第19話 花火と涙
ご覧いただき、ありがとうございます。
「ただいま戻りました!」
あれから約五分後。
ルーシーとアルトは目当ての食材をスーパーで購入すると、再び加速魔法を使用して河川敷の祭り会場へと戻っていた。
「お帰りなさい。良かった、あと三食くらいでバナナもイチゴも無くなりそうだったから、助かったわ!」
「間に合って良かったです! すぐに準備します!」
ともかく二人は再び手洗いや消毒を終えると、手早く持ち場に戻り各々の役割をこなしていった。
「いらっしゃいませ。どのクレープにしますか?」
「えっと、うーん、じゃあチョコバナナにしようかしら」
「チョコバナナですね。分かりました。少々お待ちくださいね」
接客業の経験がないというジークは、客に対する言葉遣いは辿々しいものもあるが、その言葉は彼の飾らない態度や表情が伴って、客に対して特に不快感を与えていないようだ。
「はい、お待たせしました。代金は五百ジェルね。はい、ありがとう。祭り楽しんでってね」
「ありがとう、お兄さん。お兄さんも楽しんでね」
クレープを受け取った女性の表情は穏やかで、嬉しそうだ。
この調子で、ジークは女性客のみならず老若男女問わず周囲の祭り客を引き寄せていき、結果予測していた数よりもはるかに上回るクレープが販売され、食材が不足したのである。
「相変わらずお客さんが途絶えないですね! ジークさんの接客のおかげでしょうか」
「なんだろうな、特に変わったことはしていないんだけど」
「……自然に、こう言うことができる奴なんだよな」
遠い目をしてアルトは呟くと、ふと自身の腕時計に視線を移した。
「そろそろ時間だな。……そう言えばルーシー、君って」
「ん? どうしたの、アルト君」
クレープにイチゴを乗せていると、今まで黙々と作業をしていたアルトがふいに声をかけたので不思議そうな顔をする。
「そういえば、君って……」
ヒューーーーーー…………ドカン…‼︎
たちまち周囲に大爆音が響き渡り、人々は一斉に夜空を見上げた。
この場所にいる大方の人々は毎年のことで慣れているのか、そもそもそれを承知の上で集まっているので、皆その光景を見ると表情を和らげ、中には興奮して大声を上げている者もいる。
ただ、一人を除いて。
「キャアアアアアアア‼︎」
ルーシーは悲鳴を上げ、腰を抜かしてそのままその場でしゃがみ込んでしまった。更に目を固く閉じて、両耳を手で塞ぎうずくまる。
(恐い、恐いよ……)
「ルーシー」
アルトはルーシーの前に自身もしゃがみ込むと、彼女の耳を塞いでいる手にそっと自身のその手を重ねた。
「恐い、恐いよ。……皆殺されちゃう。村が襲われたみたいに、皆あいつに殺されちゃう……‼︎」
(故郷の、村? 皆が殺される……)
尋常じゃないルーシーの怖がり方に、アルトは直感的に彼女に対する推測が確信に変わった様に感じたが、ともかく今は少しでも落ち着かせるのが先決だと判断し、そっとルーシーの頭をその手で優しく撫でた。
「大丈夫だ、ルーシー。ここは故郷の村じゃない。……それに、この音は君にとって、いや僕たちにとって無害なものなんだよ」
言葉の意味を飲み込むのに時間がかかったが、しばらくするとそっと目を開いた。そこには心配そうに覗き込むアルトがいて、彼を見ると表情を和らげた。
「これは、打ち上げ花火が上がっている音なんだ」
「……はなび?」
「うん。無理はしなくていいけど、もしできるようなら、ゆっくり夜空を見上げてみて」
アルトが握る手が徐々に体温を取り戻していく。
ルーシーが深呼吸をしながら、恐る恐るゆっくりと夜空を見上げて見ると、そこには──
夜空に幾つもの彩豊かな花が光り輝き、そして儚く散っていく。
「……綺麗。……世の中には、こんなにも綺麗なものがあるんだね」
涙が止まらなかった。何故かは分からないが、この光を見ていると自分の心が慰められる、そう呟いた。
アルトはそっと自身のポケットからハンカチを取り出し手渡した。
「慰霊、だから」
「いれい?」
