」
その説明に不自然な点は無いだろうかと巡らせると、ある点が気にかかった。
「ここのテナントってとても高い倍率なんだよね? 良く当選したよね」
「そうだよね! 私もそう思ってたんだ。とても運が良かったんだなって」
「運……」
果たして、その言葉だけで結論を出しても良いものなのだろうか。この事務所の当選倍率は約百倍あり、確率にすると一パーセント以下であった。
それを運が良かったと一言で言い表しても良いものなのか、アルトはふと疑問に思う。
「そうだ、ルーシー。君のカチューシャのことなんだけど」
「カチューシャ?」
今度は先程とは打って変わり、身体の動きを止めてアルトを覗き込む。明らかに動揺しているように見受けられる。
「それってずっと身につけているけど、とても大切な物なんだね」
ルーシーは思わずカチューシャを外して、それを握りしめた。
「……うん。これはね、私の故郷での唯一の友達からもらったんだ。肌身離さず身につけていてねって贈ってもらったの」
「友達が、それを……」
「本当のところ、この白くて綺麗なカチューシャ合うように、いつも白い服を身につけているんだよ」
「ああ、そう言うことだったんだ」
ルーシーは、どの季節でも大方白のワンピースを身に着けている。それは季節毎に袖の長さや生地の厚み等の違いはあるが、殆ど同じようなデザインの物だった。
「あのさ、ルーシー。君のカチューシャだけど」
そう切り出した途端、ドアベルの音が鳴り響いた。
「こんにちはー」
「はーい!」
ルーシーは慌てて玄関まで小走りで向かうと、そこにはすでに客人が立っていた。
「すみません、依頼をお願いしたいんですけど」
「はい、かしこまりました。こちらへどうぞ」
足早に応接スペースに案内するルーシーを、アルトはそっとため息を漏らして見守っていた。
□□□□□
「球技大会の仲間を集めて欲しい?」
「はい」
そう応答したのは、フランツと言う二十八歳の男性だった。彼はサラサラとしたブロンドが印象的な青年だ。
「来週の日曜日に、ノーツ高校の体育館で市民サークルの球技大会が行われるんですが、バスケの選手が三人ほど足りなくて。ネットで募集をかけてみても中々集まらなかったので、ここに相談させてもらいました」
「……なるほど、分かりました」
その後は詳細を聞き、依頼料のみ受け取り今日は帰ってもらった。
ルーシーは「ノーツ高校の」と聞いた時点で彼を呼び出したかったが、客の前なのでなんとか衝動を抑えたのだ。
「アルト君さっきのお客様がね、ノーツ高校の体育館でバスケの試合をやるんだけど、人が集まらなくて困ってるんだって」
(ノーツ高校……)
アルトは苦笑いしながらも詳細を聞くことにした。
「アルト君もノーツ高校に通ってたよね。誰か友達で良い感じの人いないかな。依頼主さんは高校生も大歓迎だって言ってたし」
「……そうだね、どうだろう」
アルトは珍しく言葉を濁したのであった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回もお読みいただけたら幸いです。
ブクマ、↓広告欄の下にある⭐︎でのご評価をいただけたら嬉しいです!