「……うん。これは亡くなった人たちを慰める為にも行っている、らしいよ。だからきっと綺麗に感じるんじゃないのかな」
そう言って、何処か物哀しそうな表情をするアルトを見ていると、ルーシーは何故か、「アルト君も私と同じだったんだ……」と呟いた。
「アルト君も、身近に亡くなった人がいるの?」
「…………」
アルトは大きく目を見開き、少しだけ、はにかむ様な笑顔を浮かべたが特に返事をせずに立ち上がった後、腕を伸ばしルーシーが立ち上がるのを補助した。
「わあ、大変だ‼︎ うずくまってた間にも、お客様が来てるよね‼︎」
まだ仕事中なのにしでかしてしまったと、ルーシーは再び手を洗い始めるが、よく周囲を見てみると客足はまばらのようだ。
「大丈夫? こっちは、花火が始まったら皆そちらに集中しているのか、客足は大方途絶えていたから大丈夫よ。それに、もう少しでお店も終わりだし、良かったら少し休憩してきたら?」
アマンダは心配そうに眺めるが、ルーシーは小刻みに首を横に振る。
「いえいえ、大丈夫です! お騒がせしてすみません!」
忙しなく持ち場に戻るルーシーを横目に、ジークは何か言いたげそうにアルトを見ていた。
□□□□□
そうして、二十一時の営業時間が終わると、忙しなく屋台の片付けを終え、各々解散となったが、夜も遅いのでルーシーはアルトとジークに事務所まで送ってもらうこととなった。
バスに乗り込座席に座り、前席に座った二人に対して頭を下げる。
「今日は、本当にありがとうございました! これ、少ないですけど、良かったら受け取ってください!」
と言ってそれぞれに封筒を差し出した。ジークはアルトに対して何処か呆れた様な目線を投げかけるが、アルトは気にせず首を横に振った。
「いや、今日は僕たちも楽しかったし、気持ちだけもらっとくよ」
「いや、流石にそんな訳には……」
「じゃあさ、今度俺もルーシーのご飯を食べに行っていいかな? アルトが毎日の様に君のご飯食べに行ってるから気になってたんだ」
「あ、あんな貧乏料理で良ければ、は、恥ずかしいですけど……」
アルトは無言でジークを睨み、加えてジークがすっかりルーシーのことを呼び捨てで読んでいることも何処か気に食わないと思うが、ふとあることを思い立つ。
「じゃあ、その時はソフィアも呼ぼう。皆で食べた方が美味しいだろう?」
「……そうだな」
「あれ? ジークさんってソフィアさんと知り合い何ですか?」
「ああ、そうなんだ。そもそも俺たち二人は、ソフィアの親父さんが経営している会社が運営しているシェアハウスに住んでるからな」
ルーシーは一瞬固まった。
(ん? ソフィアさんのお父さんが、会社を経営していて、えっと、んん?)
「よく分からないけど、ソフィアさんって何だか凄いんですね!」
「うーん、まあ、そうだな!」
そうこうしているうちに、いつの間にかバスはルーシーの事務所の近くの停留所に停まっていた。
「それでは、今日はありがとうございました! あ、アルト君。ハンカチはまた事務所に来てくれた時に渡すからね!」
「うん、分かった。ありがとう」
ルーシーを見送ると、他に乗客にいないガランとしたバスの中にジークとアルトはただ並んで座っている。
「なあ」
「何だ」
「……ルーシーを巻き込むのか?」
ジークの問い掛けに、アルトは表情を変えずに小さく首を横に降った。
「そのつもりは無い。……ただ、お前たちも当然気がついているんだろう。彼女が何故ここにいるのか。……このまま何も対処せずにいれば、巻き込まれるのは俺たちの方かもしれないな」
これ以上会話は続かず、ただバスは夜の街を静かに走行していくのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
今話で今回の依頼は終了となります。そして9月の依頼は物語が進んだ上、何処かで閑話として描く予定です(物語にも関わってくるお話なのですが)
次回からは10月の依頼が始まる予定です。お付き合いいただけると嬉しいです。
ブクマ、↓広告欄の下にある⭐︎でのご評価をいただけたら嬉しいです!




